真っ白な砂浜に、青い海が広がる米フロリダ州のリゾート地、フォートマイヤーズビーチ。海岸沿いにはホテルやペンション、別荘が並び、日中は砂浜や目の前の海で観光客が休暇を楽しむ。
同州の砂浜は世界有数のウミガメの産卵地で、産卵のために米国に上陸するウミガメの約9割が集中する。このビーチにも産卵した場所があり、黄色いテープで四角く囲われ、「ウミガメの巣を乱さないで」と注意書きがある。
昼間はにぎやかなビーチだが、夜になると一転、砂浜から人が消え、建物の照明や街灯には赤色やオレンジ色のやわらかい明かりがともった。ホテルの部屋のカーテンはしっかりと閉められ、暗く、静かな街へと変わった。
「砂浜が照明で明るすぎると、孵化(ふか)したばかりの子ガメが方向感覚を失って迷子になってしまったり、海からあがってきたメスのウミガメが産卵しなくなったりするんです」とウミガメ保護団体「ウミガメ保護機構(STC)」の照明専門家、エミリー・ウーリーさん(32)が説明した。
自然の状態では、夜に陸は暗く、星や月の光が海面に反射する海の方向は明るくなる。ウミガメはそうやって海と陸の違いを見分けるよう進化してきた。しかし、砂浜の近くに明るすぎる照明があると、海の方向を間違え、ぐるぐると砂浜をはい回り、捕食されてしまったり、車にひかれたりすることがあるという。
照明は親ガメの産卵も妨げる。明るすぎると敵に見つかる可能性を感じ、砂浜にあがってもすぐに海へ戻ってしまい、産卵の機会が減ることがあるという。
STCは1959年に世界で初めて設立されたウミガメ保護団体で、世界のウミガメの生態研究や保護活動をしてきた。現在はフロリダ州や、中米・カリブ海地域を中心に活動している。
普段からビーチ沿いの建物の照明の明るさを調査し、ウミガメに影響がありそうな照明を改修したり、交換したりしている。2010年以降、同州の海辺沿いの施設で3万個以上の照明を改修してきた。
野生動物に優しい改修には、照明を「低くする」「遮蔽(しゃへい)する」「長い波長にする」の三つが大切だという。
「低くする」とは、取り付ける高さを可能な限り地面すれすれまで下げて照度を下げ、消費電力も少なくすること。「遮蔽」は、電球に物理的に傘のようなものをかぶせて、地面だけに光が届くようにすること。そして、ウミガメの行動を乱しにくいオレンジ色、赤色といった波長の長い光の照明を使うことで、本来戻るべき海へ向かう効果が期待できるという。
ウーリーさんは「照明を改修した場所では、子ガメたちが海へちゃんと向かっている」。調査では、改修後は陸に戻る子ガメの割合がゼロになったという。
ビーチに隣接するホテルのフロントでは「夜は部屋のブラインドを閉めてください」「砂浜では懐中電灯は使わないでください」と書かれたチラシが配布されている。「ちょっとした気遣いで、ウミガメを守れるんです」(ウーリーさん)
渡り鳥にも異変
渡り鳥への光害も課題になっている。
北米では毎年、春には北へ、秋には南へと渡り鳥が移動する。渡り鳥は夜空の月や星の光を頼りに移動するが、大都市の上空を通過する途中、明るい照明やビルからの光に引き寄せられる。
例えば、米同時多発テロで崩壊した世界貿易センターを象徴するためにニューヨークでともされる2本の垂直の光の柱「トリビュート・イン・ライト」の周りには、毎年9月11日に点灯後、数分以内に1万5700羽近くが現れるという。
人工の光で方向を見失い、建物の壁や窓に衝突してしまう渡り鳥もいる。最近の研究報告では、米国では建物に衝突して年間10億羽以上の鳥が死んでいる。
毎年約20億羽の渡り鳥が通過するテキサス州では、野鳥保護に携わる「全米オーデュボン協会」の支部が、渡り鳥が移動する春と秋に運動を展開。不要な明かりを消す、照明にタイマーや自動センサーをつけるといった行動を促す。
担当者のクロエ・クラムリーさんは「運動は始まったばかりですが、認知度が高まって変化が見られます」。同州では17の市と三つの郡が、春と秋に庁舎の消灯を義務付ける宣言または決議を可決。同州ヒューストンでは、建物のガラスにフィルムを貼るなど鳥に優しいものに改修する取り組みが進む。