米フロリダ州は2023年、州内の公立学校で授業時間中に、生徒の携帯電話の使用禁止を義務付ける法律を採択した。この新しい規則は、若者とSNSに対する世界的な規制強化の流れに沿っている。
英国政府は10月初旬、全国の学校で生徒の携帯電話の使用禁止を勧告する新たな指針を発表した。これは2022年に授業中の携帯電話の使用を禁じたイタリアや、2021年に子どもたちが学校に携帯電話を持ち込むのを禁止した中国に続く。
UNESCO(ユネスコ、国連教育科学文化機関)の最近の報告書によると、現在、ほぼ4分の1の国々に学校内での携帯電話の使用を禁止または制限する法律や政策がある。こうした禁止措置は通常、障がいがある生徒や、教員が承認した教育的用途には適用されない。
それでも、スマートフォンの厳重な取り締まりや規制は議論の的になっている。
規制支持者は、禁止措置により生徒がSNSをスクロールしたり、いじめのメッセージを送信したりすることができなくなり、教室で注意散漫になるのを減らせると主張している。
一方、批判的な人は、携帯電話の使用を禁じれば、仕事を持っていたり家族の面倒を見ていたりする生徒に対する不当な懲罰となりかねず、禁止措置の強要は停学など厳しい処分を助長する可能性があると警告する。
禁止措置で、一部の学校ではネット上のいじめが大幅に減ったが、措置の長期的な影響についての厳密な研究はほとんどない。
使用禁止の措置はどのように始まったのか?
米国では、学区単位で、30年以上前から電話禁止の試みが実施されてきた。
違法薬物の取引が急増する中、1989年にメリーランド州で、生徒がポケットベルや当時「cellular telephones(セルラーテレホン=携帯電話)」と呼ばれていた機器を学校に持ち込むのを禁じる法律が可決された。違反者は罰金や懲役刑に処せられる可能性があった。
1990年代、学校に携帯電話を持ち込む生徒が増えるにつれ、多くの学区もまた授業中に鳴り続けるこの妨害機器を排除するため、禁止措置をとった。
2000年代初頭、コロラド州コロンバイン高校で起きた銃乱射事件や同時多発テロ事件の後、学校は緊急時に生徒が両親に連絡できるようにという安全上の理由から、携帯電話の使用禁止措置を撤回し始めた。
ところが、教室内の新たな邪魔物、つまりiPhoneや、Facebookのような人気の携帯アプリを学校側が制限しようとしたので、禁止措置はすぐに再び広がった。米政府のデータによると、2010年までに90%以上の学校が授業時間内の生徒の携帯電話の使用を禁止した。
しかし、自分のパソコンを買う余裕のない低所得家庭の生徒の多くが、学習目的で携帯電話を使っているのではないかとの懸念から、一部の学区は再考を余儀なくされた。2016年までに、携帯電話を禁止した学校は全体の3分の2にとどまった。
以来、依存的なSNSの使用やネット上でのいじめに関する警告が相次ぎ、禁止措置を講じる学校が増えている。10月下旬、数十人の研究者や児童擁護団体が米教育長官ミゲル・カルドナに書簡を送り、全国の学校に携帯電話の使用禁止を促す勧告を出すよう求めた。
なぜ携帯電話は学校で禁止されているのか?
若者たちは学校での乱暴なけんかを撮影し、動画をTikTokに投稿している。また、生徒たちは、学校の備品を破壊する様子を映した動画を競って投稿するSNSチャレンジにも加わっている。
米疾病対策センター(CDC)の今年の報告書によると、2021年には米国の高校生の16%が、前年1年間にメッセージやインスタグラムなどのSNSプラットフォームを通じていじめを受けたと回答した。
SNSの通知が殺到している生徒もいる。「Common Sense Media(コモンセンス・メディア)」(訳注=子どもと家族の生活の向上を目指して情報発信などをする米国のNPOが運営する情報サイト)は最近、アンドロイド携帯を持つ若者約200人を追跡調査した結果を発表した。
調査対象者は通常、1日に237件の通知を携帯電話で受け取っており、そのうち約4分の1が授業時間中に受信していた。
学校での携帯電話の使用禁止は有効か?
学校での携帯電話の使用禁止に関する国レベルの報告書は、相反する結果を示している。
米政府が2016年に校長を対象に行った調査では、携帯電話の使用を禁止している学校は、使用を許可している学校よりもネット上でのいじめの発生率が高いことが報告されている(この報告書では、なぜ携帯電話禁止校の方がいじめの割合が高いかについての説明はなかった)。
スペインの学校を対象にした昨年発表の調査によると、学校での携帯電話の使用を禁止した2地域で、ネット上のいじめが大幅に減っていることがわかった。そのうちの一つの地域では、数学と理科のテストの点数も著しく上がった。
ノルウェーで最近行われた研究では、スマホの使用が禁止になった中学校の女子生徒は平均成績が良くなったことが判明した。しかし、男子の平均成績には「影響なし」だった。おそらく、女子の方がスマホに費やす時間が長かったためだろう、とこの研究はみている。
学校は何をすべきか?
ユネスコは最新の報告書で、学校は慎重を期し、学習における新しいテクノロジーの役割を考慮し、適切な証拠に基づいて方針を決定するよう勧告している。
ユネスコはまた、携帯電話などのデジタルツールに触れることは、生徒が新たなテクノロジーに対するクリティカル・レンズ(批判的な視点)を育むのに役立つ可能性がある、と示唆した。
「生徒たちはテクノロジーに伴うリスクと可能性を学び、必要不可欠な技術を身につけ、テクノロジーがある場合とない場合の生き方を理解する必要もある」とし、「新しく革新的なテクノロジーから生徒を守ることは、生徒を不利な立場に追いやることになりかねない」と指摘している。(抄訳)
(Natasha Singer)©2023 The New York Times
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