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【解説】ノーベル賞とは?2024年の発表中継は?基礎知識や歴史をわかりやすく解説

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スウェーデンのカール16世グスタフ国王からノーベル化学賞のメダルと賞状を授与される吉野彰・旭化成名誉フェロー(中央左)=2019年12月10日、ストックホルムのコンサートホール、代表撮影
スウェーデンのカール16世グスタフ国王からノーベル化学賞のメダルと賞状を授与される吉野彰・旭化成名誉フェロー(中央左)=2019年12月10日、ストックホルムのコンサートホール、代表撮影

2024年のノーベル賞6賞の受賞者が発表される「ノーベルウィーク」が10月7日から始まった。改めて多くの人が注目するノーベル賞の基礎知識や歴史、今年の発表日程などをお届けする。(GLOBE+編集部)

ノーベル賞は、スウェーデンの発明家、アルフレッド・ノーベルの遺言によって1901年から始まった世界で最も権威のある賞です。毎年、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学の六つの分野で、「人類に多大な貢献をした」個人または団体に贈られます。

ノーベル賞の受賞は、研究者や作家、活動家にとって最高の栄誉とされ、その業績は世界中で称賛されます。ノーベル賞は、人類の発展に貢献した人々をたたえるとともに、未来への希望と可能性を示す、世界で最も重要な賞の一つと言えるでしょう。

ノーベル賞を創設したのは、ダイナマイトを発明した、スウェーデンの実業家アルフレッド・ノーベルです。ノーベル賞は、彼の遺言によって1901年から始まりました。 彼の遺言には、「人類に最も貢献した人々に賞を与えたい」という願いが込められています。また、受賞者の「国籍は一切考慮してはならない」と遺言に明記されています。

ノーベルは、幼い頃から化学に興味を持ち、特に爆薬の研究に熱中しました。そして、1866年にダイナマイトを発明。ダイナマイトは、建設や鉱山開発など様々な分野で利用されましたが、一方で戦争に使われる兵器にも使用され、多くの人の命を奪うことになってしまいました。

あるエピソードが残されています。ノーベルが亡くなる数年前にノーベルの兄が亡くなり、その際に、ノーベル本人が亡くなったと勘違いした新聞がノーベルを「死の商人」と評し、そのことを知ったノーベルが自分の業績について深く悩んだというのです。ノーベルは、ダイナマイトや兵器の開発で築いた巨額の財産を人類の幸福のために役立てたいという思いから、ノーベル賞を創設することを遺言に記したと言われています。

物理学賞は、物理学の分野で重要な発見や発明をした人に贈られます。 

例えば、相対性理論で物理学に革命を起こしたアインシュタインは、1921年にノーベル物理学賞を受賞しました。 意外にも、その受賞理由は相対性理論ではなく「光電効果の法則の発見」となっています。

光電効果の研究は、その後の量子力学の発展に大きく貢献するのですが、アインシュタイン自身は有名な「神はサイコロを振らない」というセリフとともに、量子力学を亡くなるまで認めようとしなかったといいます。なお、相対性理論は、時間や空間に対する私たちの理解を大きく変え、GPSなどの技術にも応用されています。

近年では、2020年にブラックホールの研究でロジャー・ペンローズ、ラインハルト・ゲンツェル、アンドレア・ゲズの3人がノーベル物理学賞を受賞しました。 ブラックホールの存在は長年理論的に予測されていましたが、彼らの研究によってその存在が確実視されるようになりました。

化学賞は、新しい物質を発見したり、革新的な化学反応を発見したりした研究者に授与されます。

生理学・医学賞は、人間の体や生命の仕組みを解明し、病気の予防や治療法の開発に貢献した研究者に贈られます。

例えば、近年では以下のような研究が受賞しています。

これらの研究は、私たちの健康な生活に大きく貢献しています。

文学賞は、「理想的な方向へ文学を進歩させた」作品を生み出した人に贈られます。小説、詩、戯曲、エッセイなど、さまざまなジャンルの作品が対象です。

過去の主な受賞者を紹介します。

日本人で3人目、文学賞としては初のノーベル賞を受賞した川端康成
日本人で3人目、文学賞としては初のノーベル賞を受賞した川端康成=1968年10月18日、鎌倉市、朝日新聞社

ノーベルの遺言には「国際的な親善を進めるために最も多くの、または最善の貢献をした者、常備軍の廃止または削減、そして平和会議の設立と推進した者(に贈られる)」と書かれてあり、ノーベル平和賞はその名の通り「世界平和に貢献した人」に贈られます。 具体的には、下記のような功績をあげた個人や団体が受賞してきました。

過去の受賞者には、ネルソン・マンデラ(南アフリカのアパルトヘイト撤廃運動の指導者、1993年受賞)、2023年現在までで最年少17歳で受賞したマララ・ユスフザイ(パキスタンの女子教育活動家、2014年受賞)など、世界的に著名な人物が名を連ねています。

一方、「非暴力・不服従」主義を貫いたインド独立運動の指導者マハトマ・ガンジーは、1937年から1948年にかけて計5回ノーベル平和賞の候補にノミネートされましたが、受賞には至りませんでした。

また、中国政府は2010年に服役中の中国民主活動家、劉暁波(リウシアオポー)氏が平和賞を受賞したことに猛反発。対抗して同年に「孔子平和賞」を創設しました。また賞の選考機関があるノルウェーとの自由貿易協定(FTA)交渉を打ち切り、外交問題に発展しました。

ノーベル平和賞授賞式で、授与されたメダルを高く掲げるマララ・ユスフザイさん(左)と共同受賞者のカイラシュ・サティヤルティさん
ノーベル平和賞授賞式で、授与されたメダルを高く掲げるマララ・ユスフザイさん(左)と共同受賞者のカイラシュ・サティヤルティさん=2014年12月10日、ノルウェー首都オスロ、渡辺志帆撮影

経済学賞は、ノーベルの遺言にはなかった六つ目の賞です。1968年にスウェーデン国立銀行の創立300周年を記念して設立されました。経済学の分野で多大な貢献をした人に贈られます。

近年では、行動経済学やゲーム理論など、新しい分野の研究で受賞する人も増えています。経済学は、私たちの生活と密接に関わっています。経済学賞を受賞した人の研究は、世界経済の発展に大きく貢献しています。

例えば、2022年の経済学賞は、金融機関の破綻や金融危機の研究で、アメリカの3人の経済学者に贈られました。彼らの研究は、金融システムの安定化に役立っています。

ノーベル賞の授賞式は、創設者アルフレッド・ノーベルの命日にあたる12月10日にスウェーデンのストックホルムで行われます。平和賞だけはノルウェーのオスロで授賞式が行われます。気になる選考機関は、ノーベルの遺言により部門ごとに異なります。

各選考機関は、世界中の専門家から期限までに推薦された候補者の中から、厳正な審査を経て受賞者を決定します。すでに亡くなった人は選考の対象から外されます。(ただし、受賞者発表後、受賞式までに亡くなった場合は、賞が授与されます)

ノーベル賞を受賞すると、世界的な名誉だけでなく、賞金とメダル、そして賞状が授与されます。

ノーベル賞の賞金は、賞を運営するノーベル財団が、ノーベルの遺産でつくった基金を運用して得た利益でまかなっています。そのため金額は年々変動します。経済学賞の償金だけは銀行の基金によってまかなわれます。

2024年時点では、1100万スウェーデンクローナ(日本円で約1億5600万円)です。 ノーベル財団の規則によると、受賞者は最大3個人(平和賞のみ個人と団体の両方が受賞対象)で、受賞に値する業績が二つある場合は受賞者間で賞金を均等に分け、一つの業績が2人ないし3人によるものの場合は貢献度に応じて分配されます。

授賞式では、受賞者には金メダルと「ディプロマ」と呼ばれる証書が授与されます。 メダルのデザインは部門によって異なりますが、表面にはアルフレッド・ノーベルの横顔が刻まれています。 賞状は、受賞者の功績をたたえる文章と、美しい装飾が施された手書きの書です。

ノーベル賞の設立を指示したアルフレッド・ノーベルの遺言
ノーベル賞の設立を指示したアルフレッド・ノーベルの遺言=ロイター

ノーベル賞は世界で最も権威のある賞ですが、受賞を辞退した人も過去にはいました。その理由はさまざまですが、政治的な圧力や自身の信念との葛藤などが挙げられます。

このほか、ナチスドイツによりドイツ人3人(化学賞リヒャルト・クーンとアドルフ・ブーテナント、生理学・医学賞ゲルハルト・ドーマク)が辞退を強要されました。全員が後年にメダルと証書を受け取りましたが、賞金はありませんでした。

また1958年に文学賞を受賞したソ連の作家ボリス・パステルナークは賞を受諾したもの、著作が反体制的だとみるソ連政府によって辞退を余儀なくさせられました。

1901~2023年の間にノーベル賞を受賞した女性は64人。このうちマリー・キュリーだけが2度(1903年に物理学賞、1911年に化学賞)受賞しています。

受賞した女性リストはこちら

ノーベル賞はスウェーデンの発明家アルフレッド・ノーベルの遺言によって創設されました。 五つの賞はスウェーデンの機関が、平和賞だけは「ノルウェー国会が選出した5人からなる委員会」が選考と授与を行うことが遺言で定められています。 これはノーベルの意向を反映した結果と言われています。

ノーベルは理由を明かさずに亡くなりましたが、両国は当時、スウェーデン国王を君主とする連合王国だったため、ノルウェー側に配慮したとの説もあります。ノーベルは平和運動を支援しており、平和賞選考をノルウェーに託すことで、より公平で客観的な選考ができると考えたのかもしれません。

ノーベル賞には、なぜか数学賞がありません。さまざまな説がありますが、本当の理由は謎に包まれています。有力な説として、ノーベルの嫉妬説があります。

ノーベルが当時、スウェーデン人の著名な数学者ミッタク=レフラーと 恋敵の関係にあり、彼に賞を与えたくないという気持ちから数学賞を設けなかったという説です。

ただし、ノーベル財団の幹部はかつて朝日新聞の取材に「レフラーが、ある女性研究者がロシアへ移るのをとめようとノーベルに財政支援を頼んだことは事実だが、ノーベルに恋愛感情があったという証拠はない」と述べており、単なるゴシップの可能性もあります。

真偽は定かではありませんが、もし数学賞があれば、歴史に名を残す多くの数学者が受賞していたかもしれません。

その後、4年ごとの国際数学者会議で40歳以下の優れた若手数学者に贈られる「フィールズ賞」(1936年創設)や、数学の顕著な業績を上げた人物に贈られる「アーベル賞」(2002年創設)ができ、いずれも「数学界のノーベル賞」と呼ばれています。

ノーベル賞の受賞候補に誰がいたのか、誰が推薦したのか、またどのように選考機関の調査行われたのかは、少なくとも50年間秘密にされる決まりになっています。50年を経たものについてはノーベル財団のアーカイブで公開され、閲覧が可能になります。

ただし、選考で言及された人物が生存している場合には、引き続き非公開扱いになることもあります。また、過去には推薦資格を持つ人が、誰を推薦したかを公にする例がありました。

日本出身のノーベル賞受賞者は、これまでに29人(2023年時点)います。 その分野は、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和と多岐にわたります。

ノーベル物理学賞を受賞して帰国後、衆参両院議長招待の茶話会で賞状を見せる湯川秀樹博士(中央)
ノーベル物理学賞を受賞して帰国後、衆参両院議長招待の茶話会で賞状を見せる湯川秀樹博士(中央)=1950年8月11日、朝日新聞社

※外国籍を取得したため日本国籍を喪失した方を含みます。2017年文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏は1983年に英国に帰化しています。

2024年のノーベル賞発表も、世界中の注目を集める一大イベントです。各賞の発表は、生理学・医学賞を皮切りに、10月7日(月)から順次行われます。

発表の瞬間をリアルタイムで見届けたいという方は、ノーベル財団の公式YouTubeチャンネルでライブ中継を視聴できます。