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増え続ける米国のヘイト集団、いまや1千超 人権団体が指摘

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:

米国内で活動しているヘイトグループの数は2018年、4年連続で増加し過去最高となった。政治の分極化、反移民の機運、それにオンラインでの宣伝活動を拡散する情報技術が重なったためだ、という。米NGO南部貧困法律センター(SPLC)が19年2月20日に発表した。

SPLCによると、18年のヘイトグループ数は前年より7%増えて1020を数えた。14年から30%も増えたという。ヘイトグループの増加による憂慮すべき事態は他の調査でも見られ、15年から17年まで連邦捜査局(FBI)に通報されたヘイト犯罪は30%増えている。また、「反中傷連盟」(ADL、訳注=米最大のユダヤ系団体)の調査でも、18年に右派勢力による暴力事件で少なくとも50人が殺害された。

20日に会見したSPLC情報企画部長Heidi・Beirichは「あしき傾向がたくさん出ている」と語った。「ヘイトグループが増え、ヘイト犯罪も増加している。それに同調するように国内テロも増えている。やっかいな悪循環だ」

Beirichによると、彼女の調査チームが追跡している過激派の活動が本格的に増え始めたのは、移民をめぐる有権者の不安が追い風になってドナルド・トランプが大統領になった16年大統領選の初めの頃からだ。それまでヘイトグループは3年連続して減少していた、という。

「トランプは白人至上主義に関わっていた人たちを政治の世界と公の場に引き戻した」とBeirich。「彼はその原動力の重要な部分を担った。しかし、ヘイトグループが増えたのは彼のせいだけではない。決定的なのはオンライン空間でヘイトを宣伝する力のすごさにある」

SPLCは声明文の中で、米国内のほとんどのヘイトグループはネオナチ、KKK(クー・クラックス・クラン)、ネオ・コンフェデレーツ(neo―Confederates、訳注=1861年に米南部諸州が創設し、アメリカ合衆国からの独立を宣言した「アメリカ連合国」の分離主義を評価し直すべきだと主張する人びと。アメリカ連合国は南北戦争で敗北し1865年に消滅した)、白人国家主義者を含め、何らかの形で白人至上主義のイデオロギーを信奉していた、と記した。白人国家主義者グループの数は2018年、それまでの100から148団体へ50%近く増加した。

調査研究にあたって、SPLCはリーダーの発言や活動指針の声明で、特定のクラス(階層)全体を攻撃している組織を「ヘイトグループ」と見なした(訳注=SPLCのホームページによると、これらのヘイトグループは人種、宗教、民族性、性的指向など変えることのできない人びとの資質に対し、その資質を理由に中傷している)。一方、暴力行為は必要条件とはしていない。

19年1月、ADLの過激主義センター(Center on Extremism)は米国内で過激派が関連した死亡事件の報告書を発表したが、今回のSPLCの発表はこの報告書に沿った内容となっている。

ADLの報告書では、2018年に過激派が関連して起きた殺害事件はADLが追跡しただけで少なくとも50件あり、すべて右翼の過激主義が絡んでいた。ジハード(訳注=イスラム過激派の「聖戦」)のグループはいっさい絡んでいなかった。1995年にオクラホマシティーで起きた爆弾テロ事件(訳注=連邦政府ビルが爆破され少なくとも168人が死亡)以後、右翼の過激主義による犠牲者数としては18年が最悪となった、と指摘した。

同年10月、ペンシルベニア州ピッツバーグのユダヤ教礼拝所「ツリー・オブ・ライフ・シナゴーグ」で11人が殺された銃乱射事件が起きた。この事件についてSPLCとADLは、反移民感情に暴力が加わり、オンラインで謀議をあおってますます火に油を注ぐ状況になっているという共通の見方を示した。

「白人至上主義者によるピッツバーグ銃乱射事件は、憎悪をあおり立てる言葉がいかに悲惨な結果をもたらすか、その警鐘と受け止めるべきだ」。ADLの報告書に添付された声明の中で、代表ジョナサン・グリーンブラットはそう述べるとともに「我が国の指導者たちは事態の重大さをきちんと認識し、右翼の過激主義の弊害に対応するよう資力を注ぐべきだ」と語っている。

しかし、反移民感情は「同じながら、正反対の反応」ももたらしている、とSPLCは言った。すなわち白人至上主義グループが増えると過激な黒人国家主義グループも同様に増加した。彼らはしかし反白人、反ユダヤ主義、あるいは同性愛やトランスジェンダーに反対する思想を信奉している。

SPLCによると、黒人国家主義グループの数は17年の233から18年には264に増えた。しかし、同グループの影響力は政治の主流からはほど遠く、きわめて限定的だという。

とはいえSPLCはネーション・オブ・イスラム(Nation of Islam、訳注=アフリカ系アメリカ人の強硬派ムスリム団体)の指導者ルイス・ファラカンの言動には注意が必要だと指摘した。ファラカンは白人至上主義者の間に浸透しつつあるホワイト・ジェノサイド(白人に対する大量虐殺)の作り話に呼応して、トランプがアフリカ系アメリカ人の「大量虐殺を計画している」と非難した。

ファラカンとネーション・オブ・イスラムは、反トランプを標榜(ひょうぼう)するウィメンズマーチ(Women's March)のデモ組織に関連して論議を巻き起こしている。同組織の指導部の2人がファラカンに同調し、反ユダヤ主義の意見を個人的に表明したとして批判を浴びた。

アラバマ州モンゴメリーに本部を置くSPLCは、1971年から米国内の過激主義を追跡調査してきた。しかしここ数年、保守派から、SPLCは調査結果を政治的に利用し、右寄りの組織に、ヘイトグループという嘘のレッテルを貼っているとの批判が強まっている。(抄訳)

(Liam Stack)©2019 The New York Times ニューヨーク・タイムズ

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