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粉もん好き記者がシンガポールでどうしても食べたかった、この一皿

One Meal, One Story 一食一会 更新日: 公開日:
シンガポールの料理店「ビクトリー」で鶏肉のムルタバを注文すると、カレーソースとともに出てきた Photo: Takahashi Yukari

イスラムの「お好み焼き」

小麦粉を使った「粉もん」が好きだ。お好み焼きにクレープ。シンガポールに行ったときにも、「イスラム風お好み焼き」と紹介されることもあるムルタバを探した。目指したのは、同国最大最古のイスラム教寺院、サルタン・モスク。その裏手に二つの老舗ムルタバ屋が並んでいるからだ。一つが創業110年の「ザムザム」、隣が「ビクトリー」。両店とも店頭で競い合って呼び込みをしていた。ふらりと「ビクトリー」に入った。

ザムザムの2年後、1910年に創業。「店名はザムザムに勝つため?」と一瞬思ったが、名前の理由ははっきりせず店員は「英国植民地時代の創設だから英国人に『勝つ』ため」などと言う。モスクに礼拝に来たと思われる客でにぎわっていた。小麦粉を練った生地を薄くのばし、たたんだところに鶏や羊の肉、タマネギ、卵などをのせて鉄板で焼く。鶏肉の「小」は6シンガポールドル(約500円)。パリパリとした外側に熱々の具がよく合い、みるみるおなかが満たされていく。

20年間店でムルタバを焼いているというイスマット・ムハンマドさん(45)はインドからの出稼ぎ。昼から深夜まで12時間、焼き続ける。1日数回、お祈りのために目の前のモスクに行くのが休憩時間だ。インドに妻と3人の幼子を残してきているといい、「家族が恋しいよ」としきりに言った。

薄くのばした生地に具をのせ、長方形にたたんでいく Photo: Takahashi Yukari

 ルーツはどこに

うーん、この料理、どこかで似たものを食べたことがある。どこの料理なのだろう?帰国後、探し歩いた。ムハンマドさんが「インド料理」と言っていたからインド料理店に電話をするも「うちにはないよ。あれはマレーシア料理」と言われる。東京・池袋にあるマレーシア料理店マレーチャンに行くと、メニューでナシゴレンやサティに隠れるようにあった。春巻きのように細いが外のパリパリ、中のもっちり感は同じ。店員は「インドやパキスタンから伝わった。イスラム教つながりだろう」と言う。

調べるとこの料理、起源はアラビア半島のイエメンやサウジアラビアらしい。東京・代官山にあるイエメン産コーヒー専門店、MochaCoffeeを訪ねると、オーナーの三宅舞子さん(43)が「イエメンでよく食べましたよ」と教えてくれた。ムタッバクとも呼び、アラビア語で「折りたたんだもの」の意味。ストリートフードがたどった長い旅路を思い、また無性に食べたくなった。