AI時代の電力課題に挑戦、AZUL EnergyがスタートアップW杯東北制覇
AZUL Energy社は2019年に創業した、東北大発のスタートアップ企業。大学における青色顔料研究の過程で発見されたレアメタルを使わない触媒「AZUL(アジュール)」を活用し、空気電池など次世代のエネルギーデバイスの性能改善やコスト削減などを研究・開発している。
AI(人工知能)の普及が世界的に加速する一方、AIの処理に特化した専用のデータ処理施設「AIデータセンター」の膨大な電力消費の問題が懸念されており、グローバルに需要が伸びる分野での事業展開が高く評価された。
スタートアップワールドカップは、米シリコンバレーを拠点にスタートアップ企業への投資を手がける「ペガサス・テック・ベンチャーズ」(アニス・ウッザマン創業者兼CEO)が2017年から主催している。参加企業と開催地を世界各国に広げ、毎年3万社以上のスタートアップ企業がエントリーする国際イベントに成長した。
7回目の今回は、世界100以上の国と地域で予選が行われ、日本では九州(5月23日、熊本)、東京(7月18日)、東北(8月22日、仙台)の3地域で開催。合計で8000人以上の投資家や企業関係者らが会場やオンラインで参加したという。
各地域予選を勝ち抜いた3社は、日本代表として世界決勝戦(10月15~17日、米サンフランシスコ)に出場し、そこで世界チャンピオンになれば、100万ドル(約1億5000万円)の出資を受けることができる。
これが初開催となった東北予選では、200社以上の応募の中から書類審査を経た10社の代表が登壇し、自社の技術やビジネスモデルを3分30秒の枠内でプレゼンテーションした。
2位は、りんごなど日本産農作物の生産から技術提供、アジア輸出まで一気通貫で農業事業を展開する「日本農業」(東京)、3位はAI社員で企業の業務効率化・生産性の向上を目指す「JAPAN AI」(東京)が選ばれた。
優勝したAZUL Energyの森崎景子CBOの東北予選プレゼンの主な内容は以下の通り。
■「AZUL」による新たな蓄電ソリューション
皆さん、AIが引き起こす電力課題の真の正体についてご存知でしょうか。
実は、それはこれまでにない規模と速さの瞬発力にあります。我々の推計では、AIデータセンターの消費電力の35%が、マイクロ秒からミリ秒、つまりほんの一瞬の高速領域に集中しています。
現在はリチウムイオン電池(LIB)を高Cレート化運用することで無理やり担わせていますが、本来の能力を超える仕事をさせることから熱ロス、事故リスク、それから冷却負荷が増加しています。
そこで私たちは、「AZUL(アジュール)」を使った新たな蓄電ソリューションで、この課題に挑みます。まず、高速領域では「AZULスーパーキャパシタ」が担い、GPUにマイクロ秒単位の瞬発力をスムーズに供給し、熱ロス・事故リスクも大幅に低減します。
低速領域では、「AZUL空気電池」に再エネを安く大量に貯蔵し、消費電力をクリーンにします。このソリューションを使うと、蓄電負荷を30%、冷却負荷を15%削減することができます。
私たちの高技術である「AZUL」は東北大学で発明された、フロンティアマテリアルです。赤血球に含まれるヘム鉄の分子構造を模倣し、レアメタルを一切使わずに高い触媒性能を実現しています。これを使うことで、スーパーキャパシタの容量を2.6倍、空気電池の出力を2倍に拡大します。
私たちはこの優れた技術で強力な特許ポートフォリオを構築し、国際的な評価を次々に獲得しています。AZULのスーパーキャパシタと空気電池は、適材適所でリチウムイオン電池の限界を超えます。スーパーキャパシタは、リチウムイオン電池に比べて出力は7.5倍、耐久性は20倍以上です。
空気電池は、リチウムイオン電池の1/3のコストで電力を貯めることができ、電池の容量が大きくなるほど、さらにコスト優位になります。そして2つとも、レアメタルフリーかつ熱暴走のない電池で、環境性・安全性にも優れています。
AIの成長とともにターゲット市場を拡大します。2040年にTAM(Total Addressable Market:可能性のある全体市場規模)は17.2兆円に到達。AZULは持続可能性にも優れており、2040年には売上2411億円を目指します。
私たちのビジネスモデルは、装置メーカーに対する材料供給と受託開発です。チームには多様なバックランドのタレントが集結しています。
第一線の研究者とも連携し、AZULの社会実装に取り組んでいます。私たちは持続可能な素材の技術でAIに瞬発力を与え、その成長を加速します。一緒に明日のエネルギーを育てていきましょう。