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振り込め詐欺のかけ子、シナリオ作り、そして逮捕…元受刑者の後悔と支援者たちの奮闘

World Now 更新日: 公開日:
元受刑者の男性(プライバシー保護のため、画像を一部ぼかしています)
元受刑者の男性(プライバシー保護のため、画像を一部ぼかしています)=四国放送提供

振り込め詐欺に手を染め、更生を誓った元受刑者に密着した動画=JRT四国放送のYouTubeチャンネルより

振り込め詐欺のシナリオで2千万円稼ぐ

徳島県に住む30代の男性。彼は2011年10月から4年あまり、振り込め詐欺に手を染めていた。男性の役割は「かけ子」で、様々な役を演じながら手当たり次第に電話をかけ、だまされる人を探していた。

被害者となる人と直接話をする「かけ子」は、振り込め詐欺に関わる役割の中でも重要な位置を占める。特に様々な事態に対応できる頭の回転を求められる。

話した印象からも男性のしゃべり方は、理路整然としていて、あたりも柔らかい。

男性は21歳の時に上京。都内のキャバクラ店で働き始め、店長に上り詰めた。楽しい都会暮らしを過ごす中で、ある日、店に通う客からもうけ話を持ち掛けられた。

欲望渦巻く都会生活で、男性はもうけ話の誘惑に負けた。最初は違法とまでは言えないくらいのグレーゾーンの仕事だったそうだ。しかし、転がり落ちるように非合法な世界に足を踏み入れることになった。

若くしてキャバクラ店の店長を任されるぐらいだから「仕事」を覚えるのは早く、詐欺グループの中でも頭角を発揮した。

「だいたい300件かけると1件成功する」。男性はデータ分析から傾向と対策を導きだし、ついには、かけ子のリーダーとなって詐欺電話のかけ方を指導することになった。

同時に、どのようにしてだますのかという「筋書き(シナリオ)」も書いたという。

振り込め詐欺の世界ではこの筋書きが重要だ。いかにして人をだますか?それはすべて筋書きにかかっている。

捜査関係者や男性の証言によると、振り込め詐欺グループは、筋書きが書かれた台本を手に入れて活動する。要となる台本は売買され、そこには裏の「著作権」が存在するという。

無断で台本を使って活動をすると「業界」で問題となり、「著作権」を持つグループや人物からの危害が及ぶこともあるという。筋書きの重要さを物語っている。

男性は台本を書き、それを数百万円で売っていたほか、彼の台本を使って犯罪が成功した場合、「売上」の一部を受け取る権利もあったという。

「すぐに2千万3千万の金が手に入った」。男性はそう打ち明ける。

人をだますことに罪悪感はなかったのか?そんな質問に、男性はこう答えた。

「最初は罪悪感もあり、電話でしか話したことがない人のことを想像したりしていた。だが、やっていくうちに罪悪感はどんどん薄れていった」

その上で、こうも話した。

「この世界から抜け出そうとした人が、主犯格から暴力を受けるなどを見聞きし、やめるにやめられなくなった…」

いっそのこと逮捕されたら、気持ちが楽になるかもとさえ思ったころ、その終わりはあっけなく訪れた。

筆者(左)に振り込み詐欺に関与していた時の経験を打ち明ける男性(プライバシー保護のため、画像を一部をぼかしています)
筆者(左)に振り込み詐欺に関与していた時の経験を打ち明ける男性(プライバシー保護のため、画像を一部をぼかしています)=四国放送提供

突然の逮捕と刑務所生活

いつものように事務所で、かけ子たちに対して電話をかけ方を指導していた時、突然、窓ガラスが割られ、黒ずくめのスワットのような恰好をした警察官が入って来た。

男性たちは瞬く間に取り抑えられた。詐欺に手を染めた期間は4年余り。あっけなく終わりを告げた。

男性は11件の詐欺罪で起訴、立件された被害総額は1億円超。そして判決は懲役5年8か月の実刑だった。男性は刑務所に入った。

男性によると、刑務所は「新入りは一番下っ端、古株ほど上」という世界で、罪名によってのヒエラルキーも存在していたという。

「殺人犯は別格。詐欺犯はまあまあ上の方。性犯罪は底辺にされる」と男性。そんな世界の中で、一日のうちのわずかな自由時間で、受刑者が別の受刑者をいじめるなども起きていた。

想像以上に厳しい世界だったが、それでも収監されるのが2回目、3回目という受刑者も多くいたという。

「もう社会復帰は無理、刑務所にいた方が楽」「出所しても仕事はないし家族の付き合いもない。刑務所にいればみんな同じ状況だから、話をしてくれる」「ご飯も食べられる。住む場所着るものにも困らない」。そう打ち明ける人たちと出会い、男性は同じようになってはいけないと出所後の更生を誓ったという。

元受刑者の男性(プライバシー保護のため、画像を一部ぼかしています)
元受刑者の男性(プライバシー保護のため、画像を一部ぼかしています)=四国放送提供

「2人に1人」が再犯者

犯罪白書によると、刑法犯で検挙された人はここ10年減り続けているが、刑法犯で検挙される人の49.1%が再犯者となっている。

この数字は、罪を犯した人の社会での更生がいかに困難かを物語っている。

「再犯者の7割が無職の人だ」。そう語るのは大阪を中心にお好み焼きレストランを展開する有名店「千房」の創業者、中井政嗣会長だ。

中井会長は、10年程前から刑務所を出所した人を支援する「職親プロジェクト関西」を立ち上げ、元受刑者を自身の会社にこれまで43人就職させてきた。うち2人は現在、店舗責任者として管理職に登用されている。

職親プロジェクトカ関西代表・中井政嗣さん
職親プロジェクトカ関西代表・中井政嗣さん=四国放送提供

元受刑者を雇用するということは、偏見や差別など社内外に影響があるのではと私が尋ねると、中井会長は語気を強めこう語った。

「それはまさに思い込み。もっと悪く言えば偏見以外何ものでもない。うちの会社に元受刑者を受け入れて恐いとかいう社員は誰もいない。それを受け入れることが当たり前の社風になっている」

当初は、受刑者を受け入れることで、来店者数の減少を心配したり、社内での雰囲気に影響を与えたりしないかという幹部社員の声もあったという。しかしその心配は杞憂に終わったという。

元受刑者が店舗責任者になっている店舗では、売上が2倍になるなどの効果もあった。社会に出れば、元受刑者としての偏見の中で職にもつけず、住む場所も見つけられない中で、衣食住が提供されまた人生をやり直せることに多くが喜びを感じているからではという。

元受刑者を支援、理由は?

徳島県でも、この職親プロジェクトの趣旨に賛同した人がいる。会社員の藤井裕久さん。

藤井さんは支援者らが立ち上げた害虫駆除会社に、振り込め詐欺犯として刑務所に服役し出所した男性を紹介した。そして、彼の生活や仕事などの悩みを聞くなどのサポートするほか、時にはトラブルの解決も行う。

支援する職親プロジェクトの藤井裕久さんと元受刑者
支援する職親プロジェクトの藤井裕久さんと元受刑者(右、プライバシー保護のため、一部にぼかしを入れています)=四国放送提供

元受刑者の男性は「支援がなければ就職は難しいし、前科を隠して就職しても、いつかばれて仕事を続けることは困難になる」と感謝する。

藤井さんは、支援を始めた理由を次のように語る。

「刑務所で1人の受刑者にかけるコスト、そして再犯をすることで、新たな被害者が生まれ、刑務所に入って同じことが繰り返される…。そんなことより、社会で更生し、家庭を持って働き続けることで納税者になる。これほどの社会貢献はないなと思った」

もちろん偏見もある中での社会の更生には困難なこともあるだろう。それでも「元受刑者だからという風に思われないように頑張る」(元受刑者の男性)という言葉に、藤井さんは期待を込める。

拒否された被害弁償

更生の道を歩む男性だが、自身の犯した振り込め詐欺の被害者に対してどう思っているのだろうか?

刑務所に入る前に持っていた数百万円のお金はすべて被害者への返済に回した。しかし5年8か月の刑期を終えてから、弁護士を通して、被害者と残りの被害弁償について話し合おうとしたところ、思ってもいなかった言葉が返ってきたという。

「事件のこと思い出したくもないから、もう二度と連絡しないで欲しい。お金も要らない」

元受刑者の男性は「被害者はきっと被害弁償して欲しいだろう」と思っていた。だがそれすらも受け取ろうとしない被害者に、己の罪の深さを思い知ったという。

被害者家族の心境は複雑

「実は私は被害者家族なんです。妹が昔15年前に殺されたんです」と語るのは、職親プロジェクト関西副代表で、全国でマンション改修を手がける「カンサイ建築工業」代表の草刈健太郎さんだ。

職親プロジェクト関西・草刈健太郎副代表
職親プロジェクト関西・草刈健太郎副代表=四国放送提供

草刈さんは妹の福子さんをアメリカ人の夫に殺害された。それでも草刈さんはこれまで、30人以上の元受刑者を自身の会社で雇用してきた。被害者の家族が加害者を支援する中で、どう心の整理を付けたのだろうか?

「いまだに思っています。悪い奴みんな死んだらいいと」

草刈さんはそう語るものの、9年間にわたって加害者支援を続けるうち、加害者を作らないことこそが新たな被害者を作らないことにつながっているとも気づいたという。

「加害者支援をしていくうちに私の殺された妹が、俺に加害者支援をやれと言っているように思い始めた」

冒頭で紹介した、詐欺罪で刑務所に入っていた男性は、5年8か月の刑期を終えて受け取った刑務作業量は24万円余りだった。

男性は幸いにも出所後、身を寄せる場所があったが、再犯に走る元受刑者の多くは、出所後に受け取ったお金を使い果たし、また犯罪に手を染めてしまうという。

罪を犯した人の2人に1人が再び罪を犯すという現状の中で、新たな被害者を生まない社会はどうあるべきなのか?

答えは簡単ではないが、目を背けているだけでは、永遠に解決はしない。まずは、社会全体が犯罪被害者と加害者の存在に関心を持つことから始まるのではないだろうか。