1. HOME
  2. World Now
  3. 米人気番組「ザ・レイト・ショー」終幕 政治風刺コメディーの時代は終わるのか?

米人気番組「ザ・レイト・ショー」終幕 政治風刺コメディーの時代は終わるのか?

World Now 更新日: 公開日:
コメディアンのスティーブン・コルベア=ロイター

トランプ米大統領を痛烈に批判してきた米CBSテレビの人気トーク番組「ザ・レイト・ショー」が2026年5月21日、最終回を迎えた。コメディアンのスティーブン・コルベアが司会になった2015年以降、ユーチューブにあがる番組の動画を見るのを日課にしていた記者が感じた「一つの時代の終わり(an end of an era)」とは。

アメリカの人々にとって、眠りにつく前にクスッと笑えて、「このニュースに戸惑っているのは自分だけじゃない」と確認できる場所。コメディアンのスティーブン・コルベアが司会を務める「ザ・レイト・ショー」は、コントあり、音楽ありのエンターテインメント番組でありながら、臆することなく政治問題を扱い、第1~2次トランプ政権への批判の急先鋒(きゅうせんぽう)となってきた。

「ザ・レイト・ショー」の最終回が収録されるニューヨークのエド・サリバン・シアター前で「コルベアを継続して、トランプを首に」とプラカードを掲げるファン=2026年5月21日、ロイター

視聴者とニュースを〝感じた〟伝説の選挙特番

「ザ・レイト・ショー」は1993年にデビッド・レターマンを司会に始まった人気番組で、2015年にコルベアが2代目として司会を引き継いだ。架空の保守コメンテーターを皮肉的に演じたきわどい芸風がトレードマークだったコルベアの司会抜擢(ばってき)は、当初は「賭け」だと見られていた。

コルベアの司会ぶりの評価を決定づけたのは、翌年11月の大統領選投開票日の生放送特番だった。開票直前までヒラリー・クリントンが当選を有力視されており、番組も「初の女性大統領誕生へ」とお祝いモードでスタートした。

しかし、下馬評を覆す開票結果が見えてくるうちに、スタジオの空気は緊張感を帯びていく。ちなみに、当時はFOX以外の主要テレビ局の視聴者はリベラル層が主で、この日選挙特番の会場に集まっていた観客も大半がヒラリー・クリントン大統領の誕生を期待していた。

当落がアナウンスされないままに放送終了が近づくと、コルベアはカメラの向こうにいる視聴者に、「一人の人間」として話しかけ始める。「どちらの陣営だったにせよ、誰にとっても本当に疲れる、熾烈(しれつ)な選挙だったという点で異論がある人はいないはず」

そして、深刻化する政治的分断について語り始めた。「少し毒を飲んで、相手側を憎んでみる。それが妙に気持ちよかったりする。その感じがくせになる。相手を断罪することには、ある種の心地よい高揚感があるんだ。だって、自分が正しいって分かっているから。自分こそが正しいって」

そう語った後で、こんな提案をする。今だけはどの政党に投票したかに関わらず、アメリカ人なら誰もが同意できる事柄を挙げていこう――。そして、おもむろに列挙し始めたのが「アメリカ人あるある」だった。

・ピザのトッピングに野菜は選ばない
・運転中にガソリンの残量警告ランプがつくと、どこまで行けるか挑戦したくなる
・メールの「全員に返信」ボタンを使う人は嫌い

コルベアは鬼気迫る様子で拳を振り上げて、次々に「アメリカ人の最大公約数」を挙げていく。総立ちの観客は、やぶれかぶれの半泣き状態。異様な熱量に包まれるスタジオで、スーツ姿のコメディアンはこんなふうに生放送を締めくくった。「選挙は終わった。みんな死なずに乗り切ったんだ。おやすみなさい。アメリカに幸あれ」

「ザ・レイト・ショー」の最終回の収録が行われるニューヨークのエド・サリバン・シアターに集まる人々=2026年5月21日、ロイター

事態をどう受け止めたらいいのかわからない人々の戸惑いを、ウィットの力で共同体験化したこの晩の生放送。これをきっかけに、コルベアは「視聴者と一緒にニュースを〝感じる〟こと」という番組のアイデンティティーを探り当てていく。

画面の向こうで、不安や戸惑いを全身で表現してくれる人

バージニア州シャーロッツビルの白人至上主義者の集会へのカウンターデモ車突入(2017年)やジョージ・フロイドさん殺害事件に端を発するブラック・ライブズ・マターの全国化(2020年)、アメリカ連邦議会襲撃(2021年)、エプスタイン文書問題の再浮上(2023年)……。信じがたいニュースが息つく間もないサイクルで駆け巡った11年。自分が今感じている怒りを、不安を、戸惑いを、自分の代わりに全身で表現してくれる人物。それがコルベアの果たした役割だった。

2026年1月8日の放送も忘れられない。前日にミネソタ州ミネアポリスで移民税関捜査局(ICE)職員が3児の母レネ・グッドさん(37)を射殺したニュースが国を揺るがせるなか、観客の大きな声援を受けて登場したコルベアは「こんなニュースの日は、ポジティブなエナジーがしみるね」と一言。グッドさんを「国内テロの脅威」と呼んで射殺を正当化しようとするトランプ政権のプロパガンダをジョークまじりに非難した上で、「こんなことを許し続ければ、いつか責任を問われることのない武装した政府職員たちが、あなたの街で好き勝手に振る舞うようになってしまう」と、平和的な抗議活動を呼びかけた。

2026年1月8日放送の「ザ・レイト・ショー」

こうしたセリフは一流のコメディーライターやファクトチェッカーたちによって練り上げられた脚本だ。だが、それらを自らの声と体を使って表現するコルベアのコメディアンとしての卓越した演技力と、人間としての「真正さ」がなければ、説得力を持たなかったのではないかと思う。

トランプ政権の圧力を背景とした突然の打ち切り

アメリカ政治をリアルタイムで記録し、テレビ史に残るレジスタンスとなっていった「ザ・レイト・ショー」。それだけに今回の突然の番組の打ち切りには臆測が飛び交う。

CBSテレビは、「決定は財務上の判断」だと説明しているが、親会社パラマウント・グローバルがFCC(連邦通信委員会)の承認を必要とする買収案件を抱えているために、番組内容に不満を募らせるトランプ政権からの圧力に屈したという見方が有力だ。

5月21日に放送された最終回は、ポール・マッカートニーらのゲスト出演に彩られ、笑いにあふれた内容だった一方で、暗雲が立ち込める「コメディーと言論の自由」にも切り込んだ。同じくトランプ大統領から攻撃を受けている深夜トーク番組の司会者たちが駆け付けて参加したコントでは、「次の打ち切り対象は自分かも」と吐露する場面もあった。

最終回のゲストとして登場したポール・マッカートニー(右)。ビートルズの「ハロー・グッドバイ」を披露した=2026年5月21日、AP

トランプ大統領は、最終回が放送されてから数時間後のSNSの投稿で、「コルベアはついにCBSから消えた。(中略)ようやく消えてくれて本当に良かった!」と豪語。過去には、打ち切りについて自身の関与をほのめかしたこともある。

トランプ大統領と番組打ち切りの関係について、コルベア自身は多くを語っていない。だが、雑誌「ピープル」のインタビューでは「コメディアンは道化師にすぎない」とした上でこんな風に応答している。「僕らの言うことをいちいち気にするなんて、大統領という職の品位をどれだけ損なうことになるか。あの人が戦わなければいけない相手は、もっと他にいるはずでしょ?」

ピープル誌インタビューで番組打ち切りについて語るスティーブン・コルベア

深夜トーク番組についての著書もある作家のビル・カーターは、ニューヨーク・タイムズ紙のオピニオン面で、深夜番組がかつてのようなドル箱ではなくなってきていると認めた上で、コメディアンたちは「ネットワークの顔となるスター」であると指摘。最大の損失は「権力者を、たとえ苛烈(かれつ)に嘲笑する形であっても自由に批判できるという、アメリカの根幹的価値そのもの」だと非難した。

政治風刺コメディーの未来は

政治風刺コメディーは今後、どう変わっていくのだろうか。

コルベアの師匠筋に当たるジョン・スチュワートの「ザ・デイリー・ショー」など、政治風刺が鋭い他番組は存在するが、誰もがアクセスできる地上派放送の「ザ・レイト・ショー」が抜けた穴はやはり大きい。視聴者が平日夜、同じ時間にチャンネルを合わせ、番組内のジョークが翌日の主要メディアで報じられるような「共同体験」としてのコメディーは「一つの時代の終わり」を迎えたと言えるだろう。

ただ、コルベア自身はコメディアンを引退する気はさらさらないようだ。「ザ・レイト・ショー」の最終回が放送された翌日、ミシガン州モンローの地方ローカル局の深夜番組に突如登場。動画は瞬く間にユーチューブにアップされ、シュールな笑いで番組ロスに苦しむファンを慰めた。

「ザ・レイト・ショー」の最終回が収録されるニューヨークのエド・サリバン・シアター前に集まる人々=2026年5月21日、ロイター

後続の層も厚い。毎週、時事ニュースを1時間超のスタンドアップショーに落とし込むジョシュ・ジョンソンや、政治家や識者への歯に衣(きぬ)着せぬインタビューが人気のハサン・ミンハジなど、才能は途切れることがない。彼らの活躍の主軸はユーチューブなどデジタルプラットフォームだ。

もともとアメリカの政治風刺は、君主にすら軽口をたたく中世ヨーロッパの宮廷道化師に源流があるとも言われる。権力者が私情で圧力をかけようと、ユーモアにくるまれたまっとうな権力批判を求める視聴者の渇望はそう簡単に消えることはないだろう。