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彼らは私たちだ いま若者が外国人支援に動く理由 一部の「意識高い系」だけじゃない

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「強制帰国させられた」と訴えるカンボジア人技能実習生が働いていた会社の前で、彼らの写真を掲げて抗議活動をするPOSSE(ポッセ)のメンバー=織田一撮影

■同世代の実習生、自分事に感じる

5月下旬の日曜日の夕方、NPO法人「POSSE(ポッセ)」(東京都世田谷区)のメンバー約20人が、神奈川県にある食品メーカーの工場の周りを囲んだ。この会社で働き、5年前に帰国したカンボジア人の元技能実習生からオンラインで「強制帰国させられた」との相談を受けていた。

メンバーは「外国人労働者への差別をやめろ」とのメッセージを書き込んだチラシや横断幕、被害を訴える3人のカンボジア人の写真のコピーをかざしながら「強制帰国の責任をとれ」と連呼した。

ポッセは2006年、中央大生だった今野晴貴らが若者の長時間労働や低賃金の実態を知り、結成した。貧困問題にも取り組み、一昨年からは外国人労働者の相談をうけ、提携する労働組合「総合サポートユニオン」と個別の団体交渉に乗り出している。

メンバーは約210人。ほとんどが10代後半から20代前半の大学生や社会人で、ボランティアとして登録している。

カンボジア人技能実習生が働いていた食品会社前でのPOSSE(ポッセ)の抗議活動に、日本で働いているカンボジア人の若者らも加わった=織田一撮影

食品メーカーの工場での抗議で突然、フィリピンのタガログ語が響き渡った。「私たち労働者には権利があり、そこに日本人と外国人の違いはない」。田所真理子ジェイ(25)が拡声機で、仕事を終えて帰途につく外国人労働者に呼びかけたのだった。

神奈川県生まれ。父親が日本人、母親がフィリピン人。田所が10歳のときに父親が病死し、母親が食品工場でパートで働いて田所と妹弟を育てた。

小学校時代は、同じように母親がフィリピン出身という友達が5、6人いた。家族ぐるみでつきあうなかで、彼らの母親も非正規で働いていたり、生活保護を受けたりしているのを見聞きした。子どもながらに「大変だな」と思ったという。

「育った環境が『外国人も同じ社会の一員』と強く感じさせている面はある。でも、いまはコンビニやスーパーで外国人が働いている姿を見ない日はない。建築現場に行けば外国人がいる。すごく身近な存在です。私のように母が外国出身の『ダブル』ではない若者も、同じ気持ちですよ」

「コンビニやスーパーで外国人が働いているのを普通に見るし、建築現場だとほぼ外国人がいる。学校でもいろんな国籍の同級生がいた。身近な存在です」田所真理子ジェイ

田所真理子ジェイさん=鬼室黎撮影

大学時代から貧困問題に関心があった田所は、昨年7月にポッセに参加。毎週の活動報告会や勉強会に出席し、団体交渉にも積極的に足を運んでいる。3月に法政大学を卒業し、いま大学院を目指している。

なぜ、若者が外国人の力になろうと頑張っているのか?

ヒントを得ようと、東海大学の万城目(まんじょうめ)正雄・准教授(国際経済)に話を聞きに行った。5年前から半年ごとに、教養学部の学生40~70人を対象に、外国人労働者の受け入れに賛成か反対か聞いている。

6月下旬に学生43人にアンケートをとり、回答を集計して驚いた。40人が「賛成」だったのだ。5年前は賛否半々だった。さらに、9割以上が「外国にルーツを持つ人々と共生できる」と考え、多くがその理由に「日本語を学ぶ場などが整いつつある」を挙げた。「共生インフラ」が進展している、と考えていることがうかがえた。

日本に住む外国人は約290万人。10年前から約80万人も増えた。「日本で外国人が急カーブで増えるなかで人生を歩んできた若い世代は、『多文化』という考えが無意識のうちに醸成され、定着している」と万城目は言う。

なかでも急増したのが技能実習生で、40万人を超えた。外国人技能実習機構の統計によると、半数以上は24歳以下。同世代ということが、その苦境を自分事のように強く感じさせているのだろう。

ポッセと連携する労組は食品メーカーに謝罪や賠償を求めている。17年に施行された技能実習法は、意に反した帰国を強いることを禁じており、違反すれば罰則を科せられる。それ以前も「人権を著しく侵害する行為」として、一定期間の受け入れを禁じる行政処分を科せられることになっていた。会社側は朝日新聞の取材に「受け入れ窓口の監理団体などに話を聞いた結果、強制帰国はなかったと判断している」と回答した。

■「意識高い系」でも一人じゃない

国会議事堂や首相官邸が立ち並ぶ政治の中心、東京都千代田区永田町。5月上旬、独協大学4年生の鮎川芽衣(21)と、聖心女子大学4年生の辻李佳(21)は国会と道路をはさんだ衆議院第二議員会館の前で、友人らと座り込みをしていた。

ここ数年、在留資格を失い、出入国在留管理局の施設に長期間収容される外国人が増えていた。政府は一昨年秋に解消策の本格検討を始めた。今年2月、在留資格がない外国人の帰国を徹底させる内容の入管法改正案を閣議決定。法案は4月16日に衆議院法務委員会で審議入りしていた。

これに、超過滞在(オーバーステイ)など、非正規在留の状態にある外国人を支援する団体や弁護士らが「難民申請者を強制送還する改悪だ」と猛反発。NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」が国会前で、連日のように座り込みの抗議活動をしていた。

国会前で展開された入管法改正案に反対する「シット・イン(座り込み)」には多くの若者も参加した=織田一撮影

鮎川は、パレスチナ難民問題などを学ぼうと独協大に進んだ。担当の教授に、難民申請しても認められずに収容されている外国人がいることを教えられ、「日本の難民問題」に目が向いたという。

昨年6月、入管法改正案の骨格となる「専門部会提言」が公表された。鮎川は、入管の長期収容問題をテーマにしたオンライン勉強会で知りあった、国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル日本」の若手ボランティアチーム「ユース・ネットワーク」の佐々木優(22)と、学生による反対意見をまとめることを計画。全国の大学の外国人支援団体に賛同を呼びかけ、辻が加わった。

辻は昨年10月まで、大学公認の難民支援団体「SHRET」の代表だった。海外在住や留学の経験はない。大学に進み、100人ものメンバーがいて活発だと感じ、シュレットに入った。

「まずは見てみよう」と、難民問題に関するイベントに片っ端から顔を出した。90年代に日本に逃れて難民認定を受けたミャンマー人らに実際に会い、話を聞くうちに、「私が動かないと。何とかしないと」と思うようになった。

辻李佳さん=鬼室黎撮影

3人はNGO事務所の一室にこもって作業し、7月中旬、「私たちユースは外国籍の方も含めた全てのひとの人権が尊重される社会になることを強く望む」との声明案をまとめた。

8月末に公表された「共同声明」には、アムネスティ・ユース・ネットワークのほかSHRETなど全国の7大学の支援団体と学生団体が名を連ねた。

そのひとつは、長崎大学の「STARs」だ。4年生の三田(さんた)万理子(21)が2年前の秋に立ち上げた。メンバー23人が、長崎県大村市にある国外退去を命じられた外国人の収容施設について勉強し、ツイッターやインスタグラムで活動を報告している。代表の三田は「地方の学生にとってオンライン勉強会やSNSの力はとても大きい。全国の学生と意見を交わしたり、イベント情報を共有したりして、自分たちの活動の幅が広がる」と言う。

副代表の4年生の小林郁子(22)は「同じような生活を送り、チャットなどSNSの機能をうまく使って情報発信する。そんな同世代とは気持ちを寄せ合いやすいし、気軽に『いいね』ができる」

鮎川は最近、インスタグラムで意見を発信するようになった。「今までは難民支援をしていることをなかなか言い出せなかった。『意識高い系』と引かれそうで。でも、私はマイノリティー(少数派)ではないことが分かったから」

鮎川芽衣さん=鬼室黎撮影

大所帯を束ねた辻も、「SNSのおかげで、全国の仲間に『ここにいるよ』と伝えることができる」と話す。

海外の情報もすぐ届く。一橋大学大学院2年生でアムネスティ・ユース・ネットワーク代表の川本実穂(24)は「先日もベルギーの仲間から、欧州連合(EU)の前で『地球を守れ』と訴えて行進している写真がインスタで送られてきた。刺激になります」と話す。

政府・与党は5月18日、入管法改正案の成立を断念した。3月に名古屋入管に収容されていたスリランカ人が死亡。死に至る経緯を明らかにしようとしない入管庁への批判が強まっていた。

移住連の事務局次長の安藤真起子(47)は「若者の力も後押しになった」と振り返る。座り込みにしても、今まで活動してきた人たちだけだと「見慣れた風景」と埋もれがち。若者が前に出たことで、結果としてメディアの注目度が高まり、国会議員も意識せざるを得なくなったのではないか、という。

国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所は昨年6月、各大学の支援団体がオンライン上で情報や意見を交換する場をつくった。渉外担当の西村愛子は「『自分たちの声を広く届けたい』という学生の思いに応えた」と言う。

若者の「発信力」への期待もある。「大人は、大人よりユースの声に耳を傾ける」と西村。昨年、学生たちが、オンラインで難民の故郷の料理を切り口に難民の現状を紹介するイベントを企画。すぐに料理教室を全国に展開している会社が広報協力をしてくれたという。

ネット空間に放たれた若者の声が響き合い、大きな固まりとなって、政府・与党の前に立ちはだかった。(つづく)

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