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「禁書」が広がるアメリカ 狙い撃ちされる性描写、辞書や百科事典まで撤去した例も

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
フロリダ州タラハシーの集会で展示された禁書処分対象の本
フロリダ州タラハシーの集会で展示された禁書処分対象の本。性的少数者(LGBTQ)や性的暴力に関する本、セックスを描写する本などが米国各地の公立学校図書館から撤去されている=2023年3月21日、Agnes Lopez/©The New York Times

好ましくない本を公立学校の図書館から撤去する運動が米国で勢いを増している。

言論の自由を唱えるNPO「米国ペンクラブ」が2024年4月16日に公表した報告書によれば、2023年7月から12月までの半年間(学校年度の前半)に、全米23州で4300以上の本が公立学校で禁書扱いになった。この数字は、前年度(2022年7月~2023年6月)の禁書の総数を上回っている。

近年、禁書が増えている原因は、保守主義団体の動きに加えて、子どもが手にすることができる書籍を制限する法律や規則が制定されたためである。

米国ペンクラブは2021年夏以降、42の州で起きた禁書の動きを追跡した。それは、学校区の教育委員会の実権を握るのが共和党であるか民主党であるかに関わらず起きている。

ただこの数字は、禁書の全容を伝えるものではないだろう。米国ペンクラブの集めた統計は、報道されたものや情報公開請求で開示されたもの、公表されたデータに基づくもので、報道すらされない禁書は数多いのだ。

米国ペンクラブの報告書の主要な調査結果を紹介しよう。

禁書は加速度的に増えている

米国においては、禁書そのものは新しい現象ではない。子どもたちがどんなものを読んでいるのかを心配する親たちが、学校や図書館に苦情を寄せることは昔からしばしばあり、そういう場合の対処の手続きも存在している。

しかし、最近の禁書の動きは規模が際だっている。検閲の動きはますます組織化され、政治化され、保守系団体によって強化されている。「自由を求める母親たち」「ユタ州保護者連合」といった団体が、図書館の蔵書の中身を規制する法律の制定を推進している。

米国ペンクラブが禁書調査を開始して以来、これまでに学校から撤去された本は1万冊以上に上る。標的とされた本の多くは、性的少数者(LGBTQ)が登場したり、人種や人種差別をテーマにしたりしているものだ、という。

禁書が最も多いのはフロリダ州    

2023学校年度の上半期に学校での禁書が最も多かったのはフロリダ州で、11の学校区で3135冊が図書館から撤去された。その過半数はエスカンビア郡の公立学校で、1600冊以上が撤去された。性行為を描いたり、性行為に言及したりする図書を禁止するフロリダ州の教育法が理由である(中には、辞書や百科事典まで撤去した学校もあった)。

フロリダ州で本の撤去が急増したのは、子供たちが読む図書や使う教材を規制しようとして、州知事ロン・デサンティスと共和党が多数を占める州議会が成立させたいくつかの州法があるためである。

米国ペンクラブで「読書の自由」プログラムのディレクターを務めているケイシー・ミーハンは、フロリダ州は全米各地の禁書戦術の実験場にもなっていると指摘する。

「ある意味、フロリダ州で禁書のやり方が開発され、それが全米に広められている。フロリダでは、とても有害な法律が制定されたために禁書問題をめぐって危機が起きているが、サウスカロライナ、アイオワ、アイダホなどの州では、そういう法律をそっくりまねた法案、あるいは似たような法案が提出されたり立法化されたりしている」

性的暴行を描いた本がどんどん狙い撃ちにされている

セックスに関する内容を含んだ本は、こうした本を狙い撃ちにする法律の制定や政策によって学校の図書館でどんどん禁書扱いにされているが、これに合わせて、性的暴行を描いた本もますます問題視されている。

米国ペンクラブによれば、2021~2022及び2022~2023学校年度に禁書になった本の20%近くは、レイプや性的暴行を扱った本だった。

アイダホ州のウェストエイダ学校区で2023年、性的暴行を扱って禁書にされた本の中には、次のような作品が含まれていた。

マーガレット・アトウッド(訳注=国際的に有名なカナダの作家)の「侍女の物語」のグラフィックノベル版、ルピ・クーア(訳注=インド出身の詩人で、世界中に読者がいる)の詩集「ミルクとはちみつ」、ジェイシー・デュガード(訳注=性犯罪者に拉致された被害者)の回想録「奪われた人生」、エイミー・リードの小説「どこにもない少女たち」(訳注=同世代の男子生徒からの性的圧力に直面する少女たちの苦悩を描いている)などだ。

フロリダ州コリアー郡では、性行為を描いた本を禁じた新しい州法に従って、学校当局が2023年に数百冊の本を禁書扱いにした。

その中には、ゾラ・ニール・ハーストンによる「彼らの目は神を見ていた」(訳注=黒人女性の性の目覚めを描いた作品)、ジョン・グリシャム(訳注=現代アメリカを代表するベストセラー作家)の「評決のとき」、トニ・モリスン(訳注=ノーベル文学賞を受賞した黒人作家)の「青い眼がほしい」なども含まれている。

禁書に抵抗する運動も広がっている

こうした禁書の動きに反対している保護者、生徒、言論団体、図書館団体、書店業界、作家たちは書籍の撤去を止めるための運動を組織化している。彼らの主張は、禁書という行為は言論の自由を保障する合衆国憲法修正第1条に違反している、ということだ。

2023年秋、アラスカ州南部のマタヌスカ・スシトナ郡学校区では、50冊以上が禁書になったことに抗議して、数百人の生徒がストライキを行った。

2023年10月、ワイオミング州ララミー郡では、教育委員会の会議の場で、禁書に静かに抗議する読書会を開いた生徒たちがいた。そのほかの場所でも、生徒たちが禁書本クラブを結成したり、デモ行進を行ったり、禁書本が無料で読める本棚を町に設置したりしている。

カリフォルニア州やイリノイ州では、議会が禁書行為を禁じる法律を制定した。テキサス州、フロリダ州などでは、禁書を促進した州法を覆そうとする訴訟が始まっている。

米国ペンクラブで言論の自由に関するプログラムを担当しているジョナサン・フリードマンはこう言う。「これまで提起されたほぼすべての訴訟で、裁判官はこうした法律は違憲だと判断している」。それでも、問題ある州法に異議を申し立てて覆すには何年もかかるし、禁書を推進する立法の動きは拡大し続けるだろう、と言う。

そして、こう付け加えた。

「この問題は解決しそうな気がしない」(抄訳、敬称略)

(Alexandra Alter)©2024 The New York Times

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