1. HOME
  2. 特集
  3. Build Back Better よりよい明日はどこに
  4. 「新型コロナで野生動物元気に」では伝わらない、本当の影響 ウミガメ専門家が語る

「新型コロナで野生動物元気に」では伝わらない、本当の影響 ウミガメ専門家が語る

World Now
米フロリダを拠点に、ウミガメの研究や保護活動をしているデビッド・ゴッドフリー(本人提供)

今年4月、米ハワイのラニアケアビーチの砂浜で群がる20頭以上のウミガメを上空から撮影した写真がSNS上で注目を集めた。「コロナで人が少なくなった砂浜を満喫するウミガメ」などのツイートがされ、日本でも話題になった。地球規模で外出規制・自粛措置がとられる中、「逆に野生動物は元気になった」として、驚きを持って世界中に拡散された。

「コロナの影響は野生動物に確かにあるが、それは正しく理解しないといけない。そうでないと、我々人間が、そこから何を学ぶべきなのかが見えてこない。この写真は、普段から多くのウミガメが来ることで有名な砂浜で撮影されており、実はそれほど驚くことではない」

米フロリダ州ゲインズビルに拠点を置くウミガメ保護団体「Sea Turtle Conservancy(STC)」事務局長のデビッド・ゴッドフリー(53)は、テレビ会議システムを使ったインタビューでそう説明した。

STCは自然保護活動家の草分けとして知られる米国人アーチー・カーによって1959年に世界で初めて設立されたウミガメ保護団体だ。60年以上にわたり世界のウミガメの生態研究や保護活動をしてきた。現在は、米国に産卵上陸するウミガメの約9割が集中するフロリダ州や、世界有数のウミガメの産卵地として知られる中米・カリブ海地域を中心に活動している。

自然保護活動家の草分けとして知られる米国人アーチー・カーの著書の表紙に使われたカリブ海の島のウミガメの写真(STC提供)

ゴッドフリーによると、ウミガメは海を回遊しながら約30年かけて大人になり、生まれた浜辺に戻ってきて産卵する。そのため、今年初めに発生したコロナによって、砂浜に上陸するカメの総数が急激に増えることはありえない。こうした写真で、数が増えたような印象を与えるのは間違っていると主張した。

ただ、コロナによって人間が外出しなくなったことで、ウミガメの産卵行動に影響は出ていると話す。メリットとデメリットの両方があり、それは地域性によって異なるという。

フロリダ州では今、コロナの感染拡大が深刻だ。米ジョンズ・ホプキンス大学によれば、感染者500万人以上、死者16万人超と世界最悪を更新し続けている米国で、同州は6月中旬から感染者が一気に増加。今では感染者50万人、死者は8000人を超え、世界の州(県・省)としては、ブラジルのサンパウロ、米カリフォルニアに続く3番目の感染者数となっている。

4月には大勢の海水浴客らでにぎわったフロリダの砂浜だが、その後の感染拡大で行楽客は減少。昼夜かまわず砂浜で行われるパーティーやコンサートも開催できないことが増え、周辺の飲食店などの多くが時短営業などの対応を迫られた。例年はあちこちで見られるプレジャーボートが今年はほとんど見られない日があるという。

「産卵で上陸しようとするウミガメにとってボートは大きな脅威になっている。死んだ状態で浜辺に打ち上げられるウミガメのほとんどがボートに衝突している」とゴッドフリー。通常は夜、暗くて静かな砂浜での産卵を好むウミガメは、上陸しても周囲が騒がしいと、産卵できずに海に戻ってしまうことがある。そうした悪影響が今年は確実に減っており、「上陸できた回数と産卵に成功した回数は増える可能性がある」と期待した。

ふ化した赤ちゃんにとっての脅威は別にある。光だ。母親ウミガメは上陸すると、ヒレを使って砂浜をはって動き、産卵場所を探す。穴をほり、約100個の卵を産み、砂をかけて穴を隠す。60日ほどでふ化した赤ちゃんは砂の中から出てくるが、明るい方角を海と認識して進んでしまう。

「自然の砂浜は、陸に光がなく、水平線が最も明るい。月や星が出ていれば、さらに顕著だ。赤ん坊は光の方角が海だと認識し、動き出す。古代から生存するウミガメが進化の途中で培った知恵。それが今の陸地は人工的な光だらけ。間違った方向に進んで死んでしまう赤ちゃんが後を絶たない」

周辺の商業施設の時短営業や休業などにより、今年の浜辺は夜の暗さを取り戻しつつある。その結果、海にたどり着く赤ちゃんの数も増えるとゴッドフリーは予測した。

STCは毎晩スタッフを動員して、こうした状況を記録している。産卵シーズンが終わる10月にはデータを取り終わる。来年1月には、ウミガメの保護活動に力を入れているフロリダ州政府を通じて、コロナの影響を受けた分析結果が発表される見通しだという。

一方で、中米やカリブ海諸島では、コロナによるマイナスの影響が問題となっている。コスタリカで「ウミガメの生息する地」を意味するトルトゥゲーロ国立公園。首都サンホセからの道路はなく、船か飛行機でしか近寄れない秘境だ。ここでもウミガメの保護活動をしているSTCによると、現地には約1500人が暮らす街がある。住民の99%がウミガメ観察会などのエコツーリズムに携わり、1%はココナツを生産して暮らすが、観光が主要産業になる前までは、ウミガメの肉や卵を食する習慣があった。

コスタリカのトルトゥゲーロの砂浜でSTCが主催した観察会。ウミガメには、調査目的で発信器がつけられている(STC提供)

その国立公園から観光客が消えた。コロナの影響で、コスタリカに入国することができなくなったからだ。「多くの住民が週単位で生活している。観光業が止まった結果、生活ができなくなり、今では法律で禁止されたウミガメの肉やその卵を食べるしかないほど生活に困窮する人がでている」(ゴッドフリー)。

STCでは約10人の現地チームがパトロールをしているが、密猟を目撃しても取り締まる権限はない。観光業を支えているのがウミガメのエコツーリズムだとして住民の意識向上を試みるが、生活がかかっている問題だけに、困難な状況が続く。パナマやカリブ海諸島でも同様の問題が起きているとしており、コロナ感染が収束して観光客が戻るまでは、解決策を見いだすのは容易ではないという。

コロナ禍で人間の行動が自粛されたことで明暗が分かれた二つのウミガメの産卵地。コロナで環境や自然が「元気になった」という情報が世界中を駆け回る中、ゴッドフリーは「慎重になるべきだ」と念を押す。重要なのは、コロナによる一時的な影響ではなく、これまで環境や自然を改善するために人々が続けてきた努力であり、それをさらに広げていくことだと強調した。

コスタリカのトルトゥゲーロ国立公園でウミガメの保護活動にあたるSTCのスタッフ(STC提供)

フロリダ州ではコロナが起きる前の2019年、アオウミガメの産卵回数は、確認できただけで5万3000回を超えた。同州によると、統計を始めた89年との比較で約80倍という驚異的な増加になったという。同州で最も数の多いアカウミガメの産卵回数は19年に10万6000回が確認された。これは世界最大級だという。オサガメは19年に1100回で、17年に約660回まで落ち込んだ産卵回数を、16年以前まで維持していた1000回レベルに回復した。

その背景にはSTCなどの保護団体が地元自治体などと協力しながら、長年続けてきた意識的な努力がある。ウミガメが誤飲してしまう危険性のある海洋プラスチックの回収や産卵地での保護区の設置、産卵状況の監視やウミガメの生態研究、住民への啓発、ウミガメに影響を及ぼさない特殊光技術の採り入れなどの活動だ。これはウミガメに限らず、他の野生動物の保護活動や自然環境の保全活動でも同じことが言えるという。今回のコロナの影響によって、より問題点が見えやすくなり、「何をすればどういう影響が出るのか、具体例をもって問題提起できるようになった」とゴッドフリーは歓迎していた。

ウミガメの保護活動は日本でも続けられている。1993年に白神山地とともに日本で初めて世界自然遺産に登録された屋久島だ。

数キロにわたる砂浜のあちこちに、無数の楕円(だえん)の小さなくぼみが一列をなしてできていた。波打ち際から砂浜の奥に続いている。屋久島の永田浜。アカウミガメの産卵上陸日本一で、05年にラムサール条約湿地に登録されている。国内最大のアオウミガメの繁殖地となっている小笠原諸島などと並び、日本を代表するウミガメの天国だ。

口永良部島を望む屋久島の永田浜。2頭のウミガメが海から砂浜に産卵で上陸した跡が残っていた。手前の穴の付近に卵が埋まっている

「昨夜上陸を確認したのは18頭。くぼみは、ウミガメが産卵場所を探し、ヒレで砂をかきながら前進した跡です」。多くが60代の地元住民約25人でつくる永田ウミガメ連絡協議会事務局長の渡辺恒雄(69)が説明してくれた。卵の保護や砂浜の監視、ゴミや流木の清掃と、活動は多岐にわたるが、「半分はボランティアです」と苦笑いする。

屋久島の永田浜で、ウミガメの産卵場所を指で示す永田ウミガメ連絡協議会の渡辺恒雄

永田地区には、連絡協議会とは別にウミガメの調査研究や環境保護、教育プログラムなどをしているNPO法人「屋久島うみがめ館」もある。両者で連携しながら環境省や鹿児島県、屋久島町とも協力して、「ウミガメの島」の環境を守ってきた。町は昨年、エコツーリズム推進協議会内に、全ての関係者を含むウミガメ保護利用専門部会を設置し、今後の協力のあり方をめぐる議論を本格化させている。

黒潮にのって屋久島の永田浜に漂着したゴミの一部。韓国語や台湾語の文字の入ったゴミもあった。ウミガメが産卵上陸しやすいように、永田ウミガメ連絡協議会のメンバーらが砂浜から取り除いている

永田浜では保全活動の一環として、産卵期の5~7月の夜間の数時間に限り、事前講習の義務化や人数制限など細かいルールに基づく有料の産卵観察会を開いてきた。ルールブックもつくられており、カメラ、ビデオによる撮影や携帯電話の利用の禁止、騒いだりウミガメに触れたりしないことなどを求め、ウミガメの産卵に適した暗くて静かな環境下での観察会の実施に努めている。

屋久島の永田浜で見つけた看板。ウミガメの産卵の様子をイラストで紹介している

そもそも屋久島は、フロリダ州のように砂浜周辺で大量の光を出すような商業施設もないし、浜辺で大音量のコンサートが開かれることもない。極めて自然の砂浜に近い状況で、ウミガメにとっては好ましい環境が普段から整っている。

それでも、うみがめ館の調査によると、19年度のアカウミガメの永田浜での上陸回数は2902回で、前年度比11.4%減となるなど、ここ数年で減少傾向が続いている。明確な原因は不明だが、浜に来る観光客は年間5000人規模になり、観察会による影響を懸念する声もある。そのため、今年は、産卵地の砂浜がある別の地区を含む島全体で連携した観察会のあり方を模索する年になるはずだったが、コロナ禍で観察会は全て中止となった。

コロナの影響で誰もいない閑散とした永田浜の一角につくられたウミガメの卵の保護柵を渡辺が見せてくれた。波打ち際で産み落とされた卵を波にさらわれないように連絡協議会の監視員たちが移植しているという。

屋久島の永田浜に設けられた保護柵。波打ち際などから監視員らによって移されたウミガメの卵が埋まっており、立ち入り禁止となっている

「結構大変な作業ばかりです。人の手もお金も足りません。コロナの影響で来年がどうなるかも見通せません」と本音をもらした渡辺。「それでも、これからは、今まで地区ごとに行っていた保全活動について、全体で連携を強めることになった。多くの人にウミガメを知ってもらうことが保全活動につながる」。コロナはどうしようもできないが、時代にあった保全活動のあり方を見つけていきたいと意気込んでいた。