ホームレス・ワールドカップ(W杯)は、ホームレス当事者の人生を変え、ホームレスの人たちへの偏見を社会からなくそうと、ホームレス支援誌「ビッグ・イシュー」を共同創設した英国人社会起業家らが2003年に始めた4人制ストリートサッカーの大会だ。当事者は一生に一度だけ出場することができる。オーストリアで第1回大会が行われ、コロナ禍前までは毎年、世界各地で開催されてきた。
今年のW杯はアジア初となる韓国・ソウルで、9月21~28日に開かれ、世界約50の国と地域から男女約500人が出場する予定という。日本代表の派遣は2004年、2009年、2011年に続いて4回目。実に13年ぶりとなる。
これまでの日本代表は、ホームレス経験を持つ人たちの中から選ばれてきたが、今回は、路上生活経験に限らず、ネットカフェや簡易宿泊施設を転々とするような不安定居住を1年以内に経験した人や、祖国を追われた難民状態の人などにも対象を広げた。代表派遣事業を行うNPO法人ダイバーシティサッカー協会が、生活困窮者や若者の支援を行っている団体を通じて呼びかけるなどして、首都圏、関西、東北から10~60代の8人が代表合宿を経て選ばれた。
9月5日に都内で開かれた「日本代表」記者会見では、代表に選ばれた男性2人が新たに制作された青色を基調としたユニホームを着て登場し、「選ばれたからには楽しんで、参加各国の皆さんとも交流して素晴らしい大会となるよう努めたい」「この貴重な経験を何か別のことに生かし、サッカーをこれからも続けていくモチベーションにしていきたい」と抱負を語った。
NPO法人「ダイバーシティサッカー協会」代表理事で一橋大学大学院教授の鈴木直文さんによると、ホームレスW杯の代表派遣に13年の「ブランク」が空いたのには理由がある。
世界大会に出場した当事者が、それきりで終わりではなく、その後も支援団体とつながり、ホームレスのほかにも依存症やひきこもりなど社会的困難を抱えた当事者たちのコミュニティーの中で中心的な役割を果たしていけるよう国内環境を整えていたという。こうした様々な境遇の当事者が参加するフットサル大会「ダイバーシティーカップ」は2015年から東京や大阪で開かれており、今回の日本代表は、そのコミュニティーを代表してもいる。
鈴木さんは、「代表に選ばれた方たちには、帰ってきたら他のいろんな形で役割を担ってほしい。サッカーだけでなく、私たちの活動を一緒に作っていく仲間としての、より多様な役割を担ってくれるといいなと思います。(これまでの困難な経験から)内に閉じこもって世界が狭くなってしまっている方が多いので、広い世界がそんなに遠くにあるわけじゃないということを、国内の大勢の仲間に伝えていく『窓』のような存在になってくれたらうれしいですね」と話した。
また都内で誰でも参加できる「スマイルサッカー教室」を主宰し、ホームレスW杯日本代表ヘッドコーチに就任した田中三千太郎(みちたろう)さんは、「僕自身、ホームレスにもいろいろな定義があって、見た目からはそうとは分からないことや、いろんな人がいると知りました。『ホームレスの方を知りましょう』という会だったら、つらい境遇で大変だろうな、で終わっていたかもしれませんが、サッカーを好きという同じ思いだからこそ、僕自身もすっと入って何かをしたいと思えました。練習後の振り返りの場で、最初は『何もない』と言っていた人が回を重ねるうちに『僕はもう少しこうしたい』と言葉が出てくるようになりました。大会から帰ってきた時に、みんなの姿勢がちょっとでも前向きになってくれるといいなと思っています」と話した。
今大会からホームレス・ワールドカップ日本代表のオフィシャルスポンサーに就任した日本最大級の不動産・住宅情報サービスを運営するLIFULL(ライフル、本社・東京都千代田区)が、ダイバーシティサッカー協会と共同で行った意識調査によると、回答した全国の男女約1900人の35%が、今後自分がホームレス状態になる「可能性がある」と回答。年代別では若いほどその割合が高く、20代では46.6%、およそ約2人に1人が「可能性がある」と回答した。
また、「ホームレス状態の人」がその状態に至った原因としてイメージされるものは「倒産・失業」が約8割。「本人が望んだ」や「働くのが嫌」などの自己責任論も6割を超えた。一方、支援7団体への調査では、7団体すべてが「心身の病気やケガなどで働けなくなったから」「精神障害や発達障害を抱えているから」と回答した。
「ホームレス状態の人」が現状を改善するために必要な施策でイメージするものを尋ねたところ、「雇用支援」が36.7%と最多だったが、支援団体では住まいに関するサポートの選択率が高く、ギャップがあった。