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「ウルトラマンよ、お前は本当に正義か」特撮脚本家、上原正三氏が作品に込めた思い

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「帰ってきたウルトラマン」のフィギュア
「帰ってきたウルトラマン」のフィギュア

上原正三さん
上原正三さん=2010年5月、神奈川県大和市、大井田ひろみ撮影

――ウルトラシリーズにかかわるきっかけは

(脚本家の)金城哲夫とは、彼が監督と脚本を務めた「吉屋チルー物語」で沖縄に来た時に知り合った。その後、別の作品を手伝って上京したとき、円谷一さん(円谷英二の長男で、当時はTBSの演出家)と会った。

ぼくがシナリオライター志望だったので、金城がきっかけをつくってくれたのかもしれない。一さんからは、シナリオライター志望はごまんといて、TBSにもたくさん送られてくる。賞でもとらないと、書かせてみようとはならない、と言われ、そのまま沖縄に戻った。

そこで文化庁の芸術祭のドラマのシナリオ部門に応募したら、沖縄戦で戦死した息子の遺骨を探しにきた母親を描いた「収骨」という話が佳作をとった。1965年1月に授賞式で上京。賞金で3カ月ぐらいは東京でぶらぶらできると思った。

金城に呼ばれて円谷プロに行くと、放送前のウルトラQの「五郎とゴロー」「宇宙からの贈りもの」などを試写室で見せられた、何だこれは、と驚いた。

円谷一さん。父は東宝特技監督の円谷英二さんだった
円谷一さん。父は東宝特技監督の円谷英二さんだった=朝日新聞社

――そのまま円谷プロに?

金城に「忙しいから、発注している原稿を作家からとってきれくれ」と頼まれて、そのまま手伝うようになった。そしたら、一さんが「本当に賞を持ってきたんだから、おれが演出する」と。男なんだよ。それで、「オイルSOS」という脚本を書いた。

何度か書き直して、オーケーが出て、千葉のコンビナートでロケハンした。3日ぐらいしたら、石油会社から「脚本をよく読んだら、我が社の廃液が東京湾を汚し、そこから出てきた怪獣が、タンクから原油を吸ってでかくなる。うちで貸すわけにはいかない」と断りがきた。がっかりです。

ところが、えりの大きなオバケみたいな怪獣はつくってしまっていて、現場から「どうしてくれるんだ」ということになった。そこで怪獣は使い回し、違う脚本を大急ぎで仕上げた「宇宙指令M774」がデビュー作になった。

そのころ、賞金もつきたので帰ろうと思っていたら、金城から円谷プロの社員にしたから、と。

「Q」はもともと「アンバランス」というタイトルで、SF作家に協力してもらう企画だった。だが、放送前の撮りだめをしている間に、子どもが喜ぶ怪獣を出せ、と方向転換をした。そんなたいへんな状態だったので、金城にとって同じ方言を話すぼくは気が紛れたのではないだろうか。

「ウルトラQ」16話の「ガラモンの逆襲」冒頭映像=YouTubeのウルトラマン公式チャンネル

――脚本を書くときに、金城さんに言われたことは?

とりあえず怪獣を出してくれ、それがどういう理由で出てきたかを、きちんとすれば、「Q」の枠に入る、と。茶の前に怪獣が登場する初めての試みだし、オンエアもまだだから、一本一本みんな手探りだった。

「Q」は、まさに金城のエンターテイメントの才能が発揮された。娯楽、ワンダーの世界を描く才能は他の追随を許さない。

――「Q」は、カメラマンやパイロットらが不思議な世界を目にする話でしたが、「ウルトラマン」では正義の味方が、人類を怪獣から守るようになります。

円谷プロもTBSも自信をもち、欲が出た。怪獣のおまけも人気で、マーチャンダイズも商売になると分かって、そういう視点からも作品が考えられた。子どもに人気の怪獣がでて、ウルトラマンがやっつける。セブンになると、サンダーバードに対抗する円谷プロなりのメカ的なものが増えた。

良い悪いは別として、シリーズは進化した。ウルトラマンは、まさに金城しか作れない世界だ。突き抜けている。モノクロだった「Q」からカラーになり、40メートルもあるウルトラマンと怪獣。見たこともないものが出てきた。

ウルトラマンのフィギュア
ウルトラマンのフィギュア。キャラクター商品も人気だ

――シリーズ中には深刻なエピソードもありますが?

金城は、野球チームでいえば、豪速球を投げる主戦投手。だから、ほかの作家(佐々木守や実相寺昭雄ら)が安心して変化球を投げられた。

典型的だったのが、佐々木さんが書いた「故郷は地球」のジャミラ。ほかにも、実相寺は、主人公が間違ってスプーンで変身しようとするシーンを書いた。みな怖い者しらずだった。金城がどんと真ん中にいるから、それぞれが自分の持ち味を発揮して、シリーズの深みになった。

――ウルトラセブンはどうですか?

セブンは、金城は当時、特撮番組「マイティジャック」にもかかわっていた。エースをそっちに持っていかれ、ぼくや市川森一など控えの選手が駆り出された。

セブンでは、監督や現場も含めて、金城的なものとは違う世界を考えていた。ウルトラマンは手探りだったけれど、いけるぞという自信もついていた。予算も限られていて、知恵を絞る工夫も必要だった。

ウルトラマンは対「怪獣」だが、セブンは対「星人」なので、SF的なものが多くなった。金城がいたからのウルトラマンのまとまりとは違う、セブンは良い意味でのとりとめのなさが良かった。

「ウルトラセブン」の名場面集=YouTubeのウルトラマン公式チャンネルより

――金城さんが沖縄出身であることはウルトラマンに影響を与えたのでしょうか?

マイノリティーの視点はつねにもっていた。権力で理不尽に制圧されるものへ正義感だ。沖縄出身者なら、みんなそうですよ。

だだ、あまり表には出さず、抑制がきいている。そういう問題意識よりも、自分なりのエンターテイメントをウルトラマンの世界で完成させたいという思いが強かったのではないかと思う。

金城の書いた、「まぼろしの雪山」のウーや、「ノンマルトの使者」の地底人は、科学特捜隊やウルトラ警備隊など正義の味方と言われる存在に制圧される側にも、彼らなりの存在意義、主張があり、それを圧倒的に無視していいのか、ということでした。マイノリティーの本当の叫びがあるのです。「ノンマルト」はちょっと異色。本音が思わず出てしまったのでしょう。

――その後、上原さんは「帰ってきたウルトラマン」でメーンライターを務めますね。

金城のウルトラマンは、みんなが見上げる宇宙からやってきた正義の救世主。でも、それをもう一度やるわけにはいかない、ヒーローを子ども目線に戻したかった。町工場に勤める未熟な男を主人公に設定し、金城のウルトラマンから意識的に離れようとした。

3作目でみんな慣れていて、そうそうたる監督も集まってしのぎを削った。1、2話が(ゴジラの)本多猪四郎監督ですから。

――「怪獣使いと少年」はすごいですね。

怪獣を倒せ、とみんなが言うのに、(主人公の)郷秀樹は動かないシーンがあるけれど、これは怪獣側に立てる人でないと書けない。ヤマトンチュー(本土の人)には書けないでしょう。

放送前に、テレビ局で問題になって中止になりかけたけれど、プロデューサーが「いいんじゃないの」と言ってくれた。関東大震災の朝鮮人大虐殺がテーマだ。マイノリティーはいざという時、マジョリティーから攻撃される。

「帰ってきたウルトラマン」のフィギュア
「帰ってきたウルトラマン」のフィギュア

――なぜあそこまで?

ずっと苦しんできたものを、いちどどこかで吐き出さないと気持ち悪いよね、というのがぼくのなかにあった。ただ、「帰ってきた」は幅がある作品だったので、そんなに目立つ話とは思わなかったんだけど。

――その後、スーパー戦隊シリーズ第1作の「秘密戦隊ゴレンジャー」にも参加しましたね。

ゴレンジャーはキャラが面白かった。グループヒーローものは、みんなで支え合って、助け合って、補い合って、力を合わせて悪をやっつける。農耕民族の流れがあって、日本的なのかもしれないですね。

「太陽戦隊サンバルカン」まで書いたら、マンネリでいいアイデアが浮かばなくなり、休ませてくれ、と言った。そしたら、これありますよ、と「宇宙刑事ギャバン」を持ってきてくれた。メタルチックで今までにない等身大だけど、仮面ライダーとは違って興味がわいた。「宇宙刑事シャイダー」では、一さんの息子の浩さんが主役で恩返しができた。

「秘密戦隊ゴレンジャー」のBlu-ray BOX用のCM動画=東映のYouTube公式チャンネルより

――特撮ヒーローを書くうえで心がけていることは?

怪獣の目から見たウルトラマンはどう見えるのか、その視点をぼくは大事にする。やっつけに来る正義の味方に対して、おまえは本当に正義か、という問いかけを怪獣の目がしているのかもしれない。そのせめぎ合いを書くのが、特撮怪獣ものの面白さだ。

戦隊シリーズでも、敵の帝国にドラマがあるはずだ。どういう使命をもって、ヒーローに必死に立ち向かうのか、野望もあるだろうし、内部での階級闘争もあるだろう。そういうことをきちんと書いてこそふくらみが出る。そういう要素を無視すると、ただ一方的なヒーローの活躍になってしまう。

日本人の原点には、すべてのもの、木でも山でも精霊が宿っていて、それを拝み、感謝するという思想がある。怪獣には、精霊の怒りが乗り移っているというふうに考えた。日本で怪獣が定着した根底にはそういう思想があるんじゃないか。

怪獣を受け入れる民族というか、怪獣もいるんだよ、と思ってくれる、荒唐無稽と片付けないで、見てくれる。怪獣とは、ただウルトラマンにやられるために出てくるのではないんですよ。