Xの求人で闇バイト、家族のケアが学業に影響…日本に暮らす私たちの周りにある課題

今年2月、ミャンマーで日本の高校生が特殊詐欺に加担させられたことが報じられた。このような行為を18歳未満の子どもにさせることは、国際労働機関(ILO)の条約で、犯罪などの不正行為をさせる「最悪の形態の児童労働」のひとつとみなされる。
電話などを使ったいわゆる特殊詐欺に子どもを加担させる事例は、すでに近年、日本国内で課題となっている。警察庁によると、2024年に特殊詐欺に絡んで検挙された18歳未満の少年は217人いた。
「大事な書類を運んでくれる方を募集」「報酬は1日5万円」。そんな求人がX(旧ツイッター)に流れてくる。こんな「闇バイト」に応募すると、学生証などのコピーを取られ、住所や家族構成などの情報も求められる。
スマホのアプリを通じて指示され、指定場所に行くと、受け取ったのは書類ではなく現金だった。おかしいと気づいて「やめたい」と言うと、個人情報を盾に「学校に言うぞ」「家族を殺す」と脅され、だまし取った金の「受け子」として犯罪を重ねてしまう─。
渋谷青山刑事法律事務所(東京都渋谷区)の弁護士、有原大介さん(45)によると、典型的なケースはこんなふうに起こる。
犯罪組織にとっては「受け子」や「出し子」(現金を引き出す役)の少年たちは使い捨てだ。犯罪を重ねると、再逮捕が続いて勾留が長くなり、高校生なら退学に追い込まれる。少年院への送致を免れるため、数千万円の被害額を家族が弁済する例もある。
有原さんは「保護者が『うちの子に限って』と思わずにコミュニケーションをとることが大切」と言う。急によそよそしくなった、外出が増えた、特殊詐欺で使われるシグナルやテレグラムといったアプリがスマホに入っている、などから子どもの異変に気づけるかもしれないという。
日本の労働基準法は中学生以下の雇用は認めない。18歳未満の場合、原則として午後10時~午前5時は就業不可で、危険・有害な労働も認めていない。ただ、有害ではなく、軽易な労働の場合、13歳以上であれば労働基準監督署の許可を得て雇用できる。例えば新聞配達などだ。
児童労働の数をまとめた公的データはない。途上国で児童労働をなくす活動をしてきたNGO「ACE」(東京都台東区)は2019年に報告書「日本にも存在する児童労働~その形態と事例~」で、児童労働の例として労基法が定めるもののほか、最悪の形態とされる特殊詐欺や女子高生を性的に搾取する「JKビジネス」、子どもを買春や児童ポルノの対象にする例を指摘。関連の統計を紹介した。
関連統計の最新の数字をみると、厚生労働省の2023年のまとめでは、中学生以下の雇用が発覚した事業所が11あった。警察庁によると、昨年の児童ポルノの被害者は1265人にのぼる。
近年、障がいや病気を抱える家族の世話を日常的にする子ども(ヤングケアラー)の支援が課題になっている。こども家庭庁の担当者は「責任や負担の重さで学業や友人関係などに影響が出ることがある」としており、教育を受ける権利などの人権が守られない場合は、児童労働に当たると考えられる。
同庁が2020、2021年度に行った無作為抽出調査では、家族をケアしている子が小学6年生で全体の6.5%、中学2年生で5.7%いた。そのうち、1日3時間以上もケアする子がそれぞれ29.9%、33.5%を占めた。
千葉県白井市の作業療法士、仲田海人さん(31)はヤングケアラーだった。
小学生のころ、3歳上の姉のケアが始まった。いじめが原因で不登校になった姉は昼夜逆転の生活になった。姉の悩みを毎晩のように午前2~3時ごろまで聞き続け、睡眠不足になった。自律神経の不調が続き、中学に入ると遅刻や早退を繰り返した。
「家族のケアは当たり前」と思っていたが、中学生になると「もっと遊びたい」「恋愛したい」と思い始めた。高校の時、担任の先生ら5人の大人に相談したが、状況を変えられなかった。ロボット好きで大学の工学部に入りたかったが、姉への義務感もあり、家族に役立つ情報と経験を得られる作業療法士を目指した。5年前、姉がグループホームに入り、ケアから離れられた。
いま思えば、本来なら専門家が担うべきケアをしていたという意味で、自分の経験は児童労働だったと考えている。
仲田さんは、出身地の栃木県でケアラー支援条例の制定に携わり、講演でつらかった経験も話す。「ポジティブなことだけ話すと、子どもが自分を犠牲にしてケアすることを肯定してしまう」からだ。昨年、一般社団法人Roots4を設立。子どもたちが遊ぶ機会を提供し、SNSで相談も受けている。
一方、立命館大教授の斎藤真緒さん(51)は、日本には家族がケアを担って当然という前提があり、「子どもにケアをさせている親は何をしているんだ」と家族を責める風潮があると懸念する。
英国では、自治体が家族全体を支える体制があるといい、「ケアは誰かがやらなければならないが、ケアのために夢をあきらめる子がいるのは問題だ。ケアラー自身が自己実現できる体制を国がつくるべきだ」と話す。
国は2024年に「子ども・若者育成支援推進法」を改正。家庭の問題で表面化しづらいため、自治体に年に1回程度の実態調査を求める。そのうえで具体的な支援を進めていくことを盛り込んだ。