「私たちは人間と考えられてない」
今年4月のある平日の朝。40代のバングラデシュ人男性が日本人の妻と2人で暮らす千葉県内のアパートに、3人ほどの入管職員が突然、訪ねて来た。
部屋に入ると、職員らは予定が書き込まれたカレンダーや、クローゼットの中の洋服や下着などを調べた。「預金通帳を見せてください」。妻は断ったが、何度もしつこく頼まれたので、仕方がなく見せたという。「やましいことがあるから見せられないと思われるのも嫌だったから。でも、何でそんなものまで……」。夫婦はいまも屈辱感をぬぐえない。
男性は来日してもう30年近くなる。オーバーステイで、建設現場や工場など様々な職場で働いてきた。2009年に難民申請をした。「日本で難民申請できることは、最初は知らなかった」。バングラデシュで政治活動に関わり、銃撃されたこともあると訴えたが、認められなかった。強制送還の処分を受け、この7年半は「仮放免」という立場で暮らしている。妻とは昨年、結婚した。生活は妻の収入や家族の支援に頼っている。
「私たちはこの国で人間と考えられていないのです。それがすごく苦しい。結婚をしても、生きるために仕事をしようとしても『仮放免者』なのです」
仮放免者とは、強制送還の処分を受けながら、入管施設への収容が長期におよぶなどして、一時的に拘束を解かれた人たちだ。全国に3000人以上いる。難民認定を求めていたり、日本人の配偶者や、日本で生まれ育った子どもがいたりするため、送還を拒み、在留資格を求めている人が多い。仮放免の状態で10年以上になるケースも珍しくない。
強まるプレッシャー
社会で暮らしながらも、入管に定期的に出頭し、仮放免の延長を認めてもらわなければならない。出頭すれば、そのまま「再収容」される可能性もある。許可無く他県に行くことも、仕事をして生活費を稼ぐこともできない。
生活のために、隠れて仕事をする仮放免者がいることも事実だ。だが、最近は就労資格がない外国人が仕事を得るのは難しくなったと、仮放免者たちは言う。2012年に導入された外国人の在留カードで「就労不可」と明記されるようになったことや、マイナンバー制度で不法就労が発覚しやすくなったと経営者が考えていることが影響した可能性がある。
送還に応じない仮放免者は時間と共に増え続けているが、法務省入国管理局は2015年に「仮放免者の監視強化」などを全国の入管に指示した。冒頭のバングラデシュ人の自宅を訪問した入管職員は、カレンダーの予定や銀行口座から、本当に働いていないかどうかを調べていたらしい。「冷蔵庫の中まで調べられた」といった証言もある。生活の手段を絶ち、帰国を促すねらいがあるとみられている。
9月には、オーバーステイになったベトナム人男性が、入管に収容されている間に、入管職員が令状もなく大阪府内の自宅アパートを捜索したとして、職員5人を住居侵入などの疑いで告訴した。
一方、仮放免の延長が認められず、再収容されるケースも相次いでいる。「仮放免者の会」によると、「引っ越しの報告が遅れた」など、これまでにない理由で収容された例があるという。仮放免者や支援者には、「2020年の東京五輪に向けて、在留資格のない外国人を一掃しようとしているのではないか」との見方もある。 (敬称略)