米国人は魚介類にさほど執心していない。日本人やインドネシア人の半分以下しか食べない。平均的なアイスランド人の3分の1以下だ。しかし、一つ大きな例外がある。エビだ。
このふっくらして小さな甲殻類に対する米国人の食欲は、ここ何十年も増加し続けている。平均的な米国人は現在、エビを年間約6ポンド(約2.7キロ)食べており、他のどの海産物よりはるかに多い。
米大手海鮮レストランチェーン「Red Lobster(レッドロブスター)」に聞いてみればわかる。このレストランチェーンは2024年5月に破産したのだが、苦境に立たされた原因の一つはエビの食べ放題キャンペーンで客がエビを食べる量を見誤り、1100万ドルの損失を出したことだった。
それにしても、私たちが好物のエビはどれだけ健康的なのか? 体にいいのか? 世界のマングローブ林やウミガメの集団にとっては、どうか? そして、魚介類の売り場に行った時に、何を買えばよいかを、どうやって知ればいいのか?
人の健康
エビは、たとえばリブアイ・ステーキなどと並ぶ優れたたんぱく質源だ。カルシウムやビタミンB12を豊富に含む。飽和脂肪酸が少なく、心臓によい。エビはコレステロール値が高いものの、専門家らはもはや食事性コレステロールが健康に与える影響についてはそれほど心配していない。
ただし、エビに他の魚介類にあるような栄養上の利点があると期待するなら、がっかりするかもしれない。エビの尾には、オメガ3脂肪酸や鉄分、ヨウ素が特に多く含まれているわけではない。「栄養学的な観点からすると、エビは海の白身肉のようなものだ」とザック・コーエンは言う。米スタンフォード大学海洋ソリューションセンターの栄養学研究者である。
ほとんどの魚介類は陸上生物の肉よりも栄養価が高いが、米国人が食べる種類のエビはタラやテラピアと並んで栄養価リストの最下位近くに位置する。鶏肉はもっとたんぱく質が多く、イワシやサーモン、カキなどの魚介類ははるかに栄養価が高い。
しかし、エビは食物連鎖の底辺に近いため、マグロやメカジキなどの大型捕食類に見られる水銀やダイオキシンといった環境毒素を蓄積しない傾向にある。このため、米食品医薬品局(FDA)が作成している妊婦や子ども向けの「最良の選択肢」リストに載っており、週に2、3回食べても安全だと考えられている。
では、エビに健康を害する要素はあるのか? いくつかある。冷凍エビにはトリポリリン酸ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウムなどの防腐剤が含まれているかもしれないので、亜硫酸塩やリン酸塩に敏感な人は避けた方がいい。また、養殖エビは原産国や養殖場の状況によっていくつかの問題を引き起こす可能性がある。
スペインの国立農業食品研究技術研究所(INIA)でこの問題に取り組んでいる生物学者ホセ・アントニオ・ロドリゲス・マルティンによると、水銀とヒ素がエビ養殖池の底のヘドロに蓄積している可能性がある。
だが、マルティンがエクアドル産の養殖エビから検出した重金属の最高レベルは、最も汚染が少ないマグロの半分だった。つまり、ほとんどの消費者にとって「過度のリスクはない」ということだと彼は言っている。
多くの国では、エビ養殖場でエビの健康を維持するために抗生物質を大量に使っている。ニトロフラン類など一部の薬剤は、肝臓にダメージを与える可能性やがんとの関連があるため、米国ではほぼ全面的に使用が禁じられている。
米ルイジアナ州立大学農業センターの准教授で甲殻類の専門家ジュリー・ライブリーの指摘だと、米国の法律に準拠して出荷されたものは安全だが、輸入されたエビのすべてが米法に準拠して出荷されたとは限らない。彼女の研究や他の研究で、輸入エビから禁止されている抗生物質やラベルに記載されていない防腐剤が見つかっている。
汚染された輸入エビはさらなる研究が必要な問題だが、プラスチック包装がもたらす健康被害と比べると、おそらくそのリスクはさほど深刻ではないと彼女はみている。「個人的な選択に帰する類いの問題だ」と彼女は言うが、抗生物質は敏感な人にはアレルギー反応を引き起こす可能性があることも付け加えた。
エビによる環境や人的コスト
次は、本当に悪い側面に触れたい。海洋の健全さについて考えると、多くの専門家は、エビは我々が口にするものの中で最悪の食物の一つだと言っている。エビが絶滅の危機に瀕(ひん)しているためではない。ほとんどの種は回復力があるが、エビを入手するために私たちがしてしまうことのためだ。
米国人の食卓に上るエビの大半は、主にアジアやラテンアメリカから輸入されている。その半分以上が養殖エビだ。養殖池は多くが海に面しており、沿岸に密集した連なりが広がっている。
養殖池の建設はマングローブの森やその他の湿地など沿岸の重要な生物環境を破壊する。そして、ひとたび養殖池ができると、栄養添加剤や抗生物質などの流出で沿岸がさらに汚染される可能性がある。
また、天然のエビを捕獲しても生態系上の大きな犠牲を伴う。混獲(訳注=捕獲対象とは別の種を意図せずに捕獲してしまうこと)である。エビは小さいので、捕獲するための漁網はエビの周辺にいるモノをすべて捕まえてしまいがちだ。
一部の国ではエビの網にかかった獲物の90%もがエビ以外だ。サメ、カメ、フエダイの稚魚、その他何百もの種が、しばしば漁網や船のデッキで死んでしまうのだ。
場所によっては、エビの生産がヒトにとってもまさに恐ろしいことになっている。AP通信は2015年、タイのエビ産業で奴隷労働が広く行われていることをあばいた。米労働省も、バングラデシュ、ミャンマー、カンボジアのエビ産業で児童労働や強制労働が行われていると非難している。
最近では、「Outlaw Ocean Project(アウトロー・オーシャン・プロジェクト)」(訳注=米ワシントンに本部を置く非営利の報道機関)による調査報道が、米国への最大のエビ輸出国であるインドのエビ養殖場を強く非難し、労働慣行だけでなく、禁止された抗生物質の使用や環境破壊にも懸念を呈した。
あなたにも世界にも優しいエビの買い方
健康的で持続可能なエビを買うことは可能だが、それには多少の労を要する。
まずは、そのエビがどこから来たのか、どのようにして生産されたのかを知る必要がある。そう指摘するのは、モントレーベイ水族館のシーフードウォッチ広報担当コーベット・ナッシュだ。シーフードウォッチは、消費者が情報に基づいてシーフードを選択できるようオンラインで支援する仕組みである。
環境への影響を懸念するなら、おそらく養殖エビの方が少しましだとナッシュは話す。最も持続可能な養殖エビは米国産やカナダ産である。だが、それは米国市場の1%未満を占めるにすぎず、見つけるのが難しい。
米国で2番目に多いエビの供給元はエクアドルだが、それは良い代替案だとナッシュは言っている。ホンジュラスや、人権侵害がひどいタイも環境の点では比較的厳しい規制を課している。インド、インドネシア、メキシコから来るエビは避けるべきだと彼は付け加えた。
天然エビは値が張るが、味が良く、環境毒素に汚染されている可能性も低い。天然エビを買う場合に考慮すべき点は、米国やカナダは漁業慣行も他の国と比べて海洋生物への害が少ない傾向があるということ。そうでなければ、海洋管理協議会(MSC)の認証を得たエビを探してほしい。
それ以上の点となると、国や種、漁業慣行によって異なるため、良いアドバイスは複雑になる。オンラインガイドを参照するのが望ましい。
ただし、専門家らは、あなたができる最も重要なことは持続可能な選択肢についてただすことだと言っている。店員や鮮魚商が、そのエビがどこから来たのか、あるいは、たとえば船がウミガメよけの装置を使ったかどうかなどを知らなくても、質問は業界にプレッシャーを与えることになるからである。(抄訳、敬称略)
(Erik Vance)©2024 The New York Times
ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから