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陸自の余剰人員で災害救援隊、現実的なシナリオだ

ミリタリーリポート@アメリカ
災害救援のためフィリピンに到着した米海兵隊オスプレイ(写真_米海兵隊)

今回の西日本を中心とした豪雨による大規模災害では、3万人規模の自衛隊員が出動した。ここ数年、日本列島は連続して大規模災害に見舞われており、自衛隊の災害救援出動も“日常的”な風景となりつつある。そのため、一部の反戦主義者や平和主義者などからは「自衛隊を災害救援隊に改組すべきだ」といった意見が飛び出している。しかし、そうした意見の多くは、軍事的見地からは思慮を欠いた、空想的なものだと疑問を呈さざるを得ない。

米軍将校たちが興味を示す「災害救援隊創設」

ところが極めて興味深いことに、近年頻度を増した陸上自衛隊との合同訓練や情報交換などによって日本の防衛態勢ならびに、陸上自衛隊の現状を理解している米海兵隊や米陸軍、それに米海軍関係者たち(東日本大震災での災害救援協力「トモダチ作戦」に参加した海兵隊や海軍の将校も含まれる)のなかには、「災害救援隊創設」というアイデアを支持する人々が少なくないのである。

軍事専門家である米軍関係者たちは、日本の空想的な平和主義者たちによる「自衛隊を災害救援隊へ」といった主張とは全く違った理由によって「災害救援隊創設」というアイデアに関心を示しているのである。

もちろん日本の内政問題である以上、アメリカ国民である米軍関係者たちにとっては「友人に対する、ちょっとしたアドバイス」程度のものにすぎないことは当然だ。だが、イデオロギー的背景が見え見えの空想的平和主義者たちの「自衛隊を災害救援隊へ」という主張とは比較にならないほど検討に値する。

米軍戦略家たちによる「災害救援隊」のアイデア

日本に災害救援隊を創設するアイデアを支持する米軍関係者たちといっても、海兵隊、海軍、陸軍と軍種も違えば、将官レベル、高級参謀レベル、中堅将校レベルと経験や役割も違うため、十人十色のアイデアがあるのは当然だ。しかし、このアイデアの底流をなす根本的な論理を、ザックリまとめると以下のようなものになる。

日本が置かれている地政学的戦略環境、ならびに日本の国防予算規模から判断すると、兵力およそ15万人という陸上自衛隊の規模は大き過ぎる(もちろん、国防予算に大幅な余裕があるならば、いかなる国家の、いかなる軍種といえども、兵力が大きい方が、兵力が不足しているより好ましいが、そのような国家は見当たらないし、日本の国防予算が不足していることは、軍事専門家でなくとも理解できるところだ)。反対に、海上自衛隊と航空自衛隊の兵力が、それぞれおよそ4万5千人というのはあまりにも少な過ぎる。

日本の防衛戦略(これ自体、戦略家ごとにバリエーションがあるのだが)という観点から導き出せる地上戦闘部隊(陸軍や海兵隊、攻撃ヘリコプターや輸送ヘリコプターといった自ら保持する航空戦力も含む)が果たすべき役割を土台にして陸上自衛隊の必要兵力を算定すると、大方の意見の最大公約数は、現在の3分の1程度、すなわち5万人程度、余裕を持たせても6万人といったところが最大規模ということになる。海上自衛隊と航空自衛隊の最少兵力は、それぞれ12万人前後になる。ただし、自衛隊員全体の数を現在の規模からどうしても拡大できない場合は、海自と空自がそれぞれ10万人、陸自が5万人という構成にとどめざるを得ない。

このように純軍事戦略的視点から冷徹に判断すると、陸上自衛隊は10万人の余剰人員を抱えていることになり、それを削減することが日本の防衛態勢を正常化し、強化する第一歩となる。とは言っても、このような大出血を伴う改革は誰も“言い出しっぺ”になりたくない。しかし、ゴーン氏の大改革が日産を救ったように、陸自余剰人員の大削減を実施しなければ、日本の国防に未来はないのだ。

10万人の大削減というのは、まさに前代未聞の大量解雇ということになるわけで、確実な再雇用先を提供する必要があるのは言うまでもない。陸上自衛隊員数の大削減と並行して、海上自衛隊と航空自衛隊の隊員大増強が実施されるため、海上自衛隊や航空自衛隊それに防衛省に、陸上自衛隊から移籍可能なポジションをつくり出すことは可能である。とはいえ、そのような形で防衛省・自衛隊に残留できるのは、最大でも2~3万人(たとえば、海自施設や空自施設の警備警戒要員、海自艦艇積載ミサイルの地上弾薬庫警戒要員、空自防空ミサイルや弾道ミサイル防衛システム運用要員、レーダーサイト警戒要員、それに防衛省情報本部増強要員など)といったところで、7万人前後の人々は自衛隊から去らねばならないことになる。

そこで登場するのが「退役陸上自衛隊将兵を母体とした災害救援隊の創設」というアイデアである。すなわち、自衛隊から離れることになる7万人前後の陸上自衛隊員で「災害救援隊」を編制するのだ。もちろん「災害救援隊」はもはや軍事組織ではないため、防衛省の管轄にはなく、消防庁を統括する総務省(あるいは自民党の石破茂氏が提唱する「防災省」のような機関)が直轄する(予算を負担する)実動部隊となる。災害救援隊に移行される陸自隊員7万人の人件費は海自と空自の補充隊員の人件費に転換することになるわけであるから、国防予算の中でも大きな割合を占める人件費だけに関しては、国防費を増額せずともひねり出せることになるのだ。

トモダチ作戦で気仙沼大島に救援活動に向かうアメリカ海兵隊(写真_米海軍)

ただし、陸海空の人数バランスを調整しただけでは戦力強化にはならない。適正人数に縮小された陸自は、少数精鋭にふさわしい各種機動力を身につけねばならない。適正隊員数に近づくように拡大された海自と空自は、やはり国防にとり必要な数と質の艦艇や航空機を取り揃えなければならない。もちろん、現代戦の根幹をなす情報システムも、大幅にバージョンアップが必要となる。したがって、海自10万、空自10万、陸自5万の規模に対応した各種システムを取り揃え維持していくには、国防予算は最低でも国際標準値であるGDP比2%は必要となる。

また、「災害救援隊」は7万人前後の規模でスタートすることになるのだが、この数は日本政府が策定すべき災害救援戦略に基づいてはじき出されたものではない。したがって、現実には不足しているかもしれないし、余剰人員を抱えているかもしれない。しかしながら、同じ余剰人員が存在する場合、軍事組織でその余剰人員を抱える方がはるかに多大な血税を投入しなければならないのは万国共通と言えよう。

もっとも、陸上自衛隊から分離独立する「災害救援隊」のような常設災害救援部隊は、「常設の陸上自衛隊が保持する能力のうち、災害救援に活用できる能力を保持することになり、ある程度はオーバーラップするのだから、陸上自衛隊から分離独立させる必要は無い」という反対意見も存在する。しかし、災害救援に特化した装備を身につけ、専門の訓練を施した「災害救援隊」は、災害救援にも活躍することが可能だというレベルの陸上自衛隊部隊よりも、災害救援という視点からは、より強力な救援部隊となるのである。

以上のような措置によって、軍事常識によると10万人の余剰人員を抱えていると考えざるを得ない陸上自衛隊を、適正規模に修正することができるだけでなく、海上自衛隊や航空自衛隊にもそれぞれ1万人以上の将兵を補充させることができ、日本で頻発する大規模自然災害での救援態勢を大増強することが可能となる。

真剣に検討すべき「災害救援隊」

もちろん、米軍関係者たちがカウンターパーツである自衛隊や防衛省の人々に対して、「日本の国防戦略は………であるべきだ」「陸上自衛隊は戦略上必要な、抜本的組織改革を実施すれば5万人で十分である」「陸上自衛隊が米海兵隊や米陸軍と繰り返している合同訓練は、意味のないものも多く、陸上自衛隊の存在意義を自分たち自身で再確認するために無理やり“おかしなシチュエーション”を作り出しているとしか考えようがない」「現在の日本の海洋戦力規模では、アメリカ太平洋艦隊の護衛部隊程度の役割から脱却するのは難しい」といったような本音を直接語ることは、少なくとも公的レベルでは、絶対にあり得ない。いくら同盟軍に対してでも、直接言っていいことと避けるべきことは、米軍側といえども心得ており、本音と建前を使い分けているのだ。

したがって、何らかの理由で自衛隊の戦力がアメリカ自身にとっても真に必要にならない限り(現状では、さして必要性を感じていない)、上記のような「提言」が公的なチャンネルを通してなされることはないであろう。しかしながら、「陸上自衛隊の余剰人員を母体として災害救援隊を組織する」というアイデアは、そのような外圧がかけられる以前に、即刻真剣に検討されてしかるべき提言である。