難民保護めぐり国際基準からずれる「難民鎖国」ニッポン 改正入管法の問題点とは
「送還ではなく保護を」と訴え、政府や国会への政策提言や難民のサポートを行っている認定NPO法人「難民支援協会」(JAR)の渉外チームマネジャーの赤阪むつみさんと、広報部の田中志穂さんに聞いた。
改正入管難民法では、難民申請中の外国人は送還を一律に停止するルールを改め、3回目以降の申請者は「相当の理由」が示されなければ送還できるようにした。
これについて難民支援協会の赤阪むつみさんは、日本が1981年に加入した難民条約や国際的な人権条約が定める、迫害の恐れのある国へ送還してはならないという「ノン・ルフールマン原則」(フランス語:Non-refoulement)に反すると指摘する。
同協会のまとめによると、最終的に日本で難民と認定された人のうち、退去強制処分を受けていた人は2010~2021年で48人に上り、複数回の申請で認定される人も7%いた。複数回の申請を経て認められたケースは、来日16年目で認定されたミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの男性、また最初の認定申請から19年後に認定された中国の民主活動家が報道されている。
赤阪さんは「3回目の申請で認定された人もいる。改正法は、難民条約の重要な部分が侵され、本来は保護すべき人を出身国に送り返してしまうおそれがある」と話す。
アメリカなど再申請自体を制限したり、フランスなど申請回数を事実上2回に制限して送還を可能にしたりしている国もあるが、「1回目や2回目の申請で多くの人を難民認定していれば制度的には成り立つ。認定率が極めて低い日本が認定制度や手続きを国際スタンダードに近づけないまま比べるのは適切ではない」という。
出入国在留管理庁によると、2022年の日本の難民認定者数は202人と難民認定制度が始まった1982年以降で最多となったが、不認定とされた人は、1次審査での不認定者と、審査請求(不服申し立て)での不認定者を合わせると1万人を超えた。
改正入管難民法では新たに「補完的保護」が創設された。難民条約上の「難民」に当てはまらない、紛争から逃れた人たちも難民に準じて保護する制度で、対象者はウクライナ避難民などを想定しているとされる。
赤阪さんは、「難民条約上の難民ではない人も保護しなくてはいけないという国際法の枠組みが広がっている中での制度創設は評価するが、法律にある補完的保護の定義はどこの国も使っていない日本独自のもの」と指摘する。
改正法で、補完的保護対象者は、難民条約上の五つの迫害理由(人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見)以外の迫害の恐れがある人となっている。
一方で、日本以外の各国で「補完的保護」といえば、国際人権規約や拷問等禁止条約、子どもの権利条約などの国際人権法を用いて、「難民」に当たらない人々を幅広く保護していく流れがあるという。
赤阪さんは、「法案にある補完的保護は、難民と同等の要件が求められるので、これまで人道配慮で保護してきた人を保護できないのではないかと懸念している」と話す。
保護対象者の範囲のほかにも、難民の審査や救済の仕組みでも日本の制度には課題が指摘されている。
その一例が、難民認定手続きの1次審査で申請者が入管の調査官と行う面接で、弁護士など代理人の同席が認められないことだ。イギリスやフランス、カナダ、韓国などでは代理人の同席や録音・録画が認められている。
さらに難民と認定された場合でも判断の根拠は示されず、不認定の場合は1~2枚の書類が示されることが多いが、国が不認定とした具体的根拠を把握することはほとんどできないという。
赤阪さんは、「手続きの透明性はとても重要だ。何の資料をもとに判断に至ったかが本人に開示されないために、当事者が結果を受け入れがたい状況をつくっている。これは法改正なく改善できる部分だ」と指摘する。
また、政府が3月に出したガイドライン「難民該当性判断の手引き」から、「信憑性の評価」が欠落していたことも問題だとみる。
信憑性は、申請者の主張や難民だという証拠が記録上の事実から十分に分からない場合に問題となる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民認定基準ハンドブックでは、迫害から逃れてくる人々は着の身着のままの場合が多いことから、すべての証拠がそろわない場合でも、「疑わしきは申請者の利益に」(灰色の利益)の原則を適用することが必要だとしている。赤阪さんは「もし政府が国際基準にのっとったガイドラインを作るなら、UNHCRのハンドブックの項目にのっとったものを作ることが望ましい」と指摘する。
1次審査で不認定となった場合に、不服申し立ての審査を行う機関が日本では実質同じ、法務省出入国在留管理庁である点も問題視されている。難民研究フォーラムの調査では、欧米の多くの国で、1次審査とは異なる機関が審査を担う。
近年、外国人らが収容される入管施設で起きた死傷事件や、ウクライナ避難民の来日などで、難民や移民を含む外国人問題に向けられる社会の関心は変わってきている。
日本リサーチセンターの2022年の世論調査でも、難民申請中の人を保護した方がいいと答えた人はすべての年代で多数を占めた。
難民支援の拡充を社会に発信してきた難民支援協会の田中志穂さんは、「ここ10年で日本における難民や移民を含む外国人を取り巻く環境が大きく変わり、関心を持つ人たちが増えている。今回の入管難民法改正をめぐっても、若い人たちを含むいろいろな分野の人が連帯し、声を上げる場面があった」と話す。
赤阪さんは、「外国人は参政権を持たないので、外国人問題は国会の審議などでも劣後されるものだと言われ続けてきたが、入管法改正の議論やウクライナの方々の受け入れを通じて関心度が高まり、機運が高まっている。それを政治にも反映させ、制度を改善して、国際条約にうたわれている難民保護に近づけていくことを日本も目指してほしい」と話した。