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円安・円高とはどういう状態?わかりやすく簡単に解説

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2023年4月までの10年間にわたり、日本銀行総裁を務めた黒田東彦氏の写真
2023年4月までの10年間にわたり、日本銀行総裁を務めた黒田東彦氏。就任後間もなく、日本経済のデフレ脱却のため「2%インフレ目標を2年で実現する」と宣言。大胆な金融緩和の効果で、為替相場は円安方向に転じ、輸出企業などの業績が回復したほか、株価も大幅に上昇した=2013年4月、東京都中央区の日銀本店、遠藤啓生撮影

円安・円高という言葉をよく耳にしたことがあるかと思います。日本の経済や生活に影響を与える重要な要素であるこの状態について、わかりやすく解説します。

円安・円高とは

円安・円高とは為替相場(日本円を外国の通貨に両替する際の交換比率。為替レートとも言う)の変動を示す指標で、外国通貨に対する日本円の価値の状態を表します。円安は外国の通貨に対して日本円の価値が下落し、逆に円高は外国通貨に対して日本円の価値が上昇する状態を指します。

円安とは

円安は、外国通貨に対して相対的に日本円の価値が下落し、円相場(円に対する外貨の相対的価値。為替レートのこと)が下がる状態のことを指します。つまり、同じ金額の外国通貨を購入するために必要な日本円が増えることになります。

円高とは

円高は、日本円の価値が外国通貨に対して相対的に上昇し、円相場が上昇する状態のことを指します。つまり、同じ金額の外国通貨を購入するために必要な日本円が減ることになります。

なぜ円安・円高は起こる?

円安・円高は、為替相場の変動によって生じます。為替相場は各国通貨の需要と供給のバランスによって決定されるため、そのバランスが変化することで円安・円高の状態が生じます。具体的な要因としては以下のようなものがあります。

①日本の経済状況

国内の経済状態や成長率、雇用の状況などの経済指標が円相場に影響を与えます。経済の好調さや成長の期待が高ければ、外国からの投資が増加し、円高の状態になることがあります。

また、日本からの輸出が拡大し、日本製品が海外でたくさん売れれば、日本の会社などは受け取った代金(基軸通貨であるアメリカドル)を日本円に替えようとする動きが活発になるため、日本円の需要が増え、その結果、円高になりやすくなります。

一方、経済状況が悪ければ外国からの投資が減ったり、日本製品の海外輸出も減少したりするので、日本円に対する需要が減り、その結果、円安になる可能性があります。

対ドル円相場の推移を表したグラフ

②利子率の差

金利は為替相場に大きな影響を与えます。もし日本の金利が他の国の金利よりも高ければ、外国の投資家が日本の国債を買ったり、日本の銀行に預金しようとしたりするので、日本に資金が流入し、その結果、円高になると考えられます。

逆に日本の金利が他国より低ければ、日本の金融機関などから円を借り入れ、それを相対的に金利が高い外国通貨に交換して資産運用しようとする動きが活発化します。金利差分が収入となるためですが、円が売られて外国通貨が買われるこうした取引が増えるため、円安の状態になります。

③為替介入

国の中央銀行や政府が為替市場に介入することで円相場を操作することがあります。例えば、円高の状態では、日本製品の価格が外国では高くなるので国際競争力が低下し、輸出が減ります。輸出産業などが減収となり、日本の経済が悪影響を受けるため、政府や中央銀行が円相場を調整し、円安の状態を維持しようとすることもあります。

日銀の金融緩和縮小の決定を受け円高が急速に進んだ
日銀の金融緩和縮小の決定を受け円高が急速に進んだ=2022年12月20日、東京都港区の外為どっとコム、福留庸友撮影

為替相場の変動の仕組み

為替相場は各国通貨の需要と供給のバランスによって変動します。経済の状況や金利、投資の動向など、様々な要素が関与しています。需要と供給のバランスが変化することで、円安・円高の状態が生じます。

為替相場の変動による影響

円安・円高の状態は、日本の経済や産業に大きな影響を与えます。

例えば、円安が進むと輸出業や観光業にとっては競争力が高まるメリットがあります。日本の製品やサービスが海外の人たちにとっては相対的に割安となるからです。逆の理屈で円高は競争力の低下を招くことがあります。

為替差益とは何か?

為替レートの変動で生じた利益を為替差益(かわせさえき)と言います。逆に損失が生じれば、それを為替差損(かわせさそん)となります。

為替相場は常に変動しており、取引と決済のタイミングでレートが異なる場合、利益を得たり、損をしたりすることになります。

例えば、アメリカドルを1ドル=105円のときに購入したケースを考えます。為替レートが円安となり、1ドル=120円となった場合、購入していたアメリカドルを日本円に交換すれば、1ドルあたり15円の利益が出ます。これが為替差益です。逆に為替レートの円高が進み、1ドル=100円となれば、1ドルにつき5円の損失が生じます。これが為替差損です。

日本における円安のメリット

円安の状態では、以下のようなメリットが生じることがあります。

①輸出業への恩恵

円安の状態では、日本の輸出業界が競争力を高めることができます。円安によって、外国での日本の製品やサービスの価格が相対的に安くなるため、需要が増加し、輸出量の増加や輸出関連企業の利益増につながることがあります。

②観光業への影響

円安では、日本への観光客数が増加することがあります。日本を訪れる外国の旅行者にとって、円安であれば日本円より自国通貨の価値の方が相対的に高い状態にあります。自国通貨を日本円に両替すると、より多くの日本円が手に入り、旅行費用や買い物をはじめとする日本での滞在費用も相対的に安上がりになります。つまり、外国の人にとってみれば、円安のタイミングで日本を訪れる方がよりお得だということになり、その結果、観光客が増えます。

参拝客で混み合う浅草寺の写真
参拝客で混み合う浅草寺。行列のあちこちに外国人観光客の姿があった。円安の影響で日本への旅行は海外の人にとって割安になっていた=2015年1月、東京都台東区、上沢博之撮影

③海外投資への促進

円安の状態では、日本企業は海外進出しやすくなります。

例えば1アメリカドル=100円の為替相場のときにある商品を10ドルで売ったとしましょう。売上は100×10=1000円ですが、円安が進んで1アメリカドル=120円のときに10ドルで売れば、売上は1200円になります。差額は200円となり、円安の方がもうけが大きくなります。海外投資の促進につながるでしょう。

④農産物や水産物の輸出拡大

円安の状態では、日本の農産物や水産物の輸出にとって「追い風」となることがあります。円安によって海外市場での日本の農産物や水産物の割安感が高まり、売れ行きが上がる傾向があります。その結果、農林水産業への収入増につながります。

⑤日本国内での雇用確保

円安の状態では、輸出業や観光業の成長により雇用が増加する可能性があります。企業の業績向上に伴い、新たな雇用機会が生まれることで、雇用確保に寄与することがあります。

これらの要素により、円安の状態が一定期間続くことで、日本の経済成長や国内産業の発展が期待されます。

ただし、円安が持続することでインフレーションのリスクや海外債務の増加などの懸念もあるほか、逆に輸入業者にとっては「逆風」となりかねません。バランスが大切となるでしょう。

日本における円安のデメリット

円安は以下のようなデメリットを生じさせることがあります。

①インフレーションのリスク

円安の状態では輸入品の価格に上昇圧力がかかり、消費者物価指数も上昇するリスクがあります。それに伴い、生活費の増加や購買力の低下が生じる可能性があります。

②燃料・原材料の価格上昇

円安の状態では、燃料や原材料の価格が上昇することがあります。これは、燃料や原材料を製造するための原油や非鉄金属などの価格が相対的に常用するためです。

この影響はエネルギー業界や製造業などに大きく影響を与え、生産コストの上昇につながることがあります。

③海外旅行者の減少

円安の状態では海外に旅行すると費用が割高になります。日本円の価値が下がっているため、同じ金額を外貨で入手するために、より多くの日本円が必要になるからです。ホテルの予約、食事、観光施設での入場料、土産物の購入など、あらゆる場面で出費がかさみます。

④高度な技術を持つ製品の価格低下

円安の状態では、日本の高度な技術を持つ製品の競争力が低下する可能性があります。輸出が好調であっても、それが円安に支えられたものであれば、日本の企業は技術力を高めて商品の品質を向上させたり、低コストで作ったりする努力を怠る可能性があります。

その結果、海外の製品やサービス本位で比較した場合、競争に勝てなくなることもあり、利益の減少につながる可能性があます。ひいては、研究開発への投資が減ったり、新技術開発の動きが鈍くなったりする懸念も生じます。

⑤外貨建て債務の増加

円安の状態では、円に対する他国の通貨の価値が上昇するため、日本企業や政府などが保有する外貨建て(購入から支払いまで外貨で行う)の債務を返済する金額が増加する可能性があります。

まとめると、円安の状態が長期間続くことで日本経済に悪影響を及ぼすことがあります。円安の影響はバランスを保ちながら、為替政策や経済政策を適切に調整することで最小限に抑える必要があります。

円安のメリットとデメリットをまとめた図

日本における円高のメリット

円高の状態には以下のようなメリットが生じることがあります。

①輸入品の安価化

円高の状態では、日本が輸入する海外製品や原材料の価格が相対的に下がります。

例えば、円の価値が外国通貨に比べて上がり(円高)、1ドル100円だったのが1ドル90円になった場合を考えてみましょう。それまでは1ドルを手に入れるのに100円かかっていたのが、90円で済むようになるのです。これによって、消費者は安価な輸入品を購入することができ、生活費の削減につながる場合があります。

円高還元セールをするスーパーマーケットの写真
円高によって割安になった輸入肉をセール販売するスーパーマーケット=1993年4月、名古屋市港区春田野のジャスコ南陽店

②海外旅行者の増加

円高であれば、同じ額の日本円でも相対的に多くの外貨を手に入れることができるので、海外旅行時におけるホテル代や交通費、飲食代などについて割安感が高まります。

円高で海外旅行熱が高まり、旅券を申請する女性の写真
東京都旅券課受付で旅券を申請する女性。円高で海外旅行熱が高まり、安いドルを持って海外旅行へ。1975~1977年に1ドル=300円前後で推移していた円・ドル相場は1978年になって急激に円高が進み、この年の10月には当時の最高値1ドル=152円をつけた=1978年、東京・有楽町

③投資への引き込み効果

円高の状態では、外国からの投資に対して安定感や利回りの魅力が高まることがあります。このため、資本の流入が増え、経済的な成長や雇用創出の促進に寄与する可能性があります。

④海外での買い物・投資のメリット

円高の状態では、海外での買い物や投資が有利になります。外国の商品や不動産などを相対的に安く購入することができ、資産の多様性や投資リターンの向上に貢献することがあります。

これらの要素により、円高の状態が一定期間続くことで、消費者への経済的恩恵や国内産業の成長が期待されます。

ただし、円高が持続することにより輸出業界への影響や経済成長の鈍化などの懸念もあるため、政策の適切な調整が求められます。

日本における円高のデメリット

円高が進むと、海外における日本の製品やサービスの値段が相対的に割高になるので、価格競争力が低下するというデメリットがあります。その結果、日本企業の海外進出や展開が減少し、経済活動の停滞や雇用の減少が懸念されます。

①輸出業への悪影響

円高の状態では、日本の輸出業界が国際競争力を失いやすくなります。輸出品の価格が海外で割高になるため、日本製品に対する需要が低下し、輸出量の減少や輸出関連企業の利益の減少につながる場合があります。

②製造業への影響

円高の状態では、輸入された海外製品が割安になるので売れやすくなり、逆に割高感のある国産製品は売れなくなる可能性があります。結果、国内の製造業にとっては打撃となります。

円高不況を乗り切るため、名古屋市にある本社と工場を愛知県大口町の工場に集約させることが決まった鉄工所
円高不況を乗り切るため、名古屋市にある本社と工場を愛知県大口町の工場に集約させることが決まった鉄工所=1978年11月、名古屋市北区

③観光業への悪影響

円高の状態では、日本を訪れる観光客数が減少する可能性があります。海外からの旅行者にとっては、円高によって日本での旅行費用が割高になるなどして、日本への旅行の魅力が低下する場合があります。

これらの要素により、円高の状態が長期間続くことで日本経済に悪影響を与えることがあります。円高の影響を最小限に抑えるために、為替政策や経済政策の適切な調整が求められます。

日常生活における円安・円高の影響とは

円安の影響

円安の状態では、海外旅行の費用が増加したり、輸入食品の価格が上昇したりする可能性があります。一方で、外国からの訪問者数が増えて観光業が潤うなど、プラスの影響を与えることもあります。

円高の影響

円高の状態では、海外旅行の費用が割安になったり、輸入品の価格が下がったりする可能性があります。一方で日本を訪問する人が減少するなど、観光業に悪影響を与えることがあります。

海外旅行者にとっては、現地通貨の為替レートやクレジットカードの為替手数料などを意識することが重要です。

円高差益還元の実情視察で、スーパーを訪れた中曽根康弘首相
円高差益還元の実情視察で、スーパーを訪れた中曽根康弘首相。店員に安くなった外国製のネクタイを見立ててもらう=1986年6月、東京都江戸川区西葛西のジャスコ葛西店

円安が円高に、円高が円安になるにはどうすればいいか

円安が円高になるには

円安から円高になるためには、日本経済の活性化や経済政策の変化、総需要の増加などが必要です。例えば、海外への輸出が好調になると、外貨で受け取った代金を日本円に交換することが増え、日本円の価値が上がって円高になる傾向があります。

また、金利が外国より日本の方が高いと、日本円で預金をしてより多くの利息を受け取ろうとする動きが出るため、円高につながります。

円高が円安になるには

円高から円安になるためには、日本と海外との金利差が関係します。特にアメリカドルと日本円との日米金利差の影響は大きいです。

例えばアメリカより日本の金利の方が低ければ、低金利で資金を運用するより高金利で運用した方が多くの利益が見込めるため、日本円をアメリカドルに替える動きが加速(日本円に対する需要が低下)し、その結果、円安が進みます。

ほかにも、日本経済の成長の鈍化や経済政策の変化、総需要の減少なども要因になります。

日銀が金利を上げられない理由

日本銀行の異次元金融緩和政策は、消費者物価上昇率2%を目的として2013年から始まりました。物価が安定し、国民経済が健全に発展する状況を整備するのが狙いです。2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻し始めると原油価格や穀物価格が高騰、その影響で消費者物価も上昇し、2%を超えました(2023年8月現在で3.1%)。それでも日銀は「賃金と物価が好循環を続ける姿が確認できることが必要」(植田和男総裁、2023年9月の記者会見で)として、金融緩和政策を維持することを決めています。

ただ、日銀が金利上昇に向けた金融政策に転換することが難しい別の理由として、「財政破綻リスクの上昇」を指摘する専門家もいます。日本は大量の国債を発行し続け、債務残高は巨額にふくれあがっています。そんな中、金利が上がれば返済時により高い金額を払わなければならず(利払い費の増加)、その負担に耐えられなければ財政破綻に陥るというわけです。

また、国債の金利が上がることで日本経済全体で金利の上昇を招き、人々の消費や企業の設備投資などが冷え込み、大不況になる可能性もあります。

会見で記者の質問を聞く日本銀行の植田和男総裁の写真
会見で記者の質問を聞く日本銀行の植田和男総裁=2023年9月22日、東京都中央区、伊藤進之介撮影

まとめ

円安・円高の状態は為替相場の変動によって生じ、経済や生活に大きな影響を与えます。輸出業や観光業などにとってはメリットもあればデメリットもあります。日常生活や海外旅行でも円安・円高の影響を意識する必要があります。

円安から円高になるためには経済政策や需要の増加が必要ですが、その逆になるためには経済の成長鈍化や需要の減少が要因となります。円安・円高の状態は常に変動するため、為替相場の動向を注視し、適切な判断が求められます。