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盛り上がってるの? いないの? ワールドカップ開催国ロシアの実情

迷宮ロシアをさまよう
ユーロ2016出場をかけたロシア代表の予選の模様。ゴール裏はレジェンドプレーヤーの肖像を掲げ、「自分たちの歴史に誇りを持とう!」と呼びかけた(撮影:服部倫卓)
ユーロ2016出場をかけたロシア代表の予選の模様。ゴール裏はレジェンドプレーヤーの肖像を掲げ、「自分たちの歴史に誇りを持とう!」と呼びかけた(撮影:服部倫卓)

「ロシアにしては」盛り上がっている

サッカーのFIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会は、決勝トーナメントに突入しました。

スタジアムで熱狂する世界各国のサポーターの様子は、遠い日本でテレビを観ている我々にも伝わってきます。でも、開催国ロシアの一般国民は、このサッカーの祭典をどのように受け止めているのでしょうか? 地元ロシア代表も決勝トーナメントに進み、何と1回戦でスペインを破る快挙を見せましたが(PK戦なので公式記録上は引き分け扱い)、ロシア国民の熱狂度はどうでしょうか?

一言で言えば、「ロシアにしては、盛り上がっている」というところだと思います。さすがに、PK戦でスペインを倒した夜のモスクワは、お祭り騒ぎになりました。

しかし、W杯を迎えるに当たって、当初ロシア国民が見せていた態度は、煮え切らないものでした。そして、本大会でのロシア代表の快進撃を受けてもなお、サッカーの祭典に距離を置いている人々が少なからずいます。

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モスクワのスパルタク・スタジアム(撮影:服部倫卓)

代表のふがいなさゆえに離れていた国民の心

ロシア国民が当初は、自国開催のW杯にそれほど大きな興味を示していなかったことは、表に見るような世論調査結果からも、明らかです。今年4月にロシア全国で実施された世論調査で、「貴方はW杯ロシア大会をテレビで観るつもりですか?」と問い、その回答結果を過去の同様の調査結果と比べたのが、表のデータです。

これを見れば一目瞭然で、国民のテレビ観戦意欲は高いとは言えず、しかも過去の数字と比べると、長期的な低下傾向すら示しています。2010年W杯南アフリカ大会にロシアは出場しなかったのですが、その南ア大会と今回の自国開催とで、注目度がほとんど変わっていません。

筆者は、ロシアのサッカー事情のことを継続的に研究しているので、この国のサッカー観戦熱が決して高くないことは理解しているつもりでしたが、自国にW杯が来てもなおロシア国民が煮え切らないという調査結果を目の当たりにして、改めて衝撃を受けました。

ロシア国民にとって、サッカーはとても身近なスポーツで、本来は、アイスホッケーと並ぶ人気種目です。それでも、近年多くのロシア国民がサッカー観戦に背を向けていた最大の理由は、やはりロシア・サッカーの低迷でしょう。ロシア代表は、2008年欧州選手権(ユーロ)の3位躍進こそあったものの、それ以外はW杯およびユーロの予選・本大会でふがいない戦いを続け、そのたびに国民の支持は離れていったのです。

そうした背景がありましたので、今大会でロシア代表が快進撃を見せてくれたことに、筆者は心から安堵しました。やはり、地元チームの活躍あってのW杯ですからね。実際、ロシアがグループステージ勝ち抜けを決めた第2戦のエジプト戦は、59%の国民がテレビで観戦したというデータもあります。事前には無関心を装っていても、いざ始まってロシアが頑張っていれば、やはりそれなりに観てしまうといったところでしょう。

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寒風吹きすさぶ中、肉体美と根性を誇示するロシアのフーリガン(撮影:服部倫卓)

フーリガンの暴力沙汰

実は、ロシア国民、とくに女性が、サッカーを忌み嫌うようになった、もう1つ重大な理由があります(表に見るとおり、W杯をテレビで一切観ないと答えていた向きは、圧倒的に女性に多い)。それは、近年ロシアのサッカー・フーリガンがたびたび引き起こしている暴力沙汰です。

主な事件を挙げれば、2012年のユーロ・ポーランド・ウクライナ大会で、地元ポーランドとロシアが対戦した際、試合前に両国サポーター同士が衝突し、逮捕者183人、負傷者15人が出る騒ぎに。2016年のユーロ・フランス大会では、マルセイユでのロシア・イングランド戦に際し、観客席で両国サポーターによる乱闘が発生。さらに、試合後に市街で大々的な衝突が起き、イングランド側の1人が死亡。2018年2月、UEFAヨーロッパ・リーグでスペインに乗り込んだスパルタク・モスクワのサポーターが現地サポーターと衝突、警官1人が死去。

特に、2016年のマルセイユ騒乱の衝撃は大きく、英BBCが2017年に「Russian Hooligans: Sports Terrorism Documentary」という特別番組を放送したほどです。その中に、ロシア人フーリガンの一人が、「2018年のW杯では、我々は暴力のフェスティバルでお迎えする」と警告するシーンがあり、イングランド側は震え上がりました。

しかし、現在までのところ、ロシアのフーリガンが地元開催のW杯で暴れるような事態には至っておらず、大会は平穏そのものです。

実は、プーチン政権による統制を受け、ここ数年ロシアのフーリガニズムは、大きく変質しました。グループ間で乱闘を起こすにしても、スタジアムや街中ではなく、森や野原で戦うようになり、ある種、集団格闘技のようなものに純化しつつあります。上述のように、国際大会では暴力事件が起きているのですが、それはむしろ、ロシア国内ではもう大っぴらに暴れられなくなったので、外国に行って久し振りに羽を伸ばしたという面があったようです。

W杯を前に、治安当局はフーリガンたちを呼び出し、大会期間中に騒ぎを起こしたりしないよう、厳重に釘を刺してきました。ロシアにとって、W杯は世界に向けた晴れ舞台であり、フーリガンという恥部をさらけ出すようなことは絶対にしないという、プーチン政権の断固たる姿勢が見て取れます。

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ロシアのサッカー警備は、とにかく大量の警官を投入して数で威圧する。ここに「DJポリス」の生まれる余地はない(撮影:服部倫卓)