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改正入管法が全面施行、施設収容や送還はどう変わる?世界の難民避難民は過去最多に

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ハマスとイスラエル軍の戦闘が続く中、自宅を逃れ、難民キャンプの食糧支援の列に並ぶパレスチナ人の子供たち
ハマスとイスラエル軍の戦闘が続く中、自宅を逃れ、難民キャンプの食糧支援の列に並ぶパレスチナ人の子供たち=2024年2月2日、ガザ中部デイルアルバラ、ロイター

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) Refugee Data Finder、法務省発表資料から作成。各国の認定率の計算方法は、認定数÷(認定数+補完的保護やその他の庇護+不認定数)。日本の認定数は法務省統計の303人を使用。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) Refugee Data Finder、法務省発表資料から作成。各国の認定率の計算方法は、認定数÷(認定数+補完的保護やその他の庇護+不認定数)。日本の認定数は法務省統計の303人を使用。

難民申請、3回目なら強制送還も

改正法では、難民認定を申請中の人は送還を停止するというルール(送還停止効)に、例外が設けられた。過去に2回不認定とされ、3回目以降の申請を行っているなど人について「相当の理由がある資料」を提出した場合を除き、例外的に送還を可能とする規定だ。

出入国在留管理庁(入管庁)は、「ごく一部ではあるものの、難民認定申請を繰り返すことによって、退去を回避しようとする人がいる」と、この例外規定の必要性を説明する。一方で、日本に難民として保護を求めている人を、迫害の恐れのある国に送還する可能性があるとの懸念も根強い。

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名古屋高裁では今年1月、過去に難民申請を4回退けられたミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの男性について、難民と認めるよう国に命じる判決が出た。全国難民弁護団連絡会議代表で、男性の代理人も務めた渡辺彰悟弁護士は、「『3回目(以降の申請)だから難民ではない』というのは、まったく状況と違っている」と批判する。

3回目以降の申請での「相当の理由がある資料」の提出時期について、入管庁は3、4月に行ったパブリックコメント(意見募集)への回答で、「迅速な送還に支障を来す」として申請時の提出しか認めない、との見解を示した。

3回目以降の申請後に裁判を経て難民認定されたイラン出身の男性
3回目以降の申請後に裁判を経て難民認定されたイラン出身の男性=2021年2月14日、埼玉県内、鬼室黎撮影

1月の名古屋高裁のケースでは、原告側が出生地に関する証拠の提出に約8カ月かかった点について、国側は「不自然である」として信用性がないと主張した。だが判決では、「ミャンマーで息を潜めて暮らすロヒンギャである原告の母が、40年以上も前の書類を探し出し、写真を送信したり、現物を送ったりすることの困難さを考えれば、遅いということは到底できない」と判断された。

このように資料の提出には時間が必要な場合、また、3回目以降の申請後に新たな証拠が得られたり、情勢が悪化したりする場合もあり、「3回目以降の申請時に提出した書類しか認めない」とする入管庁の見解には、疑問も残る。

そもそもの前提として、難民を迫害の恐れのある国へ送還することは、難民条約第33条第1項をはじめ、国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則)で禁止されている。日本は1981年に難民条約に加入しており、この原則を守る義務がある。

申請回数を制限して送還を可能にしている国はほかにもあるが、日本の場合、そもそもの難民認定率が極めて低く、「難民として認定されるべき人が、認定されない制度が運用されてきた」との批判がある。1月の名古屋高裁のほか、昨年12月の東京高裁、今年5月の名古屋地裁などでも、国の難民不認定の判断を覆す判決が相次いでいる。

ミャンマーからボートで到着し仮設テントに滞在するロヒンギャ難民の男性たち
ミャンマーからボートで到着し仮設テントに滞在するロヒンギャ難民の男性たち=2024年5月23日、インドネシア・北スマトラ、ロイター

難民申請者にパスポート取得の命令 さらなる迫害の恐れも

また今回の全面施行で、国は、退去令を受けた人に対し、送還のために必要なパスポートの発給などのために大使館に行ったり、書類を提出したりするよう命じることができるようになった。

命令に違反した場合、1年以下の懲役などが科される罰則がある。難民申請者にとって、本国の大使館は迫害の当事者である可能性があるが、例外の規定は設けられていない。この問題に関するパブコメに対し、入管庁は「個別に判断する」と回答した。

収容に代わる「監理措置」

入管施設への収容に代わり、監理人のもと社会で生活できるようにする「監理措置」制度も新たに設けられた。だが、監理人には入管庁への届け出や報告の義務が課されており、これまでの仮放免制度で保証人を担ってきた弁護士や支援団体からは「利益相反や守秘義務から、監理人にはなれない」との声が上がる。

そもそも2023年の法改正の主眼は、数年にも及ぶことのある入管施設での収容長期化の是正のはずだ。2019年に長期収容に反対してハンスト中だったナイジェリア国籍の男性が餓死した事件がきっかけだった。同様の改正案が審議されていた2021年3月には、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが収容中に亡くなり、入管の管理体制が非難された。同年5月、このときの改正案は採決を見送られた。

ウィシュマさんの遺影を手にする妹のポールニマさん
ウィシュマさんの遺影を手にする妹のポールニマさん=2022年3月9日、東京都内、鬼室黎撮影

2年越しで成立したのが今回、全面施行された改正法だ。

収容に代わる方法として「監理措置」が創設され、退去令が出る前の人に対しては就労も可能にする仕組みとされた。だが、施行規則をみると、就労の許可を申請する時点で勤務先や労働条件の詳細を提出する必要があるなど、「実際に使えるような規定ではない」と支援関係者からは落胆の声も聞かれる。

難民申請者の面接の際、代理人の同席や録音・録画が認められず、ブラックボックス状態であることも、長年、問題視されてきた。改正法の付帯決議では、「手続きの透明性・公平性を高める措置について検討を加え、十分な配慮を行うこと」とされたが、具体的な取り組みはみられていない。

世界の難民・避難民は過去最多

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2024年5月時点で、紛争や迫害により難民や国内避難民となった人の数は1億2000万人に達したという。これは過去最多であり、日本の人口に匹敵する。そして、紛争の長期化や新たな紛争の勃発が影響し、12年連続で増えているという。

UNHCRが6月13日に発表した年間統計報告書「グローバル・トレンズ・レポート 2023」によると、2023年末現在、難民や国内避難民の総数は推計1億1730万人。2022年末時点に比べて880万人、約8%増加した。

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増加の背景には、2023年4月にアフリカ北東部スーダンで始まった武力衝突により、600万人以上が国内避難民となり、120万人が難民となって近隣国へ逃れたこと、また2021年にクーデターが起きたミャンマーで2023年だけで新たに130万人以上が国内避難民となったこと、パレスチナのガザ地区内で同年10月に激化したハマスとイスラエル軍との戦闘で、同月以降12月までに人口の75%以上にあたる推計170万人が避難を強いられたことなどが影響しているという。

また、総数のうち難民は4340万人(前年比7%増)で、10年前の3倍以上に増えたという。

難民の内訳で多いのは、UNHCRが支援対象とするアフガニスタンとシリアがそれぞれ640万人、ベネズエラが610万人、ウクライナが600万人、また国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が支援するパレスチナ難民が600万人となっている。

また国内避難民の数では、スーダンが910万人と、記録が残る中で過去最多となっている。

UNHCRによると、1億1730万人の実に4割以上の4700万人が、18歳未満の子どもだ。また2018年以降、年間平均約34万人の子どもが、生まれながらの「難民」となっている。