――尹大統領は非常戒厳で批判を浴びていますが、日韓関係の改善にも尽力しました。
確かに、米国からは韓米同盟の未来を懸念する声が、日本からは韓日関係の発展を心配する声が、それぞれ、私の耳にも届いています。しかし、非常戒厳という事実上のクーデターに失望すべきであって、民主主義を破壊しようとした尹政権を惜しむ気持ちを持ってほしくはないと思います。
そうしなければ、韓国内で噴出している民主主義を守るエネルギーと、それに伴って展開される大きな政治プロセスの意味を見落としてしまいます。今回の事態を契機に、韓国民主主義は再び、さらに進展する可能性が大きいと思います。内乱を起こそうとした人々やそれをかばう勢力は信頼を失い、民主主義を守る勢力が信頼を得て、今後政治の形が変わるかもしれません。日本側ではこうした巨視的な動きにも注意を払ってほしいと思います。
――でも、韓国世論調査では与党「国民の力」に対する支持が3割以上あります。
韓国の保守を支持する人々は健在ですが、内乱をかばった人々に対する国民の評価は冷たいと思います。大統領が非常戒厳を出したのに、解除決議に参加した与党「国民の力」議員はわずか18人に過ぎず、弾劾決議もほとんどが反対しました。
私は野党議員としてではなく、一人の政治観察者として強調したいのですが、韓国の保守勢力が正しい判断をしていれば、進歩勢力との協議も深まり、政治がうまく回るようになります。韓国の保守は、相変わらず軍事独裁政権の残滓(ざんし)を払拭できず、自己変革ができていません。今回の非常戒厳は、誤った判断をした尹大統領と、政治化した軍人、止められなかった閣僚や官僚に責任があります。
本来、朴槿恵(パククネ)大統領が弾劾された2017年から2018年にかけ、保守は本格的に自己変革をすべきでした。それもなく、検察官出身の尹錫悦氏を借りてきて政権を握りました。保守は自己改革の機会を逃しました。今回、保守が本当に自己変革できなければ、韓国政治は今後、進歩勢力に有利な流れになるかもしれません。
――どうして進歩系政権が続くと予想できるのですか。
今回の非常戒厳に反対し、尹大統領の弾劾や逮捕を求める動きは、市民が主役になった「秩序あるソフトなレボリューション(革命)」です。国会議員も市民が選んだ結果です。この流れは軽視できないと思います。
――最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表は過去、日本の歴史認識問題や日米韓の防衛協力を厳しく非難しています。
李代表は、歴史認識問題では、尹政権よりも意見を述べるでしょう。でも、李氏は(同じ進歩系でも)盧武鉉(ノムヒョン)元大統領や文在寅(ムンジェイン)前大統領に比べてイデオロギー色が強くなく、実務的です。韓日関係の改善や韓米同盟の強化を願わない国民はほとんどいません。李在明氏はこうした国民の考えを重視するでしょう。韓米日協力を支持する立場も何度も明らかにしています。結局、韓米同盟や韓米日関係を重視する今の流れは変わりようがないと思います。
昨年の総選挙で、「共に民主党」内でイデオロギーが強い議員の比重が減りました。かつて、金大中(キムデジュン)氏が1998年に大統領に就任する前、「金大中氏は共産主義者だ」「過激分子」「うそつきだ」などというネガティブキャンペーンが長い間、展開されました。最近の報道で、根拠なく、李在明氏の外交を危ぶむ報道や専門家の意見について憂慮しています。