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大統領選で無名の極右が急進したルーマニア やり直し選挙にSNS規制も、残る課題

World Now 更新日: 公開日:
ルーマニアの大統領選をめぐり、スマートフォンで極右のジョルジェスク氏の発信を見る人=ロイター

社会やSNS上にある一方的に発せられる意見が生む分断は、選挙結果を左右し、ときに国や国際情勢を揺るがす事態になりうる。こうしたリスクが明らかになったのが、ルーマニアだ。無名の極右候補が得票で首位に立ち、異例のやり直し選挙になった背景に、何が起きていたのか。

ルーマニアでは5月18日、半年前にあった大統領選のやり直し選挙の決選投票があった。親欧州派の首都ブカレスト市長、ニクショル・ダン氏(55)が約53.6%を得票し、極右野党ルーマニア人統一同盟(AUR)の党首ジョージ・シミオン氏(38)を破って当選した。

そもそもなぜ、やり直し選挙なのか。

昨秋の大統領選で首位だったのは、極右のカリン・ジョルジェスク氏だった。

ドイツの国際公共放送ドイチェ・ウェレなどによると、泡沫(ほうまつ)候補とみられていたが、動画アプリTikTokで既存の政治勢力を批判して、急速にフォロワーを増やした。民族衣装で乗馬をする様子や柔道を披露する姿など、ロシアのプーチン大統領を思い起こさせる内容もあった。

2024年秋のルーマニア大統領選の候補だったカリン・ジョルジョスク氏
2024年秋のルーマニア大統領選の候補だったカリン・ジョルジョスク氏=ロイター、投票で首位に立ったが、最高裁にやり直し投票の立候補を却下された

その後、ルーマニア政府が「ジョルジェスク氏の動画が広がりやすいように操作されていた」などとする機密文書を公開。諜報機関がロシアの関与を示唆した。憲法裁判所が昨年12月、「公正な選挙の過程が損なわれた」として選挙を無効とした。

ジョルジェスク氏は再挑戦の意欲を示したが、憲法裁によって「民主主義を守る義務そのものに違反していた」として立候補申請を却下された。

やり直し選挙でシミオン氏は「ルーマニアを再び偉大に」と訴え、ジョルジェスク氏を首相にするなどと主張。5月4日の1回目の投票では4割を得票して首位に立っていた。

やり直し選挙にあたり、政府はSNSを規制。仏ルモンド紙によると、4月4日に大統領選が始まってからは、政治的な発信では、支持する立場を表明し、投稿が広告なのかを明示しなければいけなくなった。ルールに沿わない場合、当局はSNSを運営するIT企業に5時間以内の消去を指示した。

ただ、規制にもかかわらず、初回投票で極右のシミオン氏が首位に立った事実からは、親欧州の中道右派や中道左派が強かったルーマニアの変化が見える。

地経学研究所(東京)の石川雄介研究員は「もし、親ロシア派のジョルジェスク氏が政権で力をもてば、ウクライナ情勢も含めて地政学的な変化をもたらす可能性もあった」と指摘する。

国立政治行政大学(ブカレスト)ダン・サルタネスク准教授=本人提供

「SNSは、自分たちが非主流派だと感じてきた人たちの語りを広め、抗議票や急進的な変化を推し進めることを可能にした」。国立政治行政大学(ブカレスト)ダン・サルタネスク准教授は指摘する。

「多数派の高等教育を受けていない人々は、EUや国の政治経済政策によって暮らしが悪くなってきたと感じている」

働く機会を求めたEU先進国への移住がうまくいった時期もあったが、各国が移民を制限する傾向を強めていることが背景にある。

ジェトロ・ブカレストの高崎早和香事務所長も「分断の背景にある格差と向き合わないと、問題は解決しないだろう」とみる。

サルタネスク氏は「(着実な選挙や政治改革など)民主主義が安定する兆しは、分断を克服する一歩となる。民主主義の後退や過激主義を防ぐ」と期待する。