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美容整形が盛んな韓国で中高年男性のアンチエイジング手術が急増 背景に老化への恐怖

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スターライン整形外科の受付に張られていた、手術を受けた人たちの写真。家族らと一緒に写り、みなうれしそうだ
スターライン整形外科の受付に張られていた、手術を受けた人たちの写真。家族らと一緒に写り、みなうれしそうだ=2024年3月22日、韓国・ソウル江南、坪谷英紀撮影

美容整形大国の韓国ではいま、アンチエイジング(抗加齢)手術がかつてないほど人気だ。これまで手術を受けるのは女性が主だったが、最近は男性も急速に増えている。老いることへの恐怖と社会といつまでもつながっていたいという思いが、中高年の男女を美容整形手術に向かわせている。

妻と一緒に手術受ける男性も

首都ソウルの繁華街の一つ、江南地区。地下鉄狎鴎亭駅近くに美容外科が集積する一帯がある。通りに並ぶビルのほとんどに美容外科が入居する。看板をみるとクリニックには得意分野や専門があり、二重まぶた、肌たるみ、美肌など細分化されている。中には漢字の看板もあり、中国や日本からの患者を受け入れているようだ。

ソウル江南地区にある通称「整形通り」。通り沿いのビルには美容外科が多く入居する
ソウル江南地区にある通称「整形通り」。通り沿いのビルには美容外科が多く入居する=2024年3月21日、坪谷英紀撮影

その一画から少し離れた、より江南の中心部に近いところに、「スターライン整形外科」はある。中に入ると街の喧騒とうって変わり、待合室には心地よい音楽が流れ、癒やされる空間だ。アンチエイジングの専門クリニックとして2022年に開業した。

李尚奐(イ・サンファン)院長(46)はほおなどのたるみをとる、フェースリフティング手術を得意とする。フェースリフティングは、靱帯(じんたい)を切って皮膚の下のほおの筋膜層のたるみをとる手術だ。

そんなスターライン外科も今年に入り、男性の患者が急に増えたという。これまでは女性がほとんだったが、年間100件ほどのフェースリフティング手術のうち、7件に1件は男性という。まぶたなどのたるみをとる手術なども含めると、3割ほどが男性を占めるという。

フェイスリフティング手術の説明をする、スターライン整形外科の李尚奐(イ・サンファン)院長
フェースリフティング手術の説明をする、スターライン整形外科の李尚奐(イ・サンファン)院長=2024年3月22日、韓国・ソウル江南、坪谷英紀撮影

李院長によると、女性たちが夫を連れてくる例が多いが、最近は男性が妻を連れてきて一緒に手術を受けるような例もあるという。コロナの時はリモートワークなどで外に出る機会が減り、手術を受けやすい環境だったことから手術を受ける人が多かった。コロナが落ちついてからもコロナ期間に手術を受けた知人の姿を見て多くの患者がやってくるという。

手術を受けるのは、快活さが仕事に直接影響する政治家といった人もいる。だが、ほとんどが普通の人で、こういった職業の人が多いといった傾向もとくにないという。「娘さんの結婚を控え、両家の顔合わせの前に手術をするとか、そのようなことが動機になっています」と李院長。そんな人たちのあこがれが米国人俳優のブラッド・ピットなのだという。彼自身が手術したことは明言していないが、そうした写真が出回っていて、それが認識の変化に影響していると李院長は分析する。「リフティングはたるみをなくすだけなので、顔自身が変わるわけではありませんが」

「ルックスは評判に影響する」

私立高校の事務職員、張宰瑛(チャン・ジェヒョン)さん(56)は3年前、娘の孝珍(ヒョジン)さん(25)のすすめで、スターライン整形外科で目の下のたるみをとる手術を受けた。手術後のボトックス注射も含めて120万ウォン(約13万8000円)かかった。孝珍さんも「父は手術を受けて10歳は若返った。父と二人だけで一緒に映画をみたり、食事に行くことも増えた」という。

「これまで周囲から怒ったような顔をいわれてきたが、表情が明るくなり、若返って50代前半にみえるといわれる。自信が出てきて、職場で昇進することもできた」と宰瑛さん。「学校で生徒の親や生徒と接し、以前よりも親近感をもって接してくれるようになった。そのような体験から外見がよくなることが自分の価値を増進させると手術を受けて感じた。ルックスはその人の評判に影響すると思う」と話す。

目の下のたるみをとる手術を受けた、張宰瑛(チャン・ジェヒョン)さん
目の下のたるみをとる手術を受けた、張宰瑛(チャン・ジェヒョン)さん=2024年3月22日、韓国。ソウル江南のスターライン整形外科、坪谷英紀撮影

最近は外見に対する興味が出てきて、スキンクリームなど5、6種類の男性向けの化粧品なども使っているという。今秋には、額のしわをのばす手術も受けようかと思っている。友人や職場の同僚らも宰瑛さんの手術後の顔をみて、自身も手術を受けたいといわれ、6人に病院を紹介した。

背景に「人の目を意識する文化」

李院長も「韓国社会はルックスが競争力になるという考え方がすごくある」という。きれいだとか不細工だとかルックスについて直接的な表現はしないが、「疲れて見える」「老けて見える」といった言い方をするという。そう言われることをいやがり、何とか改善したい考える人が多いという。

「かつては年齢のいった人が知識も蓄えているという考えがありましたが、今はむしろ若い人の方がテクノロジーを駆使して知識を持っている。知識を積み重ねている人が必ずしも年齢と比例しないということです。100歳まで生きる時代に、今後働き盛り世代は60代になっていく。50代、60代になって必ずしも年老いて見える必要がない」

李院長がアンチエイジング専門クリニックを開こうと思ったのは、自身が老化を防ぐことに関心をもつようになったことと、超高齢化社会に向けてアンチエイジングへの社会的欲求の高まりを感じたからだという。韓国は人の目を意識する文化があり、若いころから美容外科手術を受ける人が多く、その人たちが年齢を重ねて中高年になってきたことが影響しているという。

李院長は自身の母親の手術をした。年老いてくるとだんだん鏡をみなくなって、視力も衰えてくる。自分の顔に気を使わなくなった母親が手術を受けたことで、鏡をみるようになり、身ぎれいになって、人にもっと会うようになったという。「若返ることで、人は社会活動の半径が広がって、人生に活力を与える」