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相次ぐ大使館の閉鎖で北朝鮮外交官に襲いかかる冬の時代、かつては外貨獲得の花形職業

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
クアラルンプールの北朝鮮大使館に掲げられた国旗(本文とは関係ありません)
クアラルンプールの北朝鮮大使館に掲げられた国旗(本文とは関係ありません)=2017年3月、マレーシア、ロイター

韓国外交省によれば、北朝鮮が閉鎖したのは、スペインのほか、アフリカのアンゴラ、ウガンダ、ギニア、セネガル、アジアのネパール、バングラデシュの計7カ国の大使館。今後、香港の北朝鮮総領事館なども閉鎖になる見通しという。

高氏によれば、アンゴラとウガンダは古くからの北朝鮮の友好国。アンゴラの北朝鮮水産代表部にはかつて、1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯だった金賢姫(キム・ヒョンヒ)氏の父親が副代表として勤めていた。国家安全保衛部(秘密警察・現国家保衛省)は「北朝鮮によるテロ」という事実の発覚を恐れ、父親を本国に帰還させる方針を決定した。当時、外務省でアフリカ担当課長だった高氏は、アンゴラの北朝鮮大使に、急ぎ父親の帰国を命じる電報を書いたという。

ウガンダも「アフリカの暴れん坊」として知られた独裁者アミン大統領(任期1971~79年)の時代から、北朝鮮と親善関係を維持してきた。高氏によれば、北朝鮮は主に軍事分野でウガンダを支援した。軍事顧問団を送り込んだほか、小銃や迫撃砲なども提供した。

ウガンダのムセベニ大統領が2023年10月24日、「惜別のあいさつに来た(北朝鮮の)チョンドンハク大使と面会した。彼の10年にわたる貢献に感謝し、幸運を祈りたい」として、X(旧ツイッター)に写真と共に投稿した。

2021年に全国公開された、ドキュメンタリー映画『THE MOLE(ザ・モール)』(マッツ・ブリュガー監督)は、北朝鮮による武器密売の実態を暴いたが、そこでもウガンダが登場する。北朝鮮の朝鮮ナレ(翼)貿易会社は、ウガンダ・ビクトリア湖に浮かぶ島の地下に軍事工場を建設することを画策した。

ドキュメンタリー『THE MOLE(ザ・モール)』予告編

北朝鮮がアフリカで活発な経済活動を行っていた背景には、首脳レベルでの密接な信頼関係のほか、法治主義が徹底されていない国情もあった。自身もアフリカのコンゴなどの北朝鮮大使館に勤務した高氏は、違法行為も含めて様々な経済活動に手を染めた。

北朝鮮外交官の間で最も普遍的だったのが、免税品を買って一般の市場で売って差額をもうけるやり方だった。このやり方で、1人あたり月1000ドルぐらい稼げたという。酒を飲まないムスリム国家に酒を持ち込んで売ったり、国ごとに価格が違う製品に目をつけて差額を稼いだりした。

こうした外交官自らが行う金稼ぎは、大量の餓死者を出して北朝鮮経済が崩壊した1990年代半ばの「苦難の行軍」時代までは、あくまでも補助的な手段だった。

高氏によれば、アンゴラやウガンダなど、大使館員が5~7人程度の小規模公館でも、北朝鮮本国から年間5万~7万ドルの資金を受け取っていた。外交官たちは自分で稼いだ金を「精誠金」として金正日総書記に捧げた。高氏によれば、当時の北朝鮮外務省では「20万ドル捧げれば副相(次官)、10万ドルなら局長」という話がまことしやかに流れていたという。

北朝鮮外務省の職員は1500~1600人程度で、うち、在外公館に勤務する人が約250人とされる。外交官たちは外地に出ることを心待ちにしていた。外地で外貨を稼ぎ、その金で出世したり、北朝鮮に戻った後の生活の足しにしたりした。

外貨で賄賂を支払えば、子どもの進学や病気の治療など、様々な問題で必ず優遇された。このため、北朝鮮の女性の間で、外交官は結婚を希望する職業の最上位にランクされていたという。

ところが、「苦難の行軍」以降は、中国やロシアなどの一部の大使館を除き、本国からの送金が途絶え、「自給自足生活」に陥った。特に、法治主義が徹底した欧州などの北朝鮮大使館は苦境に陥った。ロイター通信によれば、スウェーデンの警察当局は2009年、たばこ23万本を密輸しようとした疑いで北朝鮮の外交官2人を逮捕した。モンゴルやトルコ、バングラデシュでも、麻薬や密輸などの容疑で北朝鮮外交官が相次いで逮捕された。

とどめを刺したのが国連制裁決議だった。制裁決議は北朝鮮の海外派遣労働を禁じ、2019年12月までに労働者を北朝鮮本国に戻さなければならないとした。ウガンダでも北朝鮮の軍事顧問団が撤収した模様だ。ウガンダやアンゴラの北朝鮮大使館の閉鎖の背景には、いよいよ大使館員らが暮らしていけなくなったという事情がある。

北朝鮮の外交目標は、諸外国と親善関係を結ぶことにはない。北朝鮮の独裁主義の優越性を宣伝し、外貨を稼ぐことに重きが置かれる。外貨を稼げなくなった大使館は、飛べなくなった鳥に等しい。北朝鮮では相変わらず、外貨を稼ぐ力がある人に結婚相手としての人気が集中しているという。ただ、「外国に行けなくなった外交官」は、その対象から外れてしまうだろう。