10月16日は、世界の食料問題を考える日として国連が制定した「世界食料デ―」。毎年、世界の飢餓を救うため、わたしたち一人ひとりに何ができるのかを考えるイベントが各地で催されているが、今年、東京・大手町では、「食品ロス×飢餓~食から持続可能な社会を考える」をテーマとしたイベントが開催された。
主催は、NPO法人国連WFP協会と一般社団法人フードサルベージ(以下、フードサルベージ)。
食料廃棄は地球温暖化に大きく影響
イベント前半には、フードサルベージ代表理事の平井巧さんが登壇。「たべものをすてる なにがいけないの?」のシンプルな疑問をスクリーンに投影しつつ、世界では8億人以上が栄養不良に苦しんでいるにも関わらず、日本の家庭からは年間291万トン、食品会社からは352万トンもの食品ロスが出ていることを示した。その背景には、日本古来の食生活が欧米化して外食化が進み、食と農の乖離が顕著になってきたことなどがあり、地産地消の推奨も、フードロスを減らす一手であることなどを紹介した。
また、食品廃棄・フードロスによって排出される温室効果ガスの量は、中国、アメリカが国として排出している温室効果ガスについで3番目に多く、このことが地球温暖化に大きな影響を与えていることも示唆。文豪サン・テグジュペリの名言「地球は先祖から受け継いでいるのではない、子どもたちから借りたものだ」を引用しながら、地球の未来を考えることの大切さを訴えた。
続いて登壇したのは、国連WFP協会の外岡瑞紀さん。
飢餓の定義を「生活するのに必要な栄養とカロリーが1年以上摂れていない状態」と説明した上で、貧困層のおよそ8割が農業に従事している途上国では、地球温暖化が原因で自然災害が増加して食べ物がなくなると、命にも関わる飢餓状態に陥る人がたくさんいる現実を明かした。
また、現在、世界の食料生産量の3分の1に該当する13億トンが廃棄されているが、そのうちの4分の1の食料があれば世界の飢餓人口をまかなえると説明。この実現に向け、同協会では10月31日まで「Zero Hunger Challenge」を実施中だという。これは、自宅の冷蔵庫などに使わないまま放置している、食品ロスになりそうな食材で料理を作り、その写真を指定のハッシュタグ付きでSNSへ投稿するというもの。1投稿につき、途上国での学校給食4食分に該当する120円が、協賛企業によって寄付される仕組みだ。
続いて登壇したのは、パソナグループベンチャー戦略本部の大村淳さん。「食を通じた持続可能な社会づくり」を目標に地方創生事業に取り組み続けている企業目線から、「日本の食文化のすばらしさに改めて着目することで、SDGsの実現を目指したい」と語った。
仲間内も開催できる「サルベージ・パーティ」で地球の未来を救おう
3者の講演後には、参加者全員に煮物やおにぎり、タルトなどの軽食が振舞われた。発案は、フードサルベージの平井さん。家に持て余している食材を持ち寄って「サルベージ・パーティ(salvage=(食べ物を)救う)」を定期的に開催している平井さんによると、今回の料理は、これまでのイベントで集まった、レトルトの肉じゃがやレトルトのすきやき、高野豆腐などをもとに作られているという。また、当日もサルベージフード受付がおこなわれていた。
フードロス削減のため、食育にも力をいれてほしい
イベント後半に展開されたトークセッションには、講演をおこなった平井さん、外岡さんに加え、法政大学人間環境学部教授の金藤正直さん、コークッキング代表取締役CEOの川越一磨さん、一般社団法人会「畑会」理事の船木翔平さん、株式会社イオンの金丸治子さんが参加。
モデレーターを務めた平井さんからの「食品ロス、フードロスって何が問題?」の質問に対して、川越さんは、「様々な要因があるが、わたしが切り取りたいのはここ」と前置きした上で、「世界中での食の不均衡」。また、「持続可能な社会からの逆行」と答えた外岡さんは、「食品ロスは、もっとも弱者に(命の危機などの)インパクトをもたらすもの。これは、『誰一人取り残さない』というSDGsのコンセプトからずれている」と問題点を指摘した。
「ではなぜ不均衡になるの?」と問われると、「格差が開き続けている負のスパイラル状態に陥っている」と言う外岡さんに続き、「食べられるものを捨てていること自体、社会の需給バランスを崩すことにつながっている」と金丸さん。続く金藤さんは、「その格差を生み出す根源からアプローチすべき。食に対しての意識を教育で底上げしていくことが必要」と述べた。
食育について語ったのは、子どもから大人にまで農体験を提供している船木さん。「種まきや草取りから参加してもらうと、みんな、収穫した野菜は完食する。いつもの野菜と味も違って感じられるみたい。それが日常生活になっていくような食育をおこなっていきたい」と将来の夢を語った。
また、川越さんは、「食べ物の価格は相対的にもっと上がるべき。“食べ物は安いほうがいい”っていう考え方自体が幸福度を下げている。食は、ストーリーも含めておいしさが変わってくるもの。それに、価格が上がることは農業の従事者増加につながる」とコメント。自給自足率を高め、食品ロスを減らすための工夫について、生産者や外食産業従事者、販売店などさまざまな角度から意見が飛び交う一夜となった。
(取材・文・撮影/松本玲子)