首都マニラから車で約4時間、サンバレス州のバライバイ再定住地区小学校は静かな山あいにある。
午前の授業が終わると、待ちに待った時間だ。校舎脇に設けられた食堂に、子どもたちが走ってきた。この日の献立は、豚肉と野菜のスープ、ご飯、バナナ。宗教的な理由で避けるべき食材がある子ども向けには、豚肉のスープとは別にトマトと卵の炒め物が用意されている。
トレーを受け取った子どもたちは、スプーンとフォークを使ってモリモリと食べていく。3分の1ほどの子がお代わりしているようだ。その様子を、エプロン姿のお母さんたちが笑顔で見守っている。
「勉強のモチベーションにも」
小学校があるのは、1991年のピナトゥボ火山の噴火で被災した住民らが多く住む地域で、貧困率が高い。身体検査で体格が基準に満たない子どもを対象に、TFTが給食支援を続けている。今年度は併設の幼稚園を含めて730人の子どものうち、102人が対象という。
「フィリピンには給食がないので、お昼はお弁当を持ってくるか、家に帰って食べます。でも、3食きちんと食べられる子ばかりではないんです」。現地で事業を実施しているTFTの提携団体、NPO法人アクションの山本浩平さん(40)が説明する。フィリピンでは5人家族で月の世帯収入1万2千ペソ(3万1500円)が貧困ラインとされている。アクションが学校の保護者にアンケートしたところ、回答者の8割以上が該当していたという。校長のルビミン・アギラーさん(59)は「給食は子どもたちの勉強のモチベーションにもつながっている」と話す。
給食をつくるのは保護者だ。早朝、食堂に5人ほどが集まる。食材は市場で調達するものもあるが、学校の敷地内で栽培しているナスや空心菜も使っている。
2人の子どもが給食支援を受けているノラ・バナアグさん(52)が畑で働いていた。高校生の長男を筆頭に4人の子どもを抱えるシングルマザー。昨年、夫を交通事故で失った。一時は働きに出たが、労働環境が劣悪で辞めた。給食と畑を担当し、1日250ペソ(約640円)の手当をもらっているという。「給食があるおかげで、どんなに助かっているか。日本の皆さんに感謝しています」と手を合わせた。
給食を食べ終えた子どもたちは、トレーを洗い場まで運ぶ。食べ残しはほとんどなく、バナナの皮だけ載ったトレーばかり。余った給食は保護者が持ち帰って夕ご飯となり、わずかな食べ残しも飼い犬のえさにしているという。
世界には全ての人に足りる食料がある。しかし、現実には食べられる人と食べられない人がいる。課題は分配だ。ただ、先進国で余ったからといって、その食品を運ぶのは難しい。
先進国の肥満と途上国の飢餓
TFTは、飢餓や栄養失調に苦しむ途上国、肥満などの生活習慣病を抱える先進国の「食の不均衡」を解消することをミッションに掲げている。日本の社員食堂や学食で提供される健康メニューを選ぶと、20円分が途上国の子どもたちの給食支援にあてられるというユニークな「食事の分かち合い」の仕組みで、これまでに累計約1億900万食の給食をフィリピンやアフリカの国々に届けたという。
貧困地域で学校給食を実施することは、健康状態の改善や成績アップなど個々の子どもに好影響を与えるだけでなく、社会保障政策や地元の農業振興といった点からも費用対効果が高いことが知られており、1ドルの投資が最大9ドルの利益を生み出すとの試算もある。
国内でTFTのプログラムに参加している企業や大学は現在、600を超えているという。