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なぜプーチンは「偉大」なのか?

迷宮ロシアをさまよう
ピョートル大帝が建造した軍艦の模型。ヴォロネジの博物館にて(撮影:服部倫卓)

ネット投票に見るロシア国民の君主観

 ロシアの「フコンタクチェ」というSNSに、興味深いネット投票の結果が載っていました。「過去500年のロシアで最も偉大な君主は誰か?」というアンケートです。もしかしたらまだ投票受付中なのかもしれませんが、2018年5月18日現在の投票結果を、グラフにまとめてみました。

 そもそも、帝政ロシア時代の皇帝、ソ連時代の共産党書記長、新生ロシア時代の大統領らを、同列に比較しているという点が、ロシアならではかもしれません。それだけ、ロシアという国では、どんな時代にも最高指導者に権力が集中し、その舵取りによって国の浮沈が決まる度合いが大きいということなのだと思います。日本であれば、徳川家康と、明治天皇と、安倍晋三首相を同じ土俵で比較するなどということは、考えにくいでしょう。

 今回のアンケートは、ネット投票ですので、若干「ネトウヨ」的なバイアスがかかっているかもしれません。それでも、グラフに見るような投票結果が、ロシア国民の一般的なムードを反映していることは、確かだと思います。

 ズバリ言えば、ロシアで尊敬されるのは、強権的にでも国内に秩序をもたらす君主、諸外国に屈せず国益を守る君主、領土を拡大する君主です。逆に、リベラルな改革を試みて混乱を招いたり、諸外国に安易に譲歩をしたりする指導者は、蔑まれるのが常です。

 そうしたことから、ロシアの為政者についての評価が、内外で逆転するという現象が起きます。今回のランキングで1位となったのは、人類史上最悪の独裁者の1人と国際的には見なされているスターリンです。逆に、国際的に広く尊敬され、ノーベル平和賞も受賞したゴルバチョフが、ロシア国内では最低に近い評価になります。

一握りの「名君」が作ってきたロシアという国

 ロシアという国と付き合っていると、この国は歴史上数人の傑出した君主によってそのほとんどが形作られてきたのではないかということを強く感じます。その中でもピョートル大帝は別格であり、ロシア各地を訪問すると、「この街もピョートルのお陰で誕生したのか」、「これもピョートルの遺産だったのか」などと認識を新たにすることが少なくありません。

 先日、私はロシア中央部のヴォロネジという街を訪問しました。この街で私は、近代ロシア海軍の歴史は、ピョートル大帝がまさにこの場所で創始したのだということを再認識させられました。内陸のヴォロネジが海軍発祥の地というのは一見すると不思議ですが、ピョートル大帝はドン川の支流であるヴォロネジ川で17世紀末に造船所を築き、露土戦争の際には当地で建造した船で川を下ってオスマントルコに遠征したのでした。

 スターリンもまた、領土の拡張や大規模建設・開発事業を断行し、超大国ソ連を作り上げました。だからこそ、数百万人もの自国民の命を奪ったにもかかわらず、ロシア的な価値観からすれば「偉大」ということになるのです。

ピョートル大帝が建造した軍艦の模型。ヴォロネジの博物館にて(撮影:服部倫卓)

「現代の名君」のジレンマ

 本年3月18日の選挙に勝利したプーチンは、この5月7日に4期目の政権をスタートさせました。2024年までの任期を全うすれば、つごう20年にわたり大統領職を務めることになります。もしも、その前の大統領代行期間や、20082012年に一時的に首相職に就いていた期間も加えれば(その当時もメドヴェージェフ大統領ではなくプーチン首相が第一人者と考えられていました)、実質24年5ヵ月間にわたってプーチン時代が続くことになります。

 もっとも、ロシアの尺度で見れば、プーチンの治世がとんでもなく長いということにはなりません。スターリンがいつから最高指導者になったかは難しいところですが、前掲のグラフのように1922年からだとすると、31年もトップに君臨したことになります。帝政時代に遡れば、イヴァン雷帝の50年3ヵ月、イヴァン3世の43年7ヵ月、ピョートル大帝の42年9ヵ月といった長期政権がありました。

 すでに述べたように、ロシア国民が偉大と認める君主の条件は、国内に秩序をもたらし、諸外国に屈せず、領土を拡大してくれるような指導者です。プーチン大統領は、完全にこの条件を満たしています。エリツィン前政権の混乱に終止符を打ち、欧米と対立してでもロシアの国益を守ろうとし、きわめつけはクリミアという重要な領土を獲得しました。ソチやウラジオストクの開発、石油ガスパイプラインの建設など、プーチンのレガシーは枚挙に暇がありません。おそらく、後世の人々は、「あれもこれも、みんなプーチンの業績なのか」と驚くことになるでしょう。

 多数派のロシア国民にとって、プーチンは理想的な指導者であり、すでにその業績はロシア史上の名君たちと肩を並べたと言っていいでしょう。問題は、プーチン流が、民主主義、人権といった現代の普遍的な価値規範と合わないこと、そして国際対立を引き起こしがちであることです。