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「フランスのファーストレディー」実は気さくな横顔が見える本

Bestsellers 世界の書店から
西岡臣撮影

ファーストレディーの姿は、時代やその人柄を反映して変化する。控えめな妻の役割に徹したド・ゴール夫人。人道活動に精力を注いだミッテラン夫人。夫を支えつつ政治家としても活躍したシラク夫人。

モデル・歌手という華やかな顔を持つサルコジ夫人は3人目の妻。非婚を貫くオランド前大統領は在任中にパートナーを乗り換え、関係性の不安定さがマイナス要因になった。反対に、現マクロン大統領夫妻ほど、公私ともにがっちりスクラム組んだ大統領夫妻も珍しい。

『Madame la Présidente (大統領夫人閣下)』を著した2人の女性記者は、39歳という異例の若さで大統領の座に上り詰めた時代の寵児の傍らで、国民にも人気の高い夫人がどのように動き、どのような形で影響力を及ぼしているのか、側近や近親者たちの証言を積み上げて、その実像へ迫ろうとした。

ブリジットは大統領の「錨であり磁石であり浮標」だと表現されている。大統領選では演説を終えるたび、「ブリジットはどこだ?」と妻の姿を探したマクロン氏。当初から夫人はマクロン氏のコーチであり、腹心だった。当然、取り巻きたちから煙たがられている。夫人は大統領府をめぐるすべての動きに通じており、最近の例では教育大臣の任命に見られるように、彼女の入れ込みが人事に直接影響することも。だが、政治を裏で操る悪女のイメージからはほど遠く、側近の健康を気遣い、ユーモアをふりまき、大統領府に仕える人たちにも細やかな配慮を欠かさない。超切れ者のマクロン氏が左脳なら、感性豊かな夫人は右脳。一心同体が常態なのだ。

高校のフランス語教師だった夫人は、生徒であったマクロンと恋に落ちた。ブリジットにとって、24歳という年齢差や容姿を揶揄されることは今に始まったことではない。だが、「ファーストレディーになる」道はさらなる棘の道でもある。マクロン政権打倒を叫ぶ「黄色いベスト運動」の矛先を向けられ、「マリー・アントワネット」と攻撃されたことも。だが、ブルジョワ家庭出身でありながら、夫人は大衆番組を楽しみ、庶民的チェーン店で食事をするのが楽しみという側面も持つ。ともかくも、全身全霊で「運命の人」に賭けたひとりの女性の姿は、人間的であると同時に型破りだ。

■哲学者のエッセイもベストセラーに

政治関係のエッセイが多い中、今回のベストセラーには哲学者たちのエッセイが複数点加わっている。

ラファエル・エントヴェンは43歳。ラジオやテレビの文化番組で、 実生活における哲学の実践を提唱してきた。また、時事問題へのコメンテーターとして、さまざまなメディアで活躍している。

前作『暫定的道徳』に続くエッセイ『"Nouvelles morales provisoires"(新・暫定的道徳)』は、 デカルトにあやかって、時事問題を「哲学的方法」で斬ってみせようというもの。私たちは日々、膨大な情報の洪水に溺れそうになっている。エントヴェンは、ひとつひとつのニュースを哲学的視点で捉えれば、面白さも深みも増すことを教えてくれる。

 「公にさらす、すなわち隠す」

 「何かを変えるためにすべてが変わるのを待つなら、何も変わらない」

 「独立と自治のちがいはなにか」

それぞれ章のタイトルだが、1番目は、意図的に流されたマクロン大統領の映像の分析を。2番目は、急進左翼政党の批判を。3番目は、スペイン・カタルーニャの独立問題をめぐって、論が展開されている。ひとつのテーマにつき、2,3ページの短いエッセイなので読みやすい。売れっ子哲学者は、流れるものの中に普遍のものを見極める手立てを示してくれている。

 

もうひとりの時代の寵児、ミシェル・オンフレは60歳。既成の大学組織を飛び出し、北のカーン市にて、一般人に無料で哲学の講義を開設し、昨年まで16年間にわたって続けてきた。メディアにもよく登場し、多作で知られる人で、500ページに及ぶ今回の『Sagesse(叡智)』が100冊目に当たるそうだ。副題に、『火山の麓でいかに生きるか』とある。 

古代ローマに範を取り、ベスビオ火山の噴火によって死が目前に迫りながら、最期の時をローマ人はどう生きたのか、生きるべきか、を著者は問う。やはり火山国かつ地震国に住む私たちにも身につまされる話だ。火山はいつ爆発するとも限らない。そして、いつかは必ず爆発する。

ルクレティウス、キケロ、セネカ、プルタルコスら、ローマ時代の哲学者たちの思想を単に並べて紹介するといった類の著作ではない。

「いかに老いるか」「いかに死を手なずけるか」「いかに所有されることなく所有するか」など、どこの国のだれの身にも切実な哲学的命題を、ローマ時代の哲学者たちとともに考えてゆく。どちらかというと観念的なギリシャ時代の哲学者に比べ、「実践的かつ具体的で有用な叡智」に溢れるローマの哲学者たちに、著者はとことん肩入れしているようだ。

ハリウッドが売ったイメージが先行しがちだが、見世物に使われた奴隷の剣闘士集団(グラディアートル)についても新たな光が当てられ、避けられない死を前にした時、人間が到達し得るひとつの理想の姿を、オンフレはそこに透視しているかのようだ。

ローマ帝国が滅亡したように、私たちはそうとは知らずに、終末の迫った時代を生きているのかもしれない。それでも、「よく死ぬことは、すなわちよく生きること」。今こそローマ時代の哲学者の言葉が力を持つのだと、オンフレは情熱を込めてその膨大な知識を読者と分かち合おうとしている。

 

フランスのベストセラー(エッセイ部門2月27日付L’Express誌より)

『 』内の書名は邦題

1 A nous la liberté!

Chritophe André, Alexandre Jollien, et Matthieu Ricard クリストフ・アンドレ、アレクサンドル・ジョリアン、マチウ・リカール

精神科、哲学、仏道の3人の賢者による、内面の自由を獲得するための手引書。

2 Vital !

Frédéric Saldmann フレデリック・サルドマン

健康書が毎回ヒットを放つ医師の最新刊。今回は衛生学に焦点が当てられる。

3 Madame la Présidente     

Ava Djamshidi, Nathalie Schuck  アヴァ・ジャムシディ、ナタリ・シュック

マクロン大統領に多大な影響力を持つ夫人の舞台裏での役割に迫る。

4 Le Président des ultra-riches

Michel Pinçon, Monique Pinçon-Charlot ミシェル・パンソン、モニク・パンソンシャルロ

マクロンは金持ちのための大統領と言われる。その真偽を社会学者夫妻が検証。

5 Nouvelles morales provisoires

Raphaël Enthoven ラファエル・エントヴェン

ニュースの洪水に溺れることなく、時事問題を哲学で斬ってみせる。

6 Sagesse. Savoir vivre au pied d'un volcan

Michel Onfrayミシェル・オンフレ

文明の崩壊を前にどう生きるか。ローマに範をとった哲学者100冊目の著作。 

7 Sorcières. La puissance invaincue des femmes

Mona Cholletモナ・ショレ

「魔女」の分析を通して、今日を生きる女性たちの地平を切り拓く試み。

8 Devenir

Michelle Obamaミシェル・オバマ

世界的ベストセラーになったオバマ前米大統領夫人の自叙伝。

9 Sapiens. Une brève histoire de l'humanité

『サピエンス全史』(河出書房新社)

Yuval Noah Harariユヴァル・ノア・ハラリ

イスラエルの歴史学者が人類の歴史を俯瞰する世界的ベストセラー。

10 Histoire de ta bêtise

François Bégaudeau フランソワ・ベゴドー

政治をめぐる安易な思考回路を斬って捨てる、マクロン支持者への辛辣な批判の書。

 

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