――当初4日間だった戦闘休止は11月30日までいったん延長されました。現在のガザの状況とUNRWAの活動について教えてください。
今、いろいろと物資を搬入しているところではあるんですが、状況は非常に厳しいことには変わりないですよね。今日、ガザ地区にいる人とも話したんですが、物資が増えたという実感はないし、医薬品もそんなに増えているわけではなく、不足している状態はほとんど変わっていません。さらに、昨日今日と、こちらはすごく寒いんですね。昨日は雨も降りました。ですから、それもあって非常に厳しいんだろうなと思っています。
――戦闘休止になった直後から支援物資のトラックがガザ地区に入ったという報道もありましたが、実感としては変わらないんですね。
そうですね。今日トラックが何台入ったのか、まだ分かりませんが、厳しい状況は続いているということです。やっぱり絶対量が不足しているんです。必要な量が多いので、まだまだそれには追いついていません。
(イスラエル軍によるガザ北部への攻撃予告によって)人が南に大量に移動して、非常に厳しい生活環境の中で、もう数千人が避難しているセンターですとか、一族郎党が身を寄せて普段の5、6倍、あるいはもっと多くの人が同じ家に住んでいるという状態です。 インフラが悪くて、さらに水も足りず、食料が入ってきていない、その厳しい状態は全く変わっていないというのが、私が聞いている限りの現地の人の反応ですね。
栄養状態も良くありません。大量の飢餓や急性栄養失調が起こっているという話はまだ聞いていませんが、もともとガザの人口の7割ぐらいが食料援助で生き延びていた状態なので、栄養状態はもともと悪いんです。
UNRWAが運営する学校全体で児童生徒が約30万人いるんですけれど、今年の入学試験の入学時の健康診断の時に新入生の中からサンプルをとって、体重などの栄養状態を調べたんです。そうすると、(今回の)戦争前の今年の夏時点で大きな栄養失調は起こっていないが栄養失調の傾向が強く、専門家によると「マージナル(境界)に近い」という結果でした。
専門家の意見では、おそらく食料援助によって、なんとか大幅な栄養失調が起こることが防がれている状態だったんです。ですが、皆さんが食料をきちんと確保できているわけではなくて、不足が続いている。 そういう状況の中で今回のことがあったので、もともと抵抗力の低い子どもとか、そういう関連の状態にある人にとって非常に厳しいと思います。
――UNRWAがガザ地区で運営するクリニック22カ所のうち、南部の方しか稼働していないと報じられています。
ガザ南部にあるうちの九つのクリニックが、今も患者さんを診ています。普段は1日あたり5000人強なんですが、今日のデータを見てみると、7000人ぐらい来ているようです。
(UNRWAが運営する)避難所では今、1万人ぐらい患者さんがいます。ですから、合わせて2万人近い人がUNRWAのケアを受けていて、それはそれで素晴らしいんですが、やっぱりそれだけ生活が厳しいということです。
先ほど栄養の話もありましたけれども、感染症も今、非常に増えていて、避難所で下痢とか呼吸器性の疾患が増えていて、5歳以下の子どもの下痢は、去年の同時期に比べて30~40倍に増えているんです。ものすごく増えているんです。
その理由は、劣悪な生活環境です。例えばシェルターには約6000人以上人がいて、立錐(りっすい)の余地もない状態なんです。水もそんなになくて、南北合わせて戦争前の供給量と比べて2割ぐらいしか水がありません。
その2割ぐらいしか水がない南部に大量の人が移動して住んでいるということなので、水の絶対量が足りず、南に2カ所ある海水から真水をつくるデサリネーション(淡水化)施設も、燃料がまだ多く入ってこないので最近まで動いていませんでした。今は動いていると思うんですが、確認してみないと分かりません。
――クリニックに来る患者さんが求めるケアの内容は、どんな内容が多いのでしょうか。
増えているのは感染症とけが人です。
避難所のクリニックで聞くと、だいたい三分の一がけがの人だといいます。空爆とかでけがをした場合はたいてい病院の救急センターに行きますが、病院が今、非常に混んでいて、あまり長く入院できないんです。ですから早めに退院させられた人たちが、例えば傷口の消毒と包帯交換でUNRWAのクリニックに来ている状態です。
――包帯や注射器などの医療物資や薬は、戦闘休止になって入ってくるようになったのでしょうか。
足りないですね。本当に足りなくて、昨日も避難所で働いている人と話したんですが、ものすごく不満を言われましてね、もう言うとおりなので頭を下げるしかないんですけども。ガーゼを一度搬入したんですけれど、雨にぬれてしまって使えなくなったという非常に厳しい事態も起こりました。今、次の分を入れようとしているんですが、もともと絶対量が足りないところに消費量が増えているために、現場にはつらい思いをさせてしまっています。本当に申し訳ないと思います。
――ガザ地区の人々、あるいはUNRWAスタッフの精神面の状態はどうでしょうか。
想像すれば悪いとしか言いようがありません。クリニックにカウンセラーはいて、いろんなことをやろうとしているんですけど、基本的に今は「生存モード」なんです。
生存することが一番大事なので、メンタルヘルスをやるにはやりますけれども、それ以上の、例えば水や食料、住居がない、停戦が終わってしまったら戦争行為による命の危険性の不安がある、ということで、非常に厳しい。本当に申し訳ないというか、無事を祈るしかできないということと、医学的に今それ(メンタルヘルス)が一番大事なことかと言われると、今は他にもやることがあるという感じです。
――先日、ガザ地区から約30人の未熟児がエジプトに搬送されたニュースがありました。清田局長はUNRWAが提供する一次医療(プライマリー・ヘルスケア)を統括していますが、ガザ地区の妊婦さんや母子保健の現状も教えてください。
未熟児搬送の件では、医療はWHOが担い、UNRWAは治安管理やセキュリティー面に関わりました。
我々の今一番の関心は、今まで続けてきたサービスをどうやって継続するかという点です。そこには妊婦さんも入ってきます。今のところ(UNRWAの)避難所で分娩した方はいないと聞いています。
一応、みんな病院に連絡して行ってもらっていますが、ただそれがいつまで続くかは本当に分かりません。
だから、なんとか避難所でも分娩ができる態勢にしたいと思って、今の医療チームを倍にするとか、2シフト制にして朝型と夜型に分けるとかいう話をしますが、やはり医療スタッフが少なくて、混んでいて、場所がないという課題があります。医療班がいる場所自体も本当に混んでいるので、これ以上の人は置けないというんです。
――極限状態の中でも現地のスタッフの献身的な努力で、態勢を保っているんですね。
そうですね。ただもう、彼らにとっても、もういっぱいいっぱいだと思うんですね。
こういうことあったんです。今、避難所の医者は患者を1日140人くらい診ていて、すごく多いんです。医者の絶対数が足りないということなので、なんとか医者を増やしてくださいとお願いしつつ、例えば、朝と夜の2シフト制にする解決方法があります。ただ彼らが言うには、あんまり帰宅時間が遅くなると治安が悪くなるし、今までの経験上、戦闘が始まったら午後3時以降は空爆が増えるので、そこまで遅く(職場に)いたくないと言います。
じゃあ同じ人に超過勤務手当を支払って少し長めに働いてもらったらどうかといえば、彼らも自分たちの生活を支えないといけなくて、仕事が終わったら市場に行って買えるものを買って、家族の世話をしないといけないというふうに言います。その中で医師たちに、診療ができる場所に行く態勢をどうやって作るかは非常に考えてしまいます。
あまりに勤務を長時間にすると、家族の世話ができないし、買い出しもできない。でも短時間だと患者さんが多すぎる。非常に厳しい中で働いていて、疲れきっているというのは、みんな言います。「もういい加減にしてくれ」と。
物資が思ったより入ってこなくて、医薬品やけがした人の縫合の布が足りません。じゃあどうするかといえば、(ガザの)外から入れるしかないんですが、それが今、非常に複雑な筋道でうまくいっていない部分があります。それは世界保健機関(WHO)や国連児童基金(ユニセフ)でも一緒で、サプライが機能していないので、なんとかもっと大量に荷物を入れないと厳しい状態がさらに厳しくなるという恐れがあります。
――UNRWAのクリニックも空爆の被害を受けたのでしょうか。
UNRWAのクリニックは爆弾の被害を受けてはいるんですが、直接空爆されたところは今のところありません。でも「今のところは」としか言いようがなくて、とにかく安全なところはどこにもないというのがガザ地区の基本的な理解です。空爆される可能性は常にあります。
――今回の戦闘で108人のUNRWAスタッフが亡くなったそうですね。
はい。108人はほぼ全員が家で亡くなっているんです。仕事が終わって自宅に帰って休んでいるところで空爆の被害を受けて亡くなった方がほとんどです。仕事をしながら亡くなった方は実質いません。それでも一族郎党10人くらい一緒に亡くなった方もいますし、本当に痛ましいです。
私が管轄している保健でも、今まで4人が亡くなっています。知っている人もいました。「明日また」と言うのが非常につらい言い回しだったと記憶しています。直接狙われるかどうかはともかく、いろいろなところで空爆被害に遭っているので、非常に怖いことだろうと思います。
――これほど大きな被害を生む衝突というのは、清田さんがUNRWAの保健局長をお務めの13年間でなかったことではないですか。
そうですね。これほど厳しい戦争は今までなかったですよね。「厳しい」というのは、戦闘行為自体が非常に厳しくて、犠牲者の数も多いという厳しさもあるんですが、将来がまったく見えない、終わりが見えない厳しさがあります。
人の命は尊いので、それが一番大事ですけれど、先が見えない厳しさがどんとありますよね。何が厳しいかというと、どういう感じで(ガザ地区が)再建されるかがまったく見えないということです。今までの戦争も厳しいものでしたし、残念ながら人も亡くなったし、建物も壊されたんですが、ある意味、終わったらまた一から始まる部分がありました。今回はもうガザ自体がどうなるか、今一番の戦闘行為が行われているガザ北部がどうなるかということも含めて、まったく分からない。
その中で、我々も一生懸命、現状の対策を進めています。いつかは復興対策に移れるといいなと思っているんですが、もしそうなった時に、どういう形で復興できるか。シナリオがあまりに多すぎて難しい部分はあります。
以前の戦争の時のように、地域的にガザ地区が全部残って、そこをやり直すというシナリオもあるにはあるんですが、本当にそれが可能か、こう言うと怒られちゃいますけど、考えるとつらい部分です。
――実際にイスラエル軍が北から入ってきて制圧していますね。
そうですね。あと、これからさらに南に行かないという保障は全くないので、それも含めてですね。戦闘行為はいつかは終わりますが、終わった時にどういう状態であるかは全く予測がつきません。
――ガザの状況は、肌感覚で知ることが難しい面はありますが、日本にいる人にどう理解し、どう行動してほしいと思いますか。
一つは、いろんな方がニュースで伝えていて、いろんなメディアに出てきますけど、ガザの人が絶えず言うのは、「言葉で表せないし、映像でも絶対に伝わらない。生活は本当につらく、厳しい。命の危険を絶えず感じている」ということです。
その通りなんだろうなとは思いますし、だからテレビやニュースを見た時でも、本当はこれよりひどいんだ、ということを分かっていただければありがたいです。
何ができるかといえば、やはり現実問題として物資も金銭も圧倒的に足りないので、ぜひパレスチナ支援をしているUNRWAですとか、日本のNGOに寄付していただけると非常にありがたいです。UNRWAには日本の一般の方が寄付できるサイトもあります。
――戦闘が早く終わることを祈るばかりです。
そうですね。中途半端じゃなくて、とにかくガザがどうなるか見える形で終わってほしいですね。戦争が早く終わるのが一番なんですけれども、ここで停戦して来年また再開したら何の意味もありません。停戦の合意をきちんと結んで平和を取り戻してほしいと思います。