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Jポップやアニソン、熱帯雨林から世界へ インドネシアの歌姫レイニッチさん

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インドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん。好きな日本語を、と頼んだら「Ame ga Suki」と書いてくれた。もう1枚には「Neko ga Suki」と書いてくれた
インドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん。好きな日本語を、と頼んだら「Ame ga Suki」と書いてくれた。もう1枚には「Neko ga Suki」と書いてくれた=2025年12月21日、インドネシア・スマトラ島、大嶋辰男撮影

ヒジャブ姿の女性が日本語でキュートに歌う。発音も完璧に聞こえる。歌っているのは、インドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん。熱帯雨林の島から世界へ、日本語の歌を発信している。

「帰らないでと泣いた」。ヒジャブ姿の女性が日本語でキュートに歌う。独特の世界を表現するインドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん(33)。その日本語の発音は完璧に聞こえる。

熱帯雨林で知られるインドネシア・スマトラ島を訪ねた。猫好きの彼女はここで、14匹の猫と暮らしながら日本語の歌を歌い、動画サイトYouTubeで世界に配信している。

有名になったのは2020年。米国のラッパー、ドージャ・キャットの「Say So」を日本語でカバーして歌った。動画をアップすると、ドージャ自らがSNSで曲を紹介して激賞、話題になった。

続いて、松原みきの1979年のデビュー曲「真夜中のドア~Stay with Me」の日本語カバーを配信し、これも話題に。松原が歌う原曲も注目され、音楽配信サービスSpotifyのバイラルチャート(SNSで話題になった曲のランキング)で18日連続で世界1位を記録した。日本のシティーポップブームが起こるきっかけをつくった。

【動画】レイニッチさんからのメッセージ

アニメソングやJポップを日本語で歌うYouTubeチャンネルの登録者数は現在、約248万人。再生は累計約2億8500万回だ。

でも、と彼女は話す。「私は歌いたい歌を歌ってきただけ。なぜヒットしたのか、自分でも分わからない。こんなふうな将来を想像したこともなかった」

自分にとっては自然なこと

日本語で歌うようになったのは、中学生のときから。音楽好きの両親の影響もあったのか、いろいろなジャンルや言語の歌を歌ったが、日本語の歌に特別な思いを感じていたという。

根底にあるのは日本のマンガやアニメの体験だ。世界中で日本のマンガやアニメが人気になっている。彼女も物心がついたときには、テレビで『ドラえもん』を見ていたという。

学校に通うようになると、『キャンディ♡キャンディ』や『名探偵コナン』に夢中になった。「でも本を買うお金がなかった」。図書館や友だちから借りて読んだという。

インドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん
インドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん=ソニーミュージック提供

科学者を目指して大学では物理学を専攻した。ロボット工学も学んだ。卒業後は小学校でロボットについて教えながら、アニソンを日本語で歌うSNSのコミュニティーに参加し、動画をアップするようになった。「自分にとっては日本語で歌うことは自然なこと。好きな歌を歌って、みんなと楽しめるのが面白かった」

アニソンを歌っていると、子どものころ、「次はどうなるんだろう?」とワクワクしながら友達とアニメやマンガの話をしたことを思い出す。「私たちミレニアル世代にとっては、アニメやマンガは人生の一部。アニソンを歌うことで、思い出を再訪するような懐かしい時代を共有することができる」と話す。

歌詞の意味は自動翻訳で

いまも、ただ歌うことが楽しいから歌っている。「歌っている私の楽しさが、聴いてくれる人々に届いていると感じられることが、自分にとっての幸せです」

実は日本語は話せない。中学校時代から本で勉強したが、すぐに忘れてしまい、身につかなかったという。好きな日本語を書いてと頼んだら、ローマ字で書いてくれた。

一方、歌は「耳コピ」。気に入った日本の歌をみつけると、繰り返し聞いて、音として覚える。「発音をまねるのが好きだが、単語を覚えるのは苦手。日本語が上手と言われても、どうやって歌いこなしているのか、自分でも分からない。感覚的に身についているのだと思う」。歌詞の意味の把握には、自動翻訳を使う。以前は翻訳が大変だったので、意味はよく理解しないままに歌っていたという。

東南アジアや日本、米国、ブラジルなどを中心に、世界中にファンがいる。日本語が分からないまま日本語の歌を歌い、世界の人々を魅了する。それも新たな日本語の光景なのだろうか。

インドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん
インドネシアの歌手でユーチューバーのレイニッチさん=ソニーミュージック提供

穏やかで平和だから

アーティスト名のレイニッチは英語の「Rain(雨)」と、『名探偵コナン』の主人公・工藤新一の「一」を組み合わせた。「Rainだけだと、ありきたりでしょ?」

雨が好きな理由は「雨は穏やかで、平和だから」。自然が大好きでちょっと人見知り。作品とプライベートは分けて、自分のペースで静かに暮らしたい。スマトラ島から離れるつもりはないという。

日本語は音の組み合わせが比較的単純。漢字の書き分けや、アクセントの違いに助けられているとはいえ、同音異義語が多くなる。同じ「Ame」でも、天気の雨もあればキャンディーのあめもある、と話すと「そうなの?」。目を見開いて、コロコロ笑った。