子どもの近視、屋外授業で予防 「毎日2時間」プロジェクト、台湾全土の小学校で実践
4月13日朝。台湾北部・新北市の市立興穀(シンクー)小学校を訪ねた。晴天のもと、校門前の広場に4年生約30人が座り込み、教科書を読んでいる。しばらくすると先生の指示で班ごとに散らばり、土のにおいをかいだり、日差しを感じたり、植物の様子を見たり。理科の観察のようにも思えるが、国語の授業だ。
先生の一人は言う。「学習中の単元は歴史的な都市、鹿港(ルーカン)を訪れた体験をつづった文章。それにならって子どもたちにも五感を使ってもらった」
普通なら教室で行う授業をあえて屋外でやるのは、近視予防に効果があるからだ。近視の主な原因は、眼球が前後に伸びて網膜より手前でピントが合うようになることだが、太陽光にはそれを抑制する働きがあるとされる。
台湾は長年、近視人口の多さに悩まされてきた。背景には学歴重視の風潮と厳しい受験戦争がある。一方で指導部は、安全保障上の問題とも考えてきた。仮に中国との間で軍事衝突が起きた場合、眼鏡で視力が矯正できたとしても、雨天での作戦では支障が出るほか、航空機の操縦中に眼鏡が外れるなどの危険性があるからだ。
2000年代に入ると、近視が進めば網膜剝離(はくり)や白内障、緑内障、場合によっては失明すら引き起こすことが認識されるようになった。事態を重く見た行政は「近視は疾患」と位置づけ、学校現場で様々な対策を講じてきた。「教室の照明を明るくする」「遠くを見る」「目の運動」「読書を30分間したら目を10分間休める」などだ。
だが、近視の子は増え続けた。そんな「お手上げ状態」を救ったのが、高雄長庚(チャンコン)記念病院の眼科医、呉佩昌(ウーペイチャン)さん(55)だった。
呉さんはいち早く、屋外活動が近視予防に効果があるとする海外の研究結果に注目していた。出席した教育部(日本の文科省に相当)の会議で紹介。それがきっかけで2010年、すべての小学校を対象とした視力保護プロジェクト「天天戸外活動120」がスタートした。
授業や休み時間を利用して、子どもたちが毎日120分、外で過ごすようにする取り組みで、興穀小のように体育以外の授業も屋外で行うことがある。導入から2年後の2012年には、それまで毎年増えていた小学生の近視の割合が初めて減少に転じた。その後も年に約1ポイントずつ減り続け、世界的に注目された。
興穀小は特に成果を上げた学校の一つだ。授業が屋外で成立するよう工夫し、「毎日120分」の目標を超える日も多い。校舎の改修時にはできるだけ自然光が入る設計にしたほか、教室内の照明も目に優しい黄白色にした。そのかいあって、2022年には、目の健康促進に最も尽力した学校として表彰された。近視児童の割合は台湾全土の平均で45%だったのに対し、同校では38%だったという。
ちなみに、日本の学校保健統計によると、裸眼視力1.0未満の子どもの割合は上昇傾向にあり、小学生で36%、中学生で59%、高校生で72%となっている。
ただ、やはり悩ましいのがスマホ、タブレット、パソコンとの付き合い方。興穀小ではタブレットの使用は3年生以上に制限し、授業後は回収して自宅に持ち帰らせないようにしている。校長の胡銘浚(フーミンチュン)さんは言う。「デジタルを否定するつもりはないが、視力が第一。なぜなら、一度近視になれば元に戻らないからだ」