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ルワンダはなぜ「最もクリーンな国」になったのか 月1回の全国民奉仕の日とは

World Now 更新日: 公開日:
ウムガンダの日、掃除をする住民
ウムガンダの日、掃除をする住民=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

東アフリカのルワンダは「世界で最もクリーンな国の一つ」と呼ばれている。清潔な街を実現した理由の一つに、月1回、全国民が参加する奉仕活動があるという。2026年3月のその日を現地で取材した。

約3日半の滞在中、路上にゴミが落ちているのを見たのは1回だけ。歩きたばこを見たのも1回だけ。バイクタクシーの運転手も乗客もヘルメットを着用し、クラクションもめったに鳴らない。徒歩で横断歩道に近づくと、車が止まる。

街路樹の緑がまぶしく、整然としているキガリ市中心部
街路樹の緑がまぶしく、整然としているキガリ市中心部=2026年3月29日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

東アフリカ内陸部に位置するルワンダは、四国の1.5倍ほどの国土に約1400万人が暮らす。コーヒー栽培などが主産業で1人あたりの年間所得は1000ドル余りとアフリカでも高くないが、政府がビジネス環境整備に力を入れる首都キガリは成長著しい。ビルがそびえ、舗装された通りに街路樹が整然と並ぶ。「世界で最もクリーンな国の一つ」と称賛され、とにかく清潔で秩序だっている。

ビルが立ち並ぶキガリ市中心部
ビルが立ち並ぶキガリ市中心部=2026年3月29日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

18~65歳の全国民が汗を流す

裏には、多大な努力があるらしい。その一つが毎月最後の土曜日に開催される「ウムガンダ」。「共通の目的のために集まる」といった意味で、午前8~11時の3時間、18~65歳の全国民がコミュニティー単位などで集まり、掃除や道造り、住宅・学校建設などに汗を流す。「全国民奉仕の日」といったイメージだ。

3月の最終土曜日、ウムガンダを現地で取材した。午前7時半、担当官庁の広報部門から事前に指定された「ニャンザ・キチュキロ・ジェノサイド・メモリアル(虐殺記念館)」に到着した。

1994年に起きたジェノサイドを記憶にとどめるための場所の一つだ。ルワンダでは、多数派のフツと少数派のツチなどの人々が暮らす。ベルギーによる統治期から独立後にかけ、両者は対立し、たびたび衝突。1990年代に内戦に発展し、1994年4月から約100日間で、主にフツ強硬派がツチ住民やフツ穏健派など80万人以上を殺害するジェノサイドに至った。

この日は、4月以降にある追悼行事を前に、記念館周辺を掃除するのが目的だ。

首都キガリの虐殺記念館に展示された、1994年のジェノサイドで殺害された人々の顔写真
首都キガリの虐殺記念館に展示された、1994年のジェノサイドで殺害された人々の顔写真=2014年4月5日、ルワンダ、ロイター

商店は店じまい、通りに警官

午前8時前、記念館近くの商店が店じまいを始めた。「ウムガンダの間は営業できない。終わったら開ける」と店の女性。バイクタクシーが行き交っていた通りの交差点には警察官が立ち、車やバイクを止めて通行目的を尋ねる。緊急の用件などがなければ、通行は認められないという。タッチの差で止められ、あきらめ顔でUターンするバイクタクシーもちらほら。やがて通りから、車やバイクのエンジン音が消えた。

ウムガンダに参加するため、店じまいをする住民
ウムガンダに参加するため、店じまいをする住民=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

記念館の緑地には、近所の住民らが集まっていた。カマやクワを持参している人もいて、ざっと200人ほどか。午前8時過ぎ、サッカーコートほどの緑地に散らばり、雑草を刈り始めた。迷彩柄の服を着た兵士も加わり、横一列で一心不乱にカマを振る。士気を高めるため、歌を歌う一団も。見渡すと、参加者は500人を超えていそうだ。キガリ市長らの姿もあった。カマを持たない人たちは、緑地にたつ建物の庭で草むしりしたり、モップやほうきを使って玄関や階段を掃除したり、黙々と作業に励む。

ウムガンダの日、虐殺記念館の敷地で草刈りをする住民ら
ウムガンダの日、虐殺記念館の敷地で草刈りをする住民ら=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

10時前に作業は終わり、緑地でミーティングが始まった。作業後は、コミュニティーの課題や翌月の作業などを話し合うのが決まりという。マイクを手にしたキガリ市長が「街をきれいに保ち、物を捨てないように」などと呼びかけ、住民がうなずく。

ジェノサイド時には「悪用」

ウムガンダの起源は諸説あるが、政府の説明によれば、古くからある相互扶助の慣習で、貧しい人のために家を建てたり、障害者らの代わりに農作業をするなど、作業を分担する仕組みという。だが、時の権力者が「負の効果」をもたらしたこともある。特にジェノサイド時は政治家らがプロパガンダの場として悪用。敵対勢力への憎しみをあおって住民をたきつけ、殺戮(さつりく)行為に拍車がかかったという。

ウムガンダの日、虐殺記念館の敷地で草むしりをする住民ら
ウムガンダの日、虐殺記念館の敷地で草むしりをする住民ら=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

ジェノサイド後のルワンダで、ウムガンダを世界に知られる「国民運動」にしたのはカガメ政権だ。その「本来の価値」を見直し、国民に再びコミュニティーの一員であると自覚させ、国への貢献を求めた。

元軍人のポール・カガメ氏はジェノサイドで反政府のルワンダ愛国戦線(RPF)を率いた。RPFが政権をとると、2000年に大統領に就任。海外投資を呼び込み、「アフリカの奇跡」と呼ばれる復興を進めた。自ら率先してウムガンダにも参加し、住民とともに汗を流す様子も報じられている。2024年の大統領選では99%超という驚異的な得票率で4選を決めたが、有力な対立候補を排除したり、言論の自由を制限するなど強権的手段を使っているとして、国際人権団体などからは批判を受けている。

大統領選で投じられたポール・カガメ大統領への票を投票所で集計するルワンダ選挙委員会のスタッフ
大統領選で投じられたポール・カガメ大統領への票を投票所で集計するルワンダ選挙委員会のスタッフ=2024年7月15日、首都キガリ、ロイター

ウムガンダの経済効果について、関係機関の報告書は、2007年は40億ルワンダフラン(4億円余り)だったが、2016年は190億ルワンダフラン(約20億円)だったと試算。参加率は全国平均で91%超と記している。掃除はあくまでウムガンダの一つ。クリーンな街を実現した現在では、掃除よりも住宅や学校建設などインフラ整備、災害復興などが主な作業内容となっており、それに伴い経済効果も増えているという。

かつては不参加に罰金

当初は、正当な理由がないのに参加しないと罰金(約550円)が科されていたが、担当官庁の責任者は「数年前に廃止され、今は罰金はない。参加は自発的なもの」と強調した。「参加すれば、幸せになり、誇らしく、愛国心があると見える。参加しないと、その逆に見え、恥ずかしくなる」

ウムガンダが始まる直前、通りに立ってバイクタクシーを止める警察官
ウムガンダが始まる直前、通りに立ってバイクタクシーを止める警察官=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

通りの警察官を目にすると、「自発的」という言葉をそのまま受け取るのは難しいが、住民はどう思っているのだろうか。キガリ市広報の仲介で聞いた。

シャンターリ・ウクミーザさんは「素晴らしいこと。自分たちが国を助けることで、国のお金を節約できます」。市長が呼びかけた「街をきれいに保つ」にも賛成し、「そうしなければ、私たちのキガリは後退してしまいます。きれいな状態を保つためには続けることが必要です。ウムガンダは一度やって終わりではなく、継続して取り組むべきものです」と力を込めた。別の住民も「国をきれいにでき、他の国から来た人が喜んでくれる」とやりがいを語った。ただ、毎月参加しているというこの住民は、参加しない人を「無責任だ」と強い言葉で非難した。

ウムガンダの時間中は通りから人と車が消えた
ウムガンダの時間中は通りから人と車が消えた=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影
ウムガンダが終わると、車やバイクが行き交う
ウムガンダが終わると、車やバイクが行き交う=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影

滞在中に出会った人にも尋ねたが、「異論」はなかった。では、結局のところ強権体制下の「やらされ仕事」なのか。答えは簡単ではない。ある住民は「政府がやるべき仕事を、国民がやっている面はあるかも知れない。でも、ルワンダは小さな国で、目立った産業もない。今はまだウムガンダのような貢献が必要だと思う」と語った。

目に見えて分かりやすく、誰からも称賛される「清潔さ」は、今もなおジェノサイドのイメージがつきまとう国で、決して小さくない、新たな誇りになっているようだ。クリーンな国の背後にある、複雑な歴史と感情が垣間見えた。

キガリ市中心部の歩道。ゴミが全く落ちていなかった
キガリ市中心部の歩道。ゴミが全く落ちていなかった=2026年3月29日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影