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市場席巻する中国車 政府が巨額資金投入して15年超、今や世界最大の生産・輸出国 

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
広州国際モーターショーに展示された中国電気自動車大手BYDの電動スポーツセダン
広州国際モーターショーに展示された中国電気自動車大手BYDの電動スポーツセダン。BYDのブースは多くの来場者で人だかりができていた=2024年11月、中国・広東省広州市、鈴木友里子撮影

中国は、ほんの20年前まで、自動車を製造する能力がほとんどなく、自動車を所有すること自体が珍しいと考えられていた。それが今日、世界で最も多くの自動車を生産し、最も多くの自動車を輸出している。

米国の次期大統領ドナルド・トランプは、中国に新たな関税を課すと約束している。米国を含む多くの国々はすでに、中国の電気自動車に追加関税を課している。しかし、自動車生産における中国の優位性を考慮すると、こうした抵抗が中国の支配的地位を揺るがすとは考えにくい。

中国国内の自動車販売市場は世界最大で、それは米国と欧州の両市場を合わせた規模とほぼ同じくらい大きい。

中国の国内市場が成長するにつれ、生産能力も拡大してきた。中国政府による巨額の投資と世界をリードする自動化技術の進歩によるものだ。だが、近年は中国経済の低迷で個人消費が減少しているため、販売ペースは鈍化している。その結果、中国は現在、国内需要のほぼ2倍の自動車を生産する能力がある。

余剰生産に対処するため、中国はますます海外の自動車販売市場に目を向けている。

今日、中国は世界のどの国よりも多くの自動車を生産し、輸出している
ほんの20年前まで、中国には自動車を生産する能力がほとんどなく、個人が自動車を所有することは珍しいと考えられていた。それが今日、中国は世界のどの国よりも多くの自動車を生産し、輸出している=©The New York Times

中国は、電気自動車への移行で世界をリードしており、電気自動車の輸出量は世界のどの国よりも多くなっている。BYDのような中国ブランドは、先進的な電気自動車を最も低価格で提供することで世界的に知られるようになってきている。

加えて、中国人の電気自動車への移行が急速に進むなか、中国でのガソリン車の需要は激減したぶん、多くの車が輸出に向けられている。

ところが、中国の貿易相手国は、中国の電気自動車とガソリン車の輸出が何百万人もの雇用を脅かし、大手企業に深刻な打撃を与えると主張している。2024年初め、米国と欧州連合(EU)は、中国からの電気自動車に高額の新関税を課した。

関係各国の政府が憂慮するのは、自動車産業が戦車や装甲兵員輸送車、貨物トラック、その他の車両を製造する、国家の安全保障の基幹産業だからだ。

加えて、中国は自動車の輸入に高額な関税その他の税金を課して障壁としており、中国で販売されている自動車の実質的にほぼすべてが国産車だ。

中国は輸入石油への依存を抑えるため、過去15年以上にわたって電気自動車の開発に巨額の資金を投資してきた。

2003年から2013年に中国の首相だった温家宝は、電気自動車を最優先課題の一つに掲げた。2007年には共産党の枠を超えて、ドイツの自動車メーカー「アウディ」のエンジニアを務めた上海出身の万鋼を中国の科学技術相に任命した。温は、中国を電気自動車の世界的なリーダーにするため、万に実質無制限に予算を使える権限を与えた。

現在、中国の自動車購入者の半数がバッテリー式電気自動車(BEV)かプラグインハイブリッド車(PHEV、訳注=家庭のコンセントから充電できる、ガソリンと電気の両方の動力源を搭載した自動車)を選んでいる。

最近まで、電気自動車の購入者には多額の政府補助金が提供されていた。自動車メーカーは、国営銀行から低金利の融資を受け、税制優遇措置の適用や安価な土地、電力の提供も受けて、多数の工場を建設している。

バンコク国際モーターショーの中国電気自動車大手BYDのブース
スポーツカーから高級ミニバンまでずらりと並ぶバンコク国際モーターショーの中国電気自動車大手BYDのブース=2024年3月、バンコク近郊のノンタブリー、稲垣千駿撮影

ある推計によれば、2009年以降、中国政府が電気自動車とバッテリー産業に提供した支援は2300億ドル以上にのぼる。これが、EUが反補助金関税を課した理由の一つだった。

中国は今後も電気自動車への巨額の投資を続けるとみられ、この分野での優位を維持すると予測されている。

中国には100以上の自動車工場があり、年に計約4千万台の内燃機関自動車を製造する能力がある。これは、中国国内の需要の2倍余に相当する。しかし、電気自動車の人気が高まるにつれ、これらの車の販売は急速に減少している。

その結果、一部の組み立て工場は閉鎖あるいは稼働停止に追い込まれた。だが、自動車メーカーは工場の閉鎖を避けるため、大量のガソリン車を大幅に値引きした価格で海外に販売している。

関税は中国の勢いを減速させるか?

中国製の車が世界市場に大量流入したことで、世界各地で警戒感を引き起こしている。関係国の政府はいずれも、中国製の電気自動車に対し、すでにすべての輸入車に適用されている基本税に加えて追加関税を課している。

これらの関税には、さまざまな形態がある。米国は一律の税を課し、EUは各自動車メーカーが中国の政府機関や国営銀行から受け取っている補助金の額を考慮して、メーカーごとに税率を算出した。インドやブラジルも、自国の産業を保護することを目指している。

しかし、関税だけでは中国の自動車メーカーが持つ競争力の優位性を完全に相殺することはできないだろう。中国企業は、世界の競争相手と同様の品質の車をより低価格で提供している。UBS銀行のアナリストによると、BYD製の車は欧米メーカーの車と比べて、組み立てコストが30%低いとされている。

ドイツ国際自動車ショーで、欧州で発売する電気自動車(EV)を紹介する中国EV最大手BYDの幹部
ドイツ国際自動車ショーで、欧州で発売する電気自動車(EV)を紹介する中国EV最大手BYDの幹部=2023年9月、ドイツ・ミュンヘン、寺西和男撮影

特に大きなコスト削減要因となっているのがバッテリーである。中国は、電気自動車用のバッテリー製造に必要なサプライチェーンを事実上すべて掌握している。

このように、中国が自動車生産で優位に立っていることを考慮すると、世界各国による反発が強まったとしても、今後数年間は中国が自動車業界を支配し続けることを阻止するのは難しいだろう。(抄訳、敬称略)

(Agnes Chang and Keith Bradsher)©2024 The New York Times

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