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外国人支援の担い手、なぜ若い女性が多いのか そこに日本の「不都合な真実」が

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国会前での入管法改正案に反対する「シット・イン(座り込み)」。多くの若者も参加した=織田一撮影

【前の記事を読む】彼らは私たちだ いま若者が外国人支援に動く理由 一部の「意識高い系」だけじゃない

■私たちにもできることは多い

「入管法改正案の廃案は歴史的な出来事だった」。90年代から外国人の支援に取り組んできたNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)代表の鳥井一平(67)は、支援者の抗議活動の広がりで政府・与党が法の成立をあきらめた例は記憶にないという。

「入管法改正案が廃案になり、私たちにもできることは多いな、と感じた」と、長崎大学4年生の三田(さんた)万理子(21)は言う。だが満足はしていない。「いくら声を上げても届いていないことがまだまだたくさんある」

国会前で展開された入管法改正案に反対する「シット・イン(座り込み)」には多くの若者も参加した=織田一撮影

NPO法人「POSSE(ポッセ)」の中心メンバーの一人、山本健太朗(24)は昨年、アルバイト先の塾からコロナ禍を理由に休むように言われた。休業補償を求めてポッセが提携する労組に加わり、交渉すると、社長は「休業補償を払うのが最善だが、義務ではない」とにべもなかった。

山本が育ったのは、大手自動車メーカーの工場があった神奈川県の中部地区だ。通った定時制の高校では、日系ブラジル人、日系ペルー人の2世、3世の同級生が珍しくなかった。特に外国人労働者は、自分たちがどんな権利を主張できるのか、よくわからず、解雇されやすい。「外国人を使い捨てにする企業のあり方を問う運動を発展させたい」と言う。

ポッセの学生メンバーのまとめ役で、事務局長の渡辺寛人(33)は「いまの10代後半から20代前半は閉塞(へいそく)感を強く感じている」と言う。

彼らが小学校高学年のころの11年に東日本大震災が起きた。10年経っても被災地の「復興」は道半ばで、爆発した原子力発電所の廃炉となると、いつになるのか見通せない。

近年は毎年のように豪雨などによる自然災害に見舞われ、各地で甚大な被害が発生。気候変動の影響が指摘されている。長崎大4年生の小林郁子(22)は「終わりが見えない問題があまりにも多い。自分が生きている間にどれくらい解決するんだろう、と考えると不安にならざるを得ない」と訴える。

「大丈夫かな、この国で生きられるかな」。聖心女子大学4年生の辻李佳(21)や、独協大学4年生の鮎川芽衣(21)と「共同声明」をまとめた佐々木優(22)はそう考えることがある。

佐々木は今春、大学を卒業し、いまは会社勤めだ。長期収容問題に関する情報や意見をSNSなどで発信してきた。日本では技能実習生の長時間労働やパワハラなど人権侵害が絶えないのに、その受け入れを増やしている。難民保護の国際条約に入っているにもかかわらず、難民に対して門戸を開こうとしない。そんな国のありようが納得できない。

佐々木優さん=鬼室黎撮影

福島県出身。小さい頃から人間関係に悩んできた。小学6年生のとき、震災が起きた。実家は被災を免れたが、1カ月後に入った中学校の前に大きな仮設住宅ができ、被災者の苦悩を肌身で感じた。

人づきあいの悩みは中学校卒業まで続いた。「だからこそ、心が傷ついた人を助けることができる」。高校生になると、県主催の「復興ボランティア」に参加し、地元の人たちに暮らしぶりや心身の状況を尋ねたりした。「人を助けたい」との思いがふくらみ、大学では世界の難民問題を学んだ。

佐々木は「入管法改正案は国の人権軽視の姿勢を示している。同世代には『こんな社会のままでいいんですか』と問いかけていきたい」と話す。

■1年で増えたメンバー、8割が女性

「男性優位の社会で女性の私が活躍しようと思ったら、すごく頑張らないといけない。抑圧されているという気持ちがあるから、社会的に立場の弱い人たちへの支援で頑張れると思う」 鮎川芽衣

取材をするなかで、気づいたことがあった。女性が多いのだ。そのわけをポッセの事務局長の渡辺から聞かされると、男性の正規雇用者の私は黙りこんでしまった。

ポッセのメンバーはこの1年で150人増えた。その8割は女性で、ほとんどが外国人労働問題に関心を持って参加した人たちだ。全員と面談し、参加の動機などを聞いた渡辺は憤る。「企業社会に入っても男性の何倍もの努力をしないと認められない。それが出来ないなら家庭で夫に尽くせと言われる。女性はそういう『生きづらさ』をずっと抱えており、不当に扱われている外国人への共感度が高いのです」

日本では非正規雇用者の割合は男性22.1%に対して女性は54.4%。高賃金の管理職が少ないため、正社員では女性の賃金は男性の76.8%にとどまっている。民間企業の男性の育児休暇取得率は7.48%と低水準。17年の調査では介護・看護を理由に過去1年以内に離職した女性は7.5万人と、男性の2.4万人を大きく上回った。

教育の場にも格差が組み込まれている。大学や高校の入試で男性が「優遇」されている実態が次々と明らかになった。世界経済フォーラムは「男女平等の点では日本は156カ国中120位」と報告している。

このままでいいはずがない。そんな焦りが「自分たちが社会を変えなければならない」(長崎大の三田)と、若者をせき立てている。(つづく)

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