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1000人にたったの2台 世界有数の「車を持ちにくい国」エチオピアの事情

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アディスアベバ市内の中古車店。多くが日本製の小型車だ=五十嵐大介撮影
アディスアベバ市内の中古車店。多くが日本製の小型車だ=五十嵐大介撮影

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乗り合いタクシーに長蛇の列

3月の金曜日の夕方、首都アディスアベバの幹線道路沿いを訪れると、家路につく人たちが歩道に数百メートルはあろう長い行列をつくっていた。乗り合いタクシーのワンボックスカーを待つためだ。

「タクシーを捕まえるため、毎日30分から1時間は列に並ぶ」。大学生のレベッカ・アブラハム(21)はそう話す。家から学校まで、約20分かけて通う。乗り合いタクシーの料金は、通常3ブル(約12円)だが、混んでいる時は値段が上がり、10ブル(約39円)になるという。「車を買いたいが、とても高くて手が出ない」。多いときには、ライトバンのような車に18人も詰め込まれるという。

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金曜日の夕方、乗り合いタクシーを待つ人たちが、長い行列を作っていた=アディスアベバ、五十嵐大介撮影

そんな彼女も、「働き始めたら、車を買いたいと思っている」。どんな車が欲しいのかと聞いてみると、「(トヨタの)ランドクルーザーのV8」と答えた。この国では、政府関係者ぐらいしか乗っていないような高級車だ。値段を聞くと「500万ブル(約2000万円)はする」と言う。「家を買うみたいだね」と聞くと、彼女も「そうね。そもそもお金も持っていないし」と笑い出した。

エチオピアでは、輸入された自動車に高い税金をかけている。輸入車には、関税や物品税など何種類もの税金が課されており、高いものでは税率は300%にものぼるとされる。外貨不足にあえぐエチオピアが、国内に自動車工場を誘致するためだ。

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乗り合いタクシーを乗り継ぎ、1時間以上かけて通勤する男性(35)。4、5年かけてお金をためており、近くトヨタの小型車を買う予定という=アディスアベバ、五十嵐大介撮影

そんな事情もあり、エチオピアは世界有数の「車を所有しにくい国」となっている。監査法人デロイトの2014年の調査では、エチオピアの人口1000人あたりの自動車数は2台しかない。1000人あたりで800台近くある米国と比べると、雲泥の差だ。

エチオピアのような貧困層が多い低所得国にとって、教育や医療、インフラ整備のため、政府が財源を確保するのは容易ではない。自国産業を守るうえでも、輸入品にかける関税は、貴重な歳入源でもある。

18年落ちの日本車が160万円

本当にそんなに車が高いのか? アディスアベバ市内の中古車店「フレンズ・カー・インポーター」を訪ねると、トヨタ・ビッツなどの小型の日本車がひしめくように並んでいた。置いてある車すべてが日本車だという。日本語のステッカーも、そのまま窓ガラスに貼られている。車庫証明証には、「東大阪」「鹿児島」「広島」などの表記がみえる。

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アディスアベバ中心部に駐車されていた日本車。「保管場所標章」には「福岡県大木町」と書かれていた=五十嵐大介撮影

共同経営者のテオドロス・ダニエル(34)に尋ねてみた。「税金のこと? 車の年式、排気量などによって違うんだ」。彼は、薄暗い事務所に招き入れて説明をし始めた。

「たとえば、この車。値段は39万5000ブルだよ」。指をさした先にあったのは、事務所の目の前にとめられた、青の古びたトヨタの小型車プラッツ。2001年製。これが、日本円で約160万円もするという。日本の中古車販売サイトで同じような車種を調べると、平均価格は20万円ほどだった。日本の値段の8倍だ。国民1人当たりの所得が年1000ドル(約11万円)にも満たないとされるエチオピアでは、年収の10~20倍にあたる。日本人からしてみれば、家を買う以上の負担感だ。

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テオドロスの店にあった、2001年製のトヨタ・プラッツ。これが約160万円するという=アディスアベバ、五十嵐大介撮影

「このうち、約20万ブルが税金だ」。テオドロスはそう付けくわえた。要するに、車の値段の半分が税金というわけだ。でも、どんな人が買うの? 「普通の人は買えない。銀行員とか、給料のいい人だけだよ」と、テオドロス。

彼によると、これらの中古車は、インドやパキスタンの業者が日本で買いつけた後、中東ドバイに運ばれる。エチオピアの業者はドバイに行って車を買いつけ、アデン湾に面したジブチの港を経由して、内陸国エチオピアに運んでいるという。高い関税に加え、日本仕様の右ハンドルを左ハンドルに取り換えるなどのコストもかかる。

さきほどの青いプラッツのドバイでの値段を聞いてみると、「7000ディルハム(約21万円)ぐらい」と答えた。ドバイから東アフリカのエチオピアに持ってくるだけで、値段が8倍に跳ね上がる。

「こんな古い車、日本で走っているかい? こんな車でも、エチオピアでは普通の人は買えないんだ」。テオドロスはそう言った。「税金がなければ、間違いなくもっと安く売れる」

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中古車店の共同経営者、テオドロス・ダニエル(34)。客の中には30代ぐらいの若者もいるが、どうやってお金を調達したかは「ミステリー」だという=アディスアベバ、五十嵐大介撮影

それでも、彼は高い税金に反対はしていないという。「我々のような貧しい国にとって、中古車ですら娯楽のようなものだ。1日3度の食事が満足にできない多くの人のためにも、税金を払わないといけない。税金さえあれば、インフラなどにお金が使える」

エチオピアでは、中国メーカーも自動車の組み立て工場をつくって生産を始めており、「リファン」と呼ばれるブランドの車を販売している。だが、報道によると、売れているのは年間わずか1000台ほど。エチオピア人の日本車への支持は強く、日本車よりも安いにもかかわらず、ほとんど売れていないという。

夕暮れ時、アディスアベバ中心部の幹線道路は、大渋滞となる。古い車が多いせいか、排ガスやほこりでのどが痛くなる。エチオピアを走る平均的な車は、製造後15~20年たっているといわれている。車が安くなって車に乗る人が増えれば、この渋滞はさらにひどくなるだろう。一方で、新しい車が増えれば、排ガスの汚染は軽くなる面もある。

改革派の若きアビー首相は今後、どんな自動車政策を取っていくのだろうか。成長著しいアディスアベバの高層ビル群を眺めながら、この国の未来に思いをはせた。