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政治家の食べる姿 そのワンショットが人気とりにも命とりにも

マイケル・ブースの世界を食べる
photo: Kitamura Reina

安倍晋三首相が公の場で何か食べるたび、その写真をツイッターに投稿する人物がいる。私もフォローしているが、日本に住んで長い西洋人だ。彼は口を開けた安倍の写真を何十枚と集めていて、多くは国内の遊説先でさまざまな特産品を試食しているものだ。和歌山の梅干し、福島のあんぽ柿、もちろん自身の選挙区のフグまで。日本の首相は口いっぱいほお張った様を写真や映像に収められることを気にしていないようだ。

私が思うに、それにはいくつか理由がある。訪れた都道府県の農産物を支援する姿勢を示すため。自身が「普通の人」であるということを示しているとも言えるし(例えば、ラーメン1杯を素早く食べる)、反対に世界的リーダーとしての地位の高さを証明しているとも言える(オバマ前米大統領と高級すし店「すきやばし次郎」に行った)。しかし、食事中の写真を撮られることに対するこの大胆さは政治家として世界的にかなりめずらしく、それももっともだといえる。

イギリスの政治家たちは、食事中に撮影された不幸な写真に泣かされてきた。最も知られているのは労働党の前党首、エド・ミリバンドだろう。ベーコンサンドイッチをほお張るなんともおかしな表情がカメラに収められたのだ。その1枚が実質的には彼の選挙運動を、そしてキャリアそのものを終わらせることとなった。

■英国は階級や宗教も関係

イギリスの政治家にとり、食べることは緊張をはらみ、危険でさえある領域だ。イギリス人にとって、特定の食べ物は、階級、宗教さえ連想させる。ユダヤ系のミリバンドがベーコンを食べていた事実が、写真の受け取られ方にユダヤへの差別的な意味あいを加えたかもしれない。

前財務大臣、ジョージ・オズボーンはかなり高価なハンバーガーを食べている写真が非難された。きわめて特権的な育ちの象徴と解釈した人もいたわけだ(バーガーキングに行くべきだったのではないか)。同様に、前首相、デービッド・キャメロンがホットドッグをナイフとフォークで食べるところを撮影され、嘲笑されたことといったら……無理もない。

私の住む北欧では、選挙活動期間中にはそういったことと距離を置く傾向にある。古いプロテスタント的な規範で、食とはあまりに快楽趣味的で耽溺を誘うようで、ともかく低俗なものだと考えられてきたことと関係があるかもしれない。フランスの政治家は公共の場で食事をする際もっと協調的にふるまう。大統領は毎年、パリ国際農業見本市で、カメラマン向けに各地の農産物を試食する。

アメリカの政治家も同様に、遊説先で何か食べるのにたけている。前大統領のバラク・オバマはハンバーガーを食べる姿を何度も撮影されている。マクドナルドやファイブガイズといったチェーン店だったり、ロシアのメドベージェフとさえ一緒に食べたりと、そのハンバーガー戦略はもっと上手だった。写真はそれぞれのSNS上に集められている。

ドナルド・トランプが、愛するマクドナルドやケンタッキーフライドチキン、タコボウル(メキシコ人は喜んでいることだろう)をもりもり食べている写真を見てきた。いつもプライベートジェットかエアフォースワンの機内、もしくはトランプタワーの机で撮られたものだ。そこからは二つのメッセージが発せられている。彼が労働者の味覚を持っているということと、熱心に働くあまり食事が仕事と一体化しているということだ。

トランプのハンバーガー写真にはもちろん、別のメッセージも込められている。我々がどう思おうが、彼は公衆の場でものを食べる達人ということだ。仲良しの安倍のように。そしてツイッターは、そんな二人が大好きなのだ。(訳・菴原みなと、文中敬称略)