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美の新潮流 Kビューティー、Jビューティー、次はGだ

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
ドイツのスキンケアブランド製品の数々=Ryan Jenq/©2019 The New York Times。「クリーンビューティー」という美容コンセプトを変えるような新商品を生み出している

私たちをBBクリームやジェリークレンザーに夢中にさせたのは、韓国のKビューティーだった。様々な和風の香料と日本酒の成分の効能を納得させてくれたのは、Jビューティーだった。でも、そろそろ次を探すときがきたと思って、専用パスポートでこの世界を巡ってみた。すると、ありました! Gビューティーが。

ドイツの美容ブランドは、この数年の間に米国のほぼすべての陳列棚で見かけられるようになった。高級スーパーの「ホールフーズ」にあれば、高級化粧品販売の「ブルーマーキュリー」にもある。

Kビューティーは、自国ブランドの海外進出を図る韓国政府の後押しもあって広がるようになった。でも、Gビューティーには、そんな枠組みがあるわけではない。特徴は、定義がまだ難しい「クリーン・ビューティー」という新たな分野への流れに乗って出てきたことだろう。

「Gビューティーの顧客は、有害なものをあまり含まないという欧州基準の『クリーン』を求めてやってくる」。ニューヨーク・ブルックリンに「シェン・ビューティー」を開店し、この世界に大きな影響力を持つようになったジェシカ・リチャーズはこう説明する。加えて、包装もウケている。けばけばしいものが目立つ中で、これを排してストレートに訴える必要最小限の包装が多く、それが評価されているようだ。今日では、よいトレンドであることに違いない。

ロサンゼルスに高級美容品を扱う「バイオレット・グレイ」を開いたカサンドラ・グレイは、さらに積極的だ。「スキンケア商品の『Made in Germany』という表示は、トマトに貼ってある『有機栽培』のシールと同様に見られるようになった」と話す。今や、売り上げベスト3のスキンケア商品は、いずれもドイツ製だ。

その言葉通り、Gビューティーのクリーンで効果の高いスキンケアは、有機栽培と強く結びつく傾向にある。自然原料を活用した肌の手入れという分野を切り開いた「ヴェレダ」は1921年の創業で、スイスとドイツのルーツを持つ。ナチュラルスキンケア・コスメの「ドクターハウシュカ」も、1967年から続いている。いずれも、自社のバイオダイナミック(訳注=ドイツやスイスで普及した有機・自然農法の循環型農業)方式の農場と研究室、製造工程を築き上げるのに、数十年の年月をかけている。

「自社商品の成分は、ナチュラルビューティーブランドのカギとなる。だから、厳重に管理している」と北米ヴェレダ社の最高経営責任者(CEO)ロブ・キーンは強調する。「使用成分をどう手に入れているかを厳秘にしている社だっていくつかある」

ヴェレダは、米国での社勢を回復している。とくに、伝統的な看板商品である保湿剤の「スキンフード」(18.99ドル)には、カルト的な信奉者がつくようになった。トップクラスのメーキャップアーティストの定番になっているだけではない。米誌インスタイルによると、リアーナやジュリア・ロバーツ、ビクトリア・ベッカムら芸能・ファッション界のスターも愛用している。

自社製品の米国内の売り上げは、2018年に19%増えたとキーンは言う(市場調査会社Spins and Nielsenによると、ドイツ製のナチュラルパーソナルケア商品の米国での売り上げは13%増で、同一分野全体の売り上げ増の11%を上回っている)。

ドイツ政府は、外国での自国企業の売り込みを手助けするわけではない。「ただし、バイオダイナミックと持続可能な農法については、しっかりと支えている」とドクターハウシュカ・スキンケア社のCEOマルティナ・ジョセフは指摘し、質の高さについて語る。「ドイツでの様々な業務分野や企業活動を見渡してみれば分かるように、品質と成分のよさが常に問われる世界がそこにある」

ただし、最も厳しい目で見る顧客は、ただのクリーンさだけに満足することはなく、科学の最先端を追い求める。例えば、「アウグスティヌス・バーダー」、「ドクター・バーバラ・シュトゥルム」、「ロイヤル・ファーン」といった銘柄だ。

ロイヤル・ファーンの開発に携わってきたミュンヘンの皮膚科専門医ティム・ゴリューケは、シダ類から抽出した成分について特許を取り、商品化に結び付けた。まさに「健康志向とドイツの応用科学が結合してできた産物」ととらえている。

こうしたドイツのブランドについてゴリューケが力説するのは、その透明性だ。クリアに包装され、成分の簡潔な説明があり、効能は科学的に裏付けられている(自分の場合は、特許に加えて、専門医として患者を数十年も診てきた蓄積がある)と胸を張る。「ロンドンとドイツで診ている患者が求めることは同じだ。きちんと効き、なおかつ毒性がない。そこに、ドイツブランドは信頼を築いている」

先のブルーマーキュリーの共同設立者でCEOのマーラ・ベックは、小売業の立場からこれに同意する。「Gビューティーには、科学に支えられ、高い効能を発揮する明白な方程式がある」と言うベックがとくに感心するのは、クレススプラウトの抽出成分などを含むドクター・バーバラ・シュトゥルムのブライトニングセラムだ(ちなみにブルーマーキュリーは、このブランドを米国で扱う最大の小売業者でもある)。購入するには310ドルも払わねばならないだけに、高品質であることがことのほか重視されている。

バーバラ・シュトゥルムは、デュッセルドルフの美容専門医。患者から採血し、これをもとにその人向けにカスタムブレンドした美容クリームを作る手法で、ソーシャルメディア界で大きな話題になったことがある。高い評価を受けるそのブランド哲学は、徹底して有害な成分を取り除くことにある。

「クリーンビューティーとは、無毒であり、刺激物も、炎症を起こす物も含まないことと理解している」とシュトゥルムは明快だ。「それが肌を治癒する私の手法の根幹にある」

さらに、ドイツにはこの分野の科学者で教授のアウグスティヌス・バーダーがいる。自分の名前を付けたスキンケアブランドを2年前に立ち上げた。しかも、たった二つの商品(いずれも保湿剤で、一つは「ザ・クリーム」、もう一つは「ザ・リッチ・クリーム」)で、18年には600万ドルもの収益をあげたとしている。19年2月には米化粧品大手エスティローダーのベテラン幹部モーリーン・ケースをCEOに迎え、この夏には新たな商品を売り出す予定だ。

バーダーは幹細胞研究の専門家で、後成遺伝学の観点から何年もかけてこの二つの商品を開発した。特定の成分によって、体内に既にある治癒を促すシグナルを活性化させるという方式に基づいている。

「幹細胞は機能はするが、そのままだと効果が出るのが遅すぎる」とバーダー。「そこで、体そのものに備わっている治癒のメカニズムを使えないかと思った。体には、内なる時計が存在し、年齢を重ねると、それが肌の治癒機能を停止させてしまう。しかし、適切な刺激の引き金を作動させることで、その機能を復活させることができるのではないかと考えた」と自らの着想を説明する。「だから、これまでとは別タイプのトリートメントになっている」

もっとも、「クリーン」を売りとするGビューティーは、あくまでもマーケティングのコンセプトに過ぎない――自身への評価が高まる中でも、シュトゥルムはこう忠告する。ドイツ製だから「クリーン」が保証されているわけではないと言うのだ。

「スキンケアは、国旗を掲げるオリンピックとは違うのだから」(抄訳)

(Bee Shapiro)©2019 The New York Times

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