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規制されてもあきらめない SNS手に、人は中東でしたたかに生きる

World Now 更新日: 公開日:
友人とスマホ画面を見る写真家のネガール・タキビリ(右)=村山祐介撮影

「#iranphotography」でインスタグラムを検索すると、色鮮やかな写真がスマートフォンの画面を埋め尽くす。プロフェッショナルなモノクロ風景画も、髪を隠すヒジャブを脱いだ女性の自撮りも。当局の規制が相次ぐ中、人々は網の目をかいくぐるようにSNSの世界を生き抜いている。

イランの首都テヘランに住む女性、ネガール・タキビリ(24)はインスタへの投稿で写真家への一歩を踏み出した。16歳で撮り始め、大学でも専攻したもののプロへの道はあまりにも狭い。「写真家としての私を知って!」。4年前、割れた鏡に自分の姿を映した肖像写真を投稿してみると、世界中から「いいね!」が付いた。

イランのネガール・タキビリの自撮り作品=インスタグラムから

ドイツの写真集に掲載され、イタリアの写真展から声がかかり、一足飛びに夢に近づいた。いまフォロワー2万4000人。個展を開くのを目標に「自撮り」を中心に投稿を続ける。「インスタは人々を本当に、本当に、本当に簡単につなげてくれる」。ネガールの言葉に実感がこもった。

インスタで作品を発表している写真家ネガール・タキビリ=テヘラン、村山祐介撮影

イランでは、政府批判の温床になるのを恐れ、国がツイッターやフェイスブック、ユーチューブなど大半のSNSへの接続を遮断している。だからこそ、遮断を免れたインスタなどのSNSは、閉鎖的な社会から世界に開く「窓」になってきた。自分や作品を世界に売り込む場にも、この国では特に生きづらいゲイ同士の「出会いの場」にも。

ある30代の女性は「イラン人にとってインスタは、いまやテレビなどのメディアよりも真実を伝えてくれるもの」と話す。

そんな影響力のある「メディア」を政府が見過ごすはずはなく、インスタの遮断も時間の問題だとみられている。だが、人々はすでに「抜け道」を見つけていた。今春、日常の連絡手段に使われるチャットアプリ「テレグラム」が遮断されたのをきっかけに、通信を暗号化し外国のサーバー経由で接続する「VPN」が、ごく一般の人たちの間に急速に広がっているのだ。

インスタに3カ月前にアクセサリー店を出店し、繁盛しているという20代の女性に「インスタが使えなくなっても大丈夫?」と尋ねると「VPNを使うだけです。イラン人はあきらめません。絶対に自分の居場所を見つけます」とこともなげに答えて、手元のスマホを見せてくれた。VPNアプリを立ち上げて、接続ボタンを押すと、わずか3秒で外国経由でネットがつながった。

インスタで販売されているアクセサリー=テヘラン、村山祐介撮影

これならインスタだけでなく、ツイッターなどでも当局の規制や干渉を避けて使える。SNSの動向に詳しいテヘランのITベンチャー共同創業者モフセン・ハサンプール(33)は「半年前にはほとんど知られていなかったけれど、今やイランでVPNを知らない人なんていない」と断言する。規制の中で生きる人々が必要にかられて編み出した手段が、確実に社会を変えていっている。

SNSで道を切り開いていく姿は、中東のほかの国々にもみられる。サウジアラビアのジッダに住むダーリン・アルバーイド(23)はインスタのフォロワー430万人の女性コメディアン。高校生だった5年前、ユーチューブに「フワ・ワ・ヒヤ(彼と彼女)」というチャンネルを立ち上げ、男と女のたわいないコントを投稿すると爆発的に再生された。今やサウジで知らない人はいない人気者だ。

サウジアラビアで活躍するコメディアンのダーリン・アルバーイド=本人提供

インスタの写真では、頭髪を黒いヒジャブで覆った伝統的な服装とひょうきんなポーズのギャップが印象的だ。メールでのインタビューに「今はテレビよりSNS。批判も含めて正直な感想がすぐに来る」と答えた。サウジではここ数年でネット利用率が急上昇し、特に女性は「SNSに1日8時間以上を費やす人が2割に及ぶ」との現地報道もある。