電気自動車(EV)は走行時に二酸化炭素を排出しないため「脱炭素」に資するとして、ガソリンなどを燃料に走るエンジン車からシフトが進み、自動車業界に地殻変動をもたらした。EV市場で台頭する中国勢は日米欧の自動車メーカーを脅かす存在となっており、欧米と中国の間で激しい貿易摩擦に発展している。
そもそも中国では2000年代から、EVの購入補助金などの政策により、国を挙げてEVの開発・普及を推し進めてきた。ガソリン車ではかなわなかった欧米や日本に対し、EVでは主導権を握ることを目指してきたのだ。
BYDが低・中価格帯に強いEVメーカーとして躍進を遂げているように、中国メーカーの強みはその価格だ。英調査会社JATOダイナミクスによると、2023年の中国でのEVの平均販売価格は約3万1000ユーロ(約502万円)と、米国や欧州の半額以下。安さを武器に世界のEV市場で存在感を高め、中国は世界最大のEV生産国であり輸出国となった。さらにEV輸出の急増で、昨年は自動車全体の輸出台数で初めて日本を抜いて世界一となった。
一方、欧米は中国の強みである安さに批判の矛先を向ける。中国製EVの価格競争力は、中国政府の巨額な補助金によって不当に価格が抑えられた結果であるとの見方からだ。そして、中国がこの不当に安いEVを過剰生産し、世界市場に大量に流入させることで公正な競争をゆがめているとして、相次いで対抗措置に打って出ている。
米国は今年5月、中国からの輸入EVにかけている制裁関税を、25%から4倍の100%に引き上げると発表。EV用バッテリーも3倍超の25%にする。6月にはカナダも、中国製EVに対する新たな関税の検討を表明した。
中国製EVの最大の輸出先である欧州では7月、欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会が、中国からの輸入EVに最大37.6%の追加関税を課す暫定措置に踏み切った。欧州委のフォンデアライエン委員長は「我々の産業を守らなければならない」と訴える。
中国政府は、自国のEVの価格競争力は補助金によるものではなく「新たな技術革新や市場競争によるものだ」と反論。逆に、欧米の対抗措置について「典型的な保護主義のやり方だ」と強く批判している。
中国は今、国を挙げて注力してきたEVとリチウムイオン電池、太陽光発電関連製品を「新三様(新三種)」と称し、新たな輸出の柱と位置づけている。それだけに中国にとっても譲れない分野なのだ。
EVや電池といった分野が産業としての重要性を増すなか、この分野をめぐる各国の論争は政治的な駆け引きの要素を強めながら、複雑さを増してきている。