アフガニスタン駐留米軍司令部が、これまで定期的に出していた情勢評価を取りやめたことが2019年5月1日、明らかになった。アフガニスタン政府軍と反政府武装勢力の、それぞれの支配下にある地域と住民数を記した情勢評価は、対テロ戦争の進展具合を測るうえで重要な公的情報だった。
駐留米軍は、情勢評価が司令官たちの「意思決定にとって限られた価値しか持たなくなった」と言明した。だが、つい1年半ほど前の17年11月まで、当時のアフガニスタン駐留米軍司令官は情報評価を「反乱勢力に対抗するうえで最も効果的な判断基準」と呼んでいたのだ。
情勢評価は少なくとも10年以降さまざまな形で出されてきたが、米政府のアフガニスタン復興特別監察総監による最近の四半期報告書で取りやめが公表された。
「我々は情勢評価とりやめの判断に困っている」。監察総監のジョン・ソプコはあるインタビューで語った。「アメリカンフットボールの試合でスコアボードを消して、タッチダウン(6点)をとるかフィールドゴール(3点)にするかはどうでもいい、と言うようなものだ」と。
報告書によると、アフガニスタン駐留米軍司令官は、アフガニスタンの全407地区を網羅してきた情勢評価は「主観的なもの」であり、評価する「モデルが不正確」なため、分析結果を出すのが難しかったと監察総監に伝えた。
米軍が主導する連合軍広報官のデイブ・バトラーは「我々は米国の利益を守るために、政治解決(訳注=アフガニスタン反政府武装勢力タリバーンとの和平協議)の条件を設定することに集中的に取り組んでいる」とニューヨーク・タイムズ紙に寄せた声明で述べるとともに、情勢評価は「米国市民と同盟側を守るという我々の任務にほとんど役立たなかった」と述べた。
さらにバトラーは、情勢評価に盛り込まれる情報はすでに諜報(ちょうほう)機関によってソプコに提供されているとも付言した。
だが、ソプコは言った。米軍とアフガニスタン政府軍は、タリバーンと同様、アフガニスタンで何が起きているのか良く分かっている。それなのに、情勢評価を取りやめるのは一般市民にとって重要な情報公開を断ち切ることになる、と語った。同時に、彼や米国議会の多くの議員は一般には公開されない機密情報にアクセスできた、とも明かした。
「現地で何が起きているのか。我々がやっている仕事はどれほど良いのか悪いのか。それを知らされない唯一の人びとが、我々のために税金を払っている人びと、すなわち米国の納税者だ」とソプコは言った。
米国防総省の情勢分析に異議を唱えた軍事評論家のビル・ロッジオは、駐留米軍の情勢評価報告は最近、特に都市部以外でアフガニスタン政府軍の管理下にある地域が縮小していることを示している、と言い立てた。
「地区ごとの情勢評価では失敗が目立っている。米軍が望んでいた成功のメッセージとは正反対だ」とロッジオはメールで語った。「もし情勢評価がアフガニスタン軍部による失地回復を明示してきたなら、間違いなく米軍は情報を出し続けるだろう」とロッジオは述べた。
ソプコの四半期報告書は、情勢評価には限界があるものの、「アフガニスタンの治安状況の変化を継続的に追ってきた」米軍が提供する「唯一機密扱いされずに公開されてきた測定基準」だった、と明記した。
18年に及ぶアフガニスタン紛争。その情報宣伝を制限する情勢評価の取りやめは最新のことだが、米軍は17年10月にもアフガニスタン治安部隊の死傷者数を報告しなかった。死傷者数が、現在米国防総省が容認できるとしている限界に近付いたためだった。
機密扱いや制限の対象には、アフガニスタン治安部隊の能力評価や政府軍の作戦即応態勢および警察装備に関する情報もある。さらに、アフガニスタン内務省による反腐敗作戦、一定の治安基準に達するためのアフガニスタン軍部の進捗(しんちょく)具合の関連情報もそうだ。
18年9月までアフガニスタン駐留米軍司令官だったジョン・ニコルソンは17年11月、記者たちに語った。地区と住民人口に関するデータは「我々にとっての主要ファクターだ」と。さらに彼はアフガニスタン政府が19年末までに全人口の80%を支配下に置くことができるよう期待している、とも語った。
米軍による最新の情勢評価は同年1月に発表されたもので、18年10月までの3カ月間が対象。それによると、アフガニスタン政府は、人口の63・5%を含む地域を支配していたが、その前の四半期に比べると1・7%の減少だった。
また報告書によると、タリバーン側の攻勢で人口の10・8%が住む地域が反政府勢力側の支配下に置かれた。それ以外の地域は紛争中とみられた。
米国防総省は、その時点でデータが「不正確」かつ「主観的」であるとして、情勢評価は米軍の戦略の「効果を示すものではなかった」と述べた。米軍が初めて自らの判断基準を批判した、とソプコは語った。
軍事評論家のロッジオは米シンクタンク「民主主義防衛財団」の上級研究員だが、米ニュースサイト「Long War Journal」で共著した分析文書で、アフガニスタン政府が管理下に置いているのは人口の48%で、タリバーンの支配下にいるのが9%、残る地域は紛争下にあると指摘した。
一方、監察総監の報告書によると、アフガニスタン政府側の死傷者数は18年12月から19年2月までの間、前年同期に比べ31%も増加した。また反政府勢力の攻撃は18年11月から19年1月にかけて激化し、その前の18年10月までの四半期より19%も攻撃回数が増えた、としている。
こうした数字は、カタールの首都ドーハで行われている米国とタリバーンによる和平協議を有利に進めようと、双方が戦闘のペースを上げていることを示唆している。19年4月12日、タリバーンは春季攻勢の開始を宣言した。
同報告書によると、アフガニスタンの政府軍と警察部隊は公認の人員レベルに達していない。政府軍は公認された人員22万7千人より3万6千人も少なく、警察部隊は公認されている12万5千人より6600人少なかった、と指摘した。
政府軍も警察部隊も、汚職やひどい統率力、それに兵員の脱走という問題に悩んでいる。司令官の中には、兵員数を水増しして「幽霊兵士」をでっちあげ、余分な給料を着服する者までいるという。
米国内でも、パイロット養成授業に通うアフガニスタン人研修生の40%以上が無断欠勤(AWOL)するという事態が発生。その後、国防総省は養成授業を閉鎖した、と報告書は述べている。ソプコは、軍事訓練を受けているアフガニスタン人のAWOLの比率は、その他の国々からの研修生より高い、と述べた。
報告書は、たとえ和平合意が達成されたとしても、アフガニスタンにおける米国の軍事・復興の努力は長年にわたる幾多の障害に直面することになるだろう、と警告した。そして①不安の拡大②地域特有の汚職③女性の権利向上を阻むさまざまな脅威④麻薬違法取引の横行など8項目の重大関心分野をリストアップした。
米国は、タリバーンの資金源に役立っているアヘンの生産と密輸を阻止するために02年以降90億ドルを投入してきた。それでもアフガニスタンはケシの栽培では世界のトップを走り続け、国連薬物犯罪事務所(UNODC、本部・ウィーン)によると、17年には最高を記録した。
報告書によると、米国が01年以降アフガニスタンに投じた費用は7800億ドル。うち1330億ドルは復興目的だった。
米国とタリバーンの和平協議は、米軍の撤収と引き換えにアフガン国内でのテロ攻撃の中止をタリバーンが保証するという枠組み合意に達した。しかし、戦闘は拡大し、反政府勢力による市民攻撃は続いている。
「和平合意に署名したからといって危険性が自動的に解消されるということはない」。ソプコは言った。「我々が議会や政府に言っていることは『先のことを考えろ』に尽きる」。(抄訳)
(David Zucchino)©2019 The New York Times
ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから