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移民と緊縮、二重の圧迫を受けるギリシャの性産業

ニューヨークタイムズ 世界の話題
ギリシャは2008年の金融危機以来の経済低迷に加え、移民の大量流入という二重の危機で、春を売る女性が増え、値段も暴落した=2018年5月25日、Eirini Vourloumis/©2018 The New York Times
ギリシャは2008年の金融危機以来の経済低迷に加え、移民の大量流入という二重の危機で、春を売る女性が増え、値段も暴落した=2018年5月25日、Eirini Vourloumis/©2018 The New York Times

アテネ中心部の、壊れた建物の地下にある狭く、薄暗い部屋に、客が入った。エレナ(22)はローブを脱ぎ、立ち上がった。かんしゃく持ちのおかみ、エバゲリア(59)は、すぐに商売に取り掛かった。

「うちの子はカンペキ」とエバゲリアはギリシャ語で話した。「無条件で彼女を推す」。エバゲリアは「メニュー」を暗唱してみせ、例外はひとつあるけど、「うちの子はベッドで何でもするよ」と言った。

客は太鼓腹の中年男性。サングラスをつけたままアゴをこすりながら、ロシア系ポーランド人の売春婦エレナをじっと見つめる。彼女はブロンドの髪をはらい、黒いハイヒールを差し出してみせた。「オッケー」と男性は言った。

値段? 20ユーロ(1ユーロは約130円)。

記者は売春宿のビニールカバーが敷かれた小さな長いすに座り、すぐそばで展開される古来の商売の様子を見た。そこは、フィリス通りにある。昔からアテネの売春宿街の本拠地だ。路地と2階建ての小さな家々が密集している。

商売は現在、ますますひどい状態になっている。どの分野の仕事にも悪影響が波及した2008年の金融危機以来の「ギリシャの失われた10年」のためだ。経済の破綻(はたん)と数万人もの移民の流入がより多くの女性たちを売春に駆り立て、値段の相場は底抜けするほど低落した。

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アテネの中心部にある数多くの売春宿の一つ=2018年5月24日、Eirini Vourloumis/©2018 The New York Times

性的暴力に対抗して、世界中で女性たちが声をあげるようになるなど、ジェンダーをめぐる関係が新時代に入ったことが話題になっているが、赤色や紫色の明かりに照らされたこの部屋には、#MeToo(訳注=ソーシャルメディアで性的暴力の被害を告発する運動)がない。女性たちは沈黙し、その身体は売りモノで、コーヒーテーブルにはコンドームが積まれている。

「私はこれまで18年間、フラワーショップ(花屋)を経営していたけど、その私が今、ここにいるのは必要に迫られてであって、楽しいからではない」と中年女性のディミトラ。彼女は経済危機で花屋を失い、フィリス通りでおかみとして働いている。「かつてはディミトラさんと呼ばれていた。でも今じゃあ、あばずれ女」

ギリシャでは、当局に届け出済みの施設での売春は法律で認められている。しかし、アテネの売春宿の大半は無届けだ。街頭で客を誘っての売春は違法だが、女性たちは街角でふつうに春を売っている。経済的な必要に迫られてこの商売に入る女性が多いが、売られてきたか、無理やり連れてこられたケースもある。

「要するに、新たな政治的、経済的、文化的環境を背景にして、売春は増加し、変化してきたのだ」。アテネにあるパンテオン大学の犯罪学教授グリゴリス・ラゾスはギリシャの悲惨な緊縮経済の状況に触れながら、そう指摘する。

ラゾスは、移民と緊縮経済というギリシャの二重危機がアテネの売春にどう影響を及ぼしたかについて、6年間調査してきた。その結果、アテネ市内の売春婦の数は2012年以来、7%増え、街頭でも売春宿でも値段は暴落したことがわかった。

売春宿で客は「2012年時点だと平均39ユーロを求められた」とラゾス。「それが17年には17ユーロ、つまり56%下がった」

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アルバニア出身の売春婦モニカ。10年前にこの道に入った彼女は、今年30歳だ=2018年5月24日、Eirini Vourloumis/©2018 The New York Times

ギリシャの法律によると、売春宿は、学校や病院、教会、託児所、公共の広場などから少なくとも655フィート(約200メートル)離れていなければならない。しかし、アテネの繁華街の密集度からすれば、法律に沿った売春宿を設けるのは事実上不可能だ。ラゾスの調査だと、この8月現在、アテネにある798の売春宿のうち、合法の施設は八つだけだ。

売春宿の数は、300以下とする警察統計とは大きく異なる。アテネの警察広報官テオドロス・クロノポウロスは、公式の統計にはヤミの売春宿を含めていないとしている。

クロノポウロスによると、当局は人身売買組織の摘発には積極的に取り組んでいるとし、逮捕件数が伸びていることを挙げた。しかし、警察は、売春宿にはほとんど手をつけていない。それが独身男性の寂しさ解消に役立っていると当局の上層部が理解を示しているからだともいう。

「売春宿について、我々の姿勢は寛容だ」とクロノポウロス。「なぜなら、我々は、彼女たちがしていることは社会サービスだと考えるから」

だが、警察は後で釈明を追加し、クロノポウロスはこう述べた。「売春宿に対して、寛容な姿勢はとっていない。監視は徹底的かつ継続的に行っており、違法なケースは摘発する」と。

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アテネ郊外の街角に立つ売春婦=2018年5月25日、Eirini Vourloumis/©2018 The New York Times。ギリシャでは当局に届け出済みの施設での売春は合法だが、街頭で客を誘うのは違法だ。

記者がインタビュー取材した女性で、その仕事を社会サービスだと語った女性は一人もいなかったし、多くは男性客への嫌悪感を口にした。エレナがいる売春宿のおかみ、エバゲリアは男性たちについて、こう話す。「あいつらは、うちの女の子のことをガールフレンドとみなしてくれるわけじゃない。20ユーロ払って買ったモノぐらいにしか思っちゃいないのさ」

「セックスは嫌い」とエレナは言い、「仕事はいやだけど、おカネがほしい」と続けた。
女性たちは、恥ずかしさと安全上の理由から、本名は名乗らない。ここの女性たちは、必要に迫られてという事情を除けば、誰も強制されて来たわけではない。しかし、望んでここにいる女性もいない。

客の間では「アマゾン」の名で知られているアナスタシアは、14歳のころから売春婦として働いてきた。現在33歳だが、仕事は以前よりも耐え難くなっていると語った。

「みんな、おカネがなくなってしまった」。ある昼下がり、アナスタシアは「イージーアクセス(Easy Access)」というホテルの外のサトブリアンドウ通りで話してくれた。そのホテルで、客は10分から30分を過ごす。

アナスタシアの話によると、客たちは「給料をもらったら来るよ」と約束するか、値引き交渉をしてくる。客の男性たちはしばしばコンドームをつけるのを嫌うし、薬物中毒の売春婦の多くはそうした客に10ユーロ以下で身体を売る。

ギリシャ危機で、常連の客層にも変化が起きたと女性たちは感じている。移民の客が多くなった。

値段は下がったが、客は以前と比べてよりえり好みするようになった。

「7、8年前には、日に20人から30人の男性客が来た」とバソ(65)は言う。すでに20年間、(ある売春宿の)おかみをしている。彼女の話によると、今では、客の数は日にせいぜい5人か6人だ。

「ここへやって来て、見るには見るけど、『また来るね』と言うだけなのさ」とバソは話した。(抄訳)

(Iliana Magra)©2018 The New York Times

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