【前の記事を読む】外国人支援の担い手、なぜ若い女性が多いのか そこに日本の「不都合な真実」が
■社会「変えられる」は少数派でも
「自分で国や社会を変えられると思う」と考える日本の若者(17~19歳)は18.3%。日本財団が2019年に日本などアジア6カ国と欧米3カ国の各1000人を対象にした調査で、日本の「はい」の割合は他を引き離し最も低かった。外国人支援に走る学生らは、この結果からみれば少数派といえる。
結果を分析した東京学芸大学付属国際中等教育学校(東京都練馬区)の教員、藤木正史は「身近な社会活動に参加してルールを変えるといった経験をしていないと、一足飛びに『社会は変えられるもの』と認識することはなかなかできない」と指摘する。
一方で「裾野は厚みを増している」とも感じている。
藤木はボランティア部の顧問だ。地元のイベントの手伝いにはじまり、ケニアでの女子教育支援のための寄付集めなど活動は幅広い。「東日本大震災前は、いつなくなるかわからないような部だった。いまは毎年十数人が来る」。「ボランティアができると思って、この学校を選んだ」という子もいるという。
国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所の渉外担当、西村愛子の言葉が重なる。「20年前だと、環境問題について話すことさえ格好悪いと思われていた。いまは違う。インスタで軽やかに『こんな問題があるよ』と発信している」
そうはいっても、行動するには勇気がいるのではないか?
私の質問に、聖心女子大の難民支援団体「シュレット」元代表の辻李佳(21)は「『難民支援』というと、何かすごい、難しい活動をしているように聞こえるけれど、どんな小さなことでもいいんです」と答えた。今年、だれもが難民にメッセージを送ることができるアプリをボランティア仲間とつくった。その一通の送信も立派な支援につながっている、と信じている。
アムネスティ・ユース・ネットワークのメンバーで、この秋、創価大学の大学院に進む西家光一(23)は、「オンライン交流会の場とかで、一人一人と対話しながら『僕たちはこういうきっかけで活動を始めたよ』『こういうことができるよ』と伝えていきたい」
■「日本に住む全員の話でもある」
NPO法人「POSSE(ポッセ)」は隔週末、埼玉県川口市でクルド人の子どもたちへの教育支援教室を開いている。上智大学4年生の岩本菜々(22)ら数人のメンバーが、中学生や高校生に勉強を教えたり、付き添いの母親の相談に乗ったりしている。
周辺には、多くのトルコ国籍のクルド人が、難民と認められずに仮放免の状態で暮らしている。就労は禁止され、健康保険にも入れない。生活は困窮している。
岩本が日本に住む外国人に関心を持つようになったのは高校3年生のとき。友人と都内で開かれたバングラデシュの祭りに行き、同じ年のバングラデシュ出身の留学生3人と知りあった。3人はアパートの一室に住み、コンビニでの深夜のバイトに追われていた。「日本の生活、つらいんだよね」との言葉が耳に残った。
「コンビニやスーパーは外国人に頼っているのに、彼らの立場の弱さにつけこんできつい勤務をさせている」
ただ、「外国人だから支援しなければならない」という主張には強い違和感がある。岩本は言う。「クルド人の権利を守る。クルド人が大学に行けるようにする。それは日本に住む全員の話でもあるんです。過労死ラインで働いている日本人はたくさんいる。抑圧されている人たちが、みんなで立ち上がれるような運動をしたい」
6年前、当時の安倍政権が進めていた安全保障関連法案をめぐり、都内の大学生らでつくる「SEALDs(シールズ)」が「解釈改憲。憲法を守れ」と、国会前などで反対集会を続けた。将来に不安を覚え「議論の優先順位が違う」と怒る学生もいた。最終的に安保法は成立し、団体は解散した。
明治大学国際日本学部長の鈴木賢志教授(政治社会学)は「安保法案に対する反対の動きは大手メディアの報道が先にあり、学生団体が続いた。だが今回の入管法改正案では各地の学生がSNSなどで盛り上がり、大きなムーブメントにつながった」と指摘する。
「SNSは『ここに仲間がいるよ』という発信であり、『若者はこの問題を知っているよ』という大人への発信でもあるんです」 辻李佳
そして6年前と大きく違うのが、入管法改正案の反対に奔走した若者の間で「投票に行こう」との声が小さかったことだ。
すぐ近くにいる外国人労働者の苦悩は「自分たちの生活に根ざした問題」(ポッセ事務局長の渡辺寛人)だ。それなのに、政治家は彼らの人権を大切にしようとしない。参政権がないから、票にならないから、だろう。「外国人を助けよう」と熱く語る政治家も、彼らが直面するのは日本人にも共通する問題なのだと受け止めない。若者は「政治」に選択肢がないと歯がみし、「投票で社会を変えるのは無理だと思う」(岩本)と背を向けている。
代議制民主主義を否定しているのではない。急速な少子高齢化に歯止めがかからず、同世代は細るばかり。いっこうに改善しない男女格差――。閉塞感が強まる中、自分たちができること、例えば労働交渉で、日本に住むひとりひとりの生活を良くしていく例を積み重ね、社会の風潮や通念を変える。その先に、自分たちが掲げる大義によりそう「われわれの代表」が出てくる。そう願っているのだ。
「市民活動には社会的な通念を変えるパワーがある。投票だけに頼ってはいけない」 佐々木優
7月の土曜日の夕方、ポッセのオンラインミーティングには約25人が参加し、失踪や超過滞在の状態にある外国人労働者の実態調査や、通信制高校の劣悪な労働環境問題について意見を交わした。
大村市の収容施設について発信している長崎大の「STARs」の三田万理子は、同じく収容施設がある茨城県牛久市の外国人支援団体との交流を深めることを計画している。
若者たちの社会を変える取り組みは続いている。(おわり)