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「あなただけのオリジナルカクテルを…」斬新で芸術的なミクソロジーの世界を楽しもう

働くママのシリコンバレー通信 更新日: 公開日:
イラスト:tanomakiko
イラスト:tanomakiko

バーテンダーから「ミクソロジスト」へ

ミクソロジストとは、野菜、果物、ハーブ、ときには炎や液体窒素などを使用し、独自のアレンジを加え、新鮮で斬新、誰も思いつかないようなオリジナルカクテルを創作する作り手のことです。

サンフランシスコ・シリコンバレー、ニューヨークなどの都市部を中心に、ミクソロジーカクテル・カルチャーが近年確立されてきました。

写真はイメージです
写真はイメージです=gettyimages

私がお酒を飲んでもよい年齢になり社会人になった頃(随分前ですが)から、日本でも東京・西麻布などのおしゃれなバーを中心に、フレッシュフルーツを使った本格的なカクテルを提供しているところはすでにありました。

近年では、クラフトカクテルの作り手をバーテンダーではなく、「ミクソロジスト」という呼び方が市民権を得てきたように思います。

トップミクソロジストの店には長蛇の列

この流れを受けてか、ネットフリックスでは「ドリンク・マスター: 究極のカクテルを考案せよ!」という番組の配信が2022年に始まりました。

世界でトップレベルの12人のミクソロジストが、その回に出されたお題のカクテルを独自の技術とアイデアで、賞金と「ドリンク・マスター」の称号をかけて競い合います。

Netflixのリアリティー番組「ドリンク・マスター: 究極のカクテルを考案せよ!」の予告編

毎回脱落者が出ていき、優勝者が決まるという、「料理の鉄人」のカクテル版のような番組です。ミクソロジストたちが作るカクテルはまさしくサイエンスで、そして、インスタ映えを超えたアート。どこでこの組み合わせと色とアイデアがひらめくのか… 毎回、見ていて衝撃的でした。

番組にも出演したスター候補のトップミクソロジストが期間限定のポップアップバーを開くと、開店前から長蛇の列になることもあります。

ポップアップバーでは、新作カクテルが披露されることも。ツアーを回るミュージシャンのように、国を超えて現地のバーと協力し、各地でポップアップバーを開く人気ミクソロジストもいます。

こういったアメリカの本格的カクテル・バーでは、食事のメニューは用意されていないことが多いので、先に食べてから行くか、後から食事しに行くかするのです。また、お酒しか提供しないバーはIDチェックがあって、21歳未満は入店することはできません。(フェイクIDを作って入る学生はときどきいます)

サンフランシスコだと、こういったミクソロジー・カクテルは、1杯14~18ドル(2000~2600円)。税金やチップを入れると日本円にして3000円を超えることもあります(1ドル=約140円で計算) 。2人で2杯ずつ楽しむと1万円を超える感覚です。インフレで物価高のアメリカでもそれなりにお高いですが、特別な体験としてミレニアム世代を中心に支持されています。

全体的にミレニアム世代にしても、Z世代においてはよりさらにお酒を飲まない傾向にあるものの、カクテルやクラフトビールへのこだわりはその上の世代よりも強い印象があります。

自宅でミクソロジーを探求、ホムパで披露

わたしの周囲のミレニアム世代の中には、ミクソロジスト・バーで飲むだけでなく、家でも本格的にカクテルシェーカーなどの用品をそろえて、男女ともにYouTubeにある豊富なカクテル指南のコンテンツを見て研究している人もいます。

カクテルを作るための道具類
カクテルを作るための道具類=gettyimages

彼らに共通しているのは、アルコールで酔っ払いたい、という期待(効果?)よりは、五感で楽しみ、大げさに言えばカクテルの芸術性を追求しているみたいです。

中にはお酒を辞めているのに、友達をもてなすため、またはshow off (ちょっと自慢したい) がために 自宅に一式取りそろえて、ホームパーティーでせっせと作ってくれる人もいます。

それほどお酒が好きなわけではないけれども、ニューヨークに旅行中、人気ミクソロジストが主催するノンアルコールカクテル、通称「モクテル」のワークショップに参加して習ってみた、という女性もいます。ゲストの要望に応えたカクテルを作ってゲストがびっくりしたり、喜んだりする顔を見て、本人たちが一番喜んでいます。

もちろん誰に言われるかによりますが、「君だけの特製カクテルを作るから、うちに来ない?」というのは、かなり心が揺れる口説き文句です。

シリコンバレーはエンジニアの街なので、いったん何かにハマるととことんハマる人が多い傾向があるのも、ハマりやすい要因なのかもしれません。

注目のトップミクソロジストは日本にルーツ

2024年からニューヨークに拠点を移し、新天地でチャレンジするSuzu。流行に敏感で若いヒップスターたちが集まるサンフランシスコのミッション地区にある「Wildhawk」 にて
2024年からニューヨークに拠点を移し、新天地でチャレンジするSuzu。流行に敏感で若いヒップスターたちが集まるサンフランシスコのミッション地区にある「Wildhawk」 にて=2023年2月7日アメリカ・サンフランシスコ、筆者撮影

ネットフリックスの「ドリンク・マスター: 究極のカクテルを考案せよ!」に出演した12人のミクソロジストの一人、クリスチャン・スズキ・オレリャナ、通称Suzuは、サンフランシスコで最も有名なミクソロジストの一人。サンフランシスコベイエリア生まれ、浅草でレストランビジネスを営む母方の祖父母の元で多くの子供時代を過ごした彼のオリジナルカクテルは、ドリンク・マスターの番組の中でも日本への愛やオマージュにあふれています。

例えば、Suzuの代表作カクテルの一つ「Furusato」 (ふるさと)は、ミョウガ、ゆず、玄米茶、ゆず、のり、などもはいったジンのカクテルで、ガナッシュに雷おこしを使用したカクテルで、材料だけ聞くと味が想像しづらいかもしれませんが、働き者だった彼のおばあちゃんの思い出をベースに創作され、ストーリーを知るとさらに幸せにおいしく感じます。

Suzuのポップアップバーで提供された4種類のカクテルのうちの2種。左がジン、ミョウガ、ゆず、玄米茶、ノリが材料のFurusato (ふるさと)そして、右がウォッカ、ドライベルモット、サクラ、ビターマンダリンのエッセンスが入った、Omikoshi (おみこし)
Suzuのポップアップバーで提供された4種類のカクテルのうちの2種。左がジン、ミョウガ、ゆず、玄米茶、ノリが材料のFurusato (ふるさと)そして、右がウォッカ、ドライベルモット、サクラ、ビターマンダリンのエッセンスが入った、Omikoshi (おみこし) =2023年3月17日、アメリカ・サンフランシスコ、筆者撮影

2024年からニューヨークに拠点を移し、新天地でチャレンジする予定のSuzuは、わたしが所属する北カリフォルニアジャパンソサエティーとサンフランシスコ日本国領事館共催の泡盛のプロモーションイベントで、泡盛のスペシャルカクテルを作ってくれたこともあります。

泡盛はアルコール度数も高くしっかりした飲み応えがあるものの、クセがあるので飲み慣れないアメリカ人にとっては少しハードルが高いところがあります。泡盛になじんでもらおう、という一環で「組踊」と「なんくるないさー」というオリジナルカクテルを作ってもらいました。

レシピを北カリフォルニアジャパンソサエティーの公式サイトで紹介していますので、泡盛やカクテル好きな方、年末年始のお休み中、ぜひチャレンジしてみてくださいね!