1. HOME
  2. World Now
  3. 北朝鮮とアフリカ、切っても切れない関係 外貨稼ぎに武器も銅像も売る

北朝鮮とアフリカ、切っても切れない関係 外貨稼ぎに武器も銅像も売る

北朝鮮インテリジェンス
モザンビークの首都マプトに建てられたマシェル初代大統領の像。北朝鮮企業が製造した=2017年10月、石原孝撮影

『ザ・モール』に出てくる、アフリカでの取引の様子は例えば次のようなものだ。

北朝鮮の朝鮮ナレ(翼)貿易会社関係者は2017年1月、投資家と偽って訪朝した映画の主人公ウルリクらに秘密工場の建設を提案した。ウガンダ・ビクトリア湖の島が候補地になる。ウルリクらが訪問すると、ウガンダ人の不動産ブローカーが島の住民数千人を4カ月以内に立ち退かせると約束した。ウルリクらは面会したウガンダ政府関係者らに、リゾート施設や学校を作ると説明。滑走路の建設も含めた投資計画を、その場で認めさせた。

映画『ザ・モール』© 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS

ナレ貿易会社関係者や北朝鮮の武器密売人も同時期、ウガンダに滞在していた。北朝鮮側の密売人は、ウルリクらに対し、人道支援などの物資を飛行機で北朝鮮に届けた後、その飛行機にミサイルの部品などを提供できると説明。「銃弾から大型兵器、電子戦の兵器に至るまで、何でも提供可能だ」と豪語した。同時に、「米国の監視が厳しい。情報機関には決して知られないように」と警告し、工場を地下につくり、地上にホテルを作る案を示した。北朝鮮側は手慣れた様子で、すでにこうした偽装パターンを数種類持っているようだった。

リと名乗る北朝鮮の在スウェーデン大使館員は2018年、ウルリクを呼び出し、秘密工場のイメージ写真を渡した。リは秘密工場を偽装するために地上に作るホテルについて「北朝鮮を匂わせる名前はつけないように」と指示。「くれぐれも極秘に。今後、何があっても当大使館は一切関知しない」と通告した。北朝鮮当局がアフリカでの違法ビジネスに直接、関与していることがわかる。

映画『ザ・モール』から。元CIA要員からスパイの短期講習を受ける主人公のウルリク(右)© 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS

1980年代にザイール(現コンゴ民主共和国)の北朝鮮大使館に勤務した高英煥・元韓国国家安保戦略研究院副院長によれば、北朝鮮がアフリカ諸国への接近を始めたのが1960年代後半だった。当時、北朝鮮はソ連や中国との関係が悪化し、非同盟諸国との関係を重視する「主体外交」を展開していた。

金日成主席は「アフリカや東南アジア、中南米諸国の支持を得て、在韓米軍を追い出す国連決議を勝ち取る」という指示を出していた。北朝鮮がアフリカ諸国などと関係を強化する手段として使ったのが、武器の販売だった。高氏は「当時、アフリカには中国製やユーゴスラビア製の武器が流通していた。北朝鮮製のAK47カラシニコフ自動小銃は、それよりも安価で人気を集めた」と語る。

高氏によれば、北朝鮮は自動小銃のほか、迫撃砲や多連装ロケット砲なども販売。軍事顧問団を送り、武器の扱い方のほか、軍隊やアフリカ政府高官の警護隊の教育、武器製造工場の建設などにも協力した。

ザイールに対しては、当時の価格で3千万英ポンド(約45億円)規模の支援を行う、1個師団の武装化を助けた。高氏はザイールの北朝鮮大使館で、この支援のフォローアップや10万人分の軍服の提供、北朝鮮軍事顧問団の給与の問題などに携わった。高氏は87年、ウガンダに出張した。当時、ウガンダにも北朝鮮の軍事顧問団がいて、ウガンダ軍砲兵部隊を教育していたという。

金日成主席は反欧米という立場で、ギニア初代大統領のセク・トゥーレ、タンザニア初代大統領のニエレレなどアフリカの独立運動指導者と意気投合した。高氏は「北朝鮮はアフリカ諸国で政権交代が起きても、関係の維持に努めた」と語る。外貨を稼ぐため、場合によっては政府と反政府勢力の両方に武器を売ることも珍しくなかったという。

北朝鮮の金日成主席(中央)。訪朝した金丸元副総理(左)、田辺社会党副委員長と=1990年9月、同行記者団撮影

ランド研究所が9月23日、公開した報告書「北朝鮮の制裁回避テクニック」によれば、北朝鮮はウガンダやタンザニア、リビアなどアフリカの13カ国に対し、ミサイルや化学兵器などの技術を提供している。また、ケニアやコンゴ民主共和国、マリなどアフリカの13カ国で、北朝鮮が供給した兵器を使った過激派や反政府勢力が活動を続けているという。

国連安全保障理事会傘下の北朝鮮制裁委員会が10月4日に発表した報告書も、今年2月から8月までの間、北朝鮮国防科学院に所属する貿易会社の関係者らが、外貨を獲得するためにアフリカや東南アジアなどに武器を販売していたと指摘した。

そして北朝鮮は国際社会による制裁から逃れるため、映画が指摘したように、北朝鮮大使館員や海外派遣労働者、武器密売とは関係がないように偽装した会社(フロント企業)、第三者の仲介人を使っているという。

映画では、欧米の親北朝鮮団体、朝鮮親善協会のアレハンドロ会長の指示で、ウガンダの秘密工場でつくる覚醒剤を「海産物の缶詰」、武器を「木工品」と呼ぶことにしていた。会長は「この話が壊れたら、損失は何百万ドルにもなる」と語る。

映画『ザ・モール』から。主人公のウルリク(右)と朝鮮親善協会のアレハンドロ会長© 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS

ランド研究所の報告書によれば、制裁を逃れるための団体が、アフリカ地域ではウガンダ、タンザニア、エジプト、ザンビアの4カ国に集中しているという。

北朝鮮は武器密売のほか、アフリカの独裁者が権勢を誇示するための巨大な建造物の製作、アフリカの十分ではない医療福祉基盤を利用した医療活動などを通じても、アフリカで外貨を稼いでいる。2010年にはアフリカ西部、セネガルで独立50周年を記念し、巨大な銅像が北朝鮮企業によってお披露目された。20億円の建設費用がかかったとされる。欧米から独裁者と批判を浴びるジンバブエのムガベ大統領は生前、自身の銅像2体の製作に500万ドル(5億6千万円)を北朝鮮に支払ったという。

同研究所の報告書は、北朝鮮が毎年5億ドル(約56億円)から10億ドル(約1100億円)の貿易赤字を出していると指摘。制裁違反の活動で赤字を埋めているとし、このうち、アフリカで1億ドル(約110億円)の利益を上げていると推計している。

高英煥氏は、北朝鮮に対する制裁決議を守らない動きがアフリカ諸国で続いている背景について「アフリカは心情的に北朝鮮に連帯感を感じている国が多い。武器も安いから経済的にも助かる。なかなか、関係を断ち切れないだろう」と語る。

ブリュガー監督によれば、北朝鮮の在スウェーデン大使館が映画は事実無根とするコメントを出す一方、ウガンダ政府は沈黙を続けているという。