韓国ドラマ「ミセン」のミュージカル上演 囲碁棋士の夢破れた若者、企業での奮闘描く

「ミセン」は漢字で書くと、「未生」。韓国の囲碁の用語で「基盤上で生死が決まっておらず、どちらにも転ぶ石」のことだという。まだ何ものでもない若者たちは、どんな可能性も持っているという意味が重なっている。
主人公は、韓国では多くの若者があこがれるプロの囲碁棋士を目指していたチャン・グレ。プロ試験に失敗した彼は、大手商社のインターンになる。一緒に入ったのは、高学歴で、熾烈(しれつ)な競争を勝ち抜いてきたピカピカの同期たちだ。インターンから正社員に採用されるためにしのぎを削る様子は、有名大学卒でもなかなか就職できない韓国の厳しい事情が垣間見える。ところが、チャン・グレが配属されたのは、社内の「お荷物」のような部署。さて、彼はどうなるのか。
ドラマでは20話ある物語を、2時間あまりのミュージカルに凝縮させた脚本の腕も見どころ。オフィスを舞台に、グレーや紺のスーツ姿で俳優が歌い踊るシーンは、視覚的にも斬新だ。
それにしても、パワハラあり、セクハラあり、組織の理不尽あり……と、日本と韓国はつくづくよく似ていると思わされる。中間管理職の悲哀もたっぷりと描かれる。そして、そんな中にも、出世や損得に関係なく行動する人がいる。
プロデューサーでホリプロ公演事業部の井川荃芬(いかわ・かおる)さんは、「働いている人たちが自分の物語としてリアルにメッセージを受け取り、エネルギーをもらえるような作品を作りたかった」と話す。
舞台を俯瞰(ふかん)で映し出した映像が正面に映し出され、碁盤の上を歩くように見える俳優は、囲碁の手と会社での昇進、社会を進む道筋にも重なって見える。囲碁と商社という、一見結びつきそうもない二つの要素が、美しい光を駆使した舞台で重なり合う。
出演者は日本の俳優だが、世界上演を見すえ、韓国の俳優とともに韓国でワークショップを開き、共に議論しながら稽古を進めたという。
もともと「ミセン」は韓国のウェブマンガが原作だった。その後、コミック版、ドラマ版が作られたという経緯がある。こうした多様な媒体へと広がっていくのも韓国らしい。日本では、ネットフリックスでドラマ版を配信している(2月末現在)。井川さんは「日本で初演したミュージカル版を他の国へも広げていきたい」と話す。