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ドバイが掲げる「医療ツーリズム」、引っ張るのは美容整形

World Now 更新日: 公開日:
医療特区ヘルスケアシティーの中心部にビルを構える大手「アメリカンアカデミー美容整形病院」 photo:Murayama Yusuke

ドバイが掲げる「医療ツーリズム」を牽引するのは美容整形だ。VIP向けの豪華な施設や腕利きの医者をそろえ、中東や世界の富裕層をひきつける――。そんな戦略の最先端を行く現場を歩いた。

6月上旬、医療特区ヘルスケアシティーの中心部にビルを構える大手「アメリカンアカデミー美容整形病院」を訪ねた。

等身大の女性の石像が両脇に並ぶ玄関のドアを開けると、紫色に彩られた天井画とシャンデリアが目に飛び込んできた。らせん階段の先に宮殿風の半円アーチが並ぶ廊下があり、大理石の床に反射する照明がまぶしい。ショーウィンドーにはダイヤモンドや金の首飾りが飾られ、至るところに石像や絵画が置かれている。「七つ星ホテルのような、ぜいたくでくつろげる空間にしています」と案内役のウィマ・アクルは話す。

患者数がこの3年で4倍に増え、いまでは年2万人超を受け入れる院内には、五つの手術室や診療設備のほか、アンチエイジング治療を施す皮膚科や歯科、チョコレートやフルーツを使ったスキンケアを楽しめるスパもある。入院患者用の約20の個室はこの日、満室だった。

最上級のロイヤルスイートは1泊約40万円。真っ赤な壁紙にシャンデリアがあるリビングと二つのベッドルーム、キッチンに加え、地下駐車場に直結する専用エレベーターを備える。「人目を避けたい王族や女優、歌手ら著名人が年に15回程度使っている」(アクル)。手術料自体は欧米よりはやや低い水準に抑えているという。


美顔よりスリムボディー

医師は常駐が5人、非常勤を含めると二十数人が所属する。最高医務責任者を務めるイタリア人の形成外科医マッテオ・ヴィゴ(37)によると、顧客の8割近くがアラブ系で、肥満患者向けの脂肪吸引や胃の部分切除など、体形についての施術が6割を占める。豊胸手術がそこに続き、顔の整形は1割強ほどという。

体全体をスリムにすることを目指す欧州の女性と違い、中東ではウエストを極端に細くし、胸部と腰回りはふくよかにしたい女性が多いという。「腹と脚が太いなら、イタリア人なら脚を、アラブ人は腹を細くする。美の感覚が逆なので、自分の美観を押しつけず、患者の要望に沿うことが大切です」

近くの別のビルにあるVIP向け診療所BRメディカルスイーツでは、ギリシア人の泌尿器科医ペトロス・ドレタスが手術室にこもっていた。

ドレタスは男性の性機能障害の専門医だ。普段はアテネで開業しており、ドバイには月1回、1週間ほど滞在する。一日3~4人に男性器増大手術やED患者向けの手術などを施す。患者の多くはサウジアラビアやパキスタンなど周辺国から来ており、「この地域は、男性器専門医の需要が大きい」と話す。

ロンドンに本拠を持ち、イタリア人の双子の医師が経営する美容整形ロンドンセンターのドバイ診療所には3週間前、日本人女性が顔のしわ取りに訪れたという。弟のロベルト・ヴィエル(56)は「ドバイの常連客の誘いで08年に開業したが、いまや日本や中国、アフリカも含め、五大陸すべてから患者が来る」と話す。木を多く使った院内はサロンのような雰囲気だ。兄のマウリツィオは言う。「我々の患者は病気ではなく、人生の質を高めるために来ている。だから病院臭はできるだけ消したんです」

ドバイで腕ふるう日本人医師

医療ツーリズムの情報サイトを運営する独MEDIGOによると、ドバイの医療に関する照会のうち、美容整形が25%でトップを占めた。2番目は歯科(13%)、3番目は肥満手術(8・5%)で、女性器の整形を含む婦人科、不妊患者のための生殖医療、視力回復手術を含む眼科と続く。患者の生命に直結したり、緊急性を要したりしない施術に関心が集中している様子がうかがえる。

「ビーチで遊んで、美容整形を受けて、ショッピングモールで買い物もできる。あらゆる選択肢をそろえた」。ヘルスケアシティーの最高経営責任者(CEO)、ベダー・ハレブ(38)はそう語る。観光立国を目指すドバイにとって、美容整形は相乗効果が期待できる戦略分野というわけだ。

ドバイで腕をふるう日本人医師もいる。那覇市で形成外科医院を営む新城憲は11年、現地の医師免許を取得した。3カ月に1回のペースでドバイに数日間滞在し、ボトックス注射やまぶたのたるみ取りなどの「プチ整形」を中心に一日に10人程度を診療している。「整形費用は日本とそれほど変わらないが、税金がなく、医師としては仕事に集中できる」

美容外科「高須クリニック」の院長、高須克弥もかつてドバイ進出を検討したが、過去に脱税で摘発されたことが「経済犯にあたる」とドバイ政府から指摘され、断念したという。高須がヘリでドバイ上空を視察する印象的なテレビCMは、進出を前提に始めたものだったそうだ。