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ビッグマック指数が映す割安の日本 ウクライナ侵攻でインフレ加速…最悪シナリオは?

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ロシアによるウクライナ侵攻の間、地雷が埋められた穀物用の農地。破壊された軍用車両が野ざらしにされている。ウクライナは世界有数の穀物輸出国だが、侵攻の影響で生産や輸出が滞り、世界的な穀物価格の上昇が起きている
ロシアによるウクライナ侵攻の間、地雷が埋められた穀物用の農地。破壊された軍用車両が野ざらしにされている。ウクライナは世界有数の穀物輸出国だが、侵攻の影響で生産や輸出が滞り、世界的な穀物価格の上昇が起きている=2022年5月24日、ウクライナ・チェルニーヒウ、ロイター

総務省が発表した日本の2022年4月の消費者物価指数(CPIは前年同月比でプラス2.1%(生鮮食品を除く場合)となった。

私たちが日々、買っている物が1年前と比べて2.1%高くなっていると考えると生活への負担が大きいことがわかる。実は菅政権下の景気刺激策で押し下げられていた携帯電話などの通信料を除くと昨年後半から物価上昇率は2%台に達していた。

原油などのエネルギー価格が高止まりしていることから2%台の物価上昇率は当面続くというのが多くの専門家の見通しである。

消費者物価指数の推移(前年同月比、2017年1月~2022年4月)
消費者物価指数の推移(前年同月比、2017年1月~2022年4月)=総務省統計局のデータから作成

世界を見るとさらに激しいインフレの状況となっている。アメリカの2022年3月の同物価指数は1年前と比べて8.5%上昇している。なんと40年ぶりの物価上昇率の高さなのだ。

新興国で8%の物価上昇は普通だが、アメリカのように経済が成熟した先進国で8%上昇するのは異常事態である。ユーロ圏も同期間で7.5%の物価上昇率を記録し、過去最高の水準となった。

現在の物価上昇の原因はロシア・ウクライナ戦争による原油価格の急上昇と思われがちだ。だが、それ以外にも多数あるだろう。その証拠に物価は世界的には2021年の初頭から上がり始めているからだ。

各国の政策である脱炭素の流れを組んだエネルギー価格全体の上昇、コロナで抑圧されたリベンジ消費の爆発、製造業のサプライチェーン崩壊による製品不足や人材不足による製品価格高騰など様々な要因が複雑に絡み合い、現在の世界的なインフレを引き起こしているとみられる。

アメリカは8%、ユーロ圏は7%物価が上がる中で日本の物価上昇は2%で止まるだろうか。暴騰する原油などのエネルギーをほぼ輸入に頼っている日本だけが2%に留められる合理的な理由は誰も思いつかないはずだ。

ロシアによるウクライナ侵攻の間、繰り返し砲撃されて破壊された穀物用のサイロ
ロシアによるウクライナ侵攻の間、繰り返し砲撃されて破壊された穀物用のサイロ=2022年5月31日、ウクライナ・ドネツク、ロイター

円安が加速、インフレに拍車

インフレと並んで金融市場で注目されている話題は円安である。2022年4月21日現在、米ドル円が128円の水準だが、2021年1月1日の103円から24%、2022年1月1日の115円から4カ月足らずで11%も円安になっている。

円安の主な理由は日米の金利差拡大にある。アメリカが金利を上げ始めた一方で、日本は金融緩和を維持している。金利が高い通貨に資金が集まるので円が売られ、米ドルが買われているわけである。

この急激な円安もインフレを加速させる要因となっている。海外から原材料や製品を輸入する際に米ドル決済が基本なので、円安になると円評価ベースでの仕入れ価格が大きくなる。

つまり前述の企業物価が高くなり、最終的には価格転嫁により個人の消費物価に値上げとして反映されるからだ。

ただ、円安から消費物価の上昇までにはタイムラグがあり、本当の影響はこれからだと考えている。

かつて円安は日本の経済や株式市場にとって「福音」であった。日本は輸出企業が多く円安だと円評価ベースの売上が増えて、業績にとってプラスに働くからだ。しかし、現在はインフレに拍車をかける困った現象と認識されているわけだ。

今後はどうなるのか。物価や貿易などを考慮し、総合的な通貨の実力を示す実質実効為替レートで見ても、円は変動為替相場制が始まった1970年代以来の低い水準となっている。

アベノミクス以降、量的緩和の円安政策で9年という長い年月をかけて円は現在の水準となっている。日銀が政策を変えることができないのと同様に、簡単にかつての円高に戻ることは考えづらいだろう。

物価上昇で給料はどうなる?

物価が上がっても、同じように給料が上がれば、会社に勤めている人にとっては経済的なダメージはあまりない。

良いインフレであれば消費が増えて、会社の利益も増えるので、給料が上がる流れになるが、今回の場合はそうはいかない。

物価が上がっている主因がコストの増加によるものだからだ。原油や仕入原材料、輸送費、人件費など全てが企業のコスト増加として業績を圧迫している。

企業が商品を仕入れる際の物価である2022年3月の国内企業物価指数は1年前と比べて9.5%上昇している。つまり前述の消費者物価プラス2%との差7%は企業が消費価格に転換できず、コスト増加を損失として吸収しているということだ。

そんなコスト増で業績が圧迫されている企業に給料を増やす余裕があるはずない。数字だけで考えると物価は上がっても、給料は上がらない、もしくは下がってしまう世界が近づいている可能性が高い。

毎年2%物価が上がって、給料が上がらないということは、実質的には毎年2%給料が下がっているということを理解しなければならない。年収500万円であれば毎年10万円減るわけだ。10年後の年収は400万円近くまで減っている。

資産も毎年20万円減少?

給料だけでなく保有している資産にも同じことが言える。毎年2%物価が上がるということは毎年2%ずつ実質的な資産価値が目減りしていくということである。

日本人の平均貯蓄額は約1000万円なので平均で毎年20万円ずつ資産が減り続ける計算になる。3%なら毎年30万円、4%なら毎年40万円となる。

死活問題になるのが現役を引退した年金生活者である。これから新たなお金を稼ぐことができない年金生活者は、引退までに貯蓄した虎の子の預金が毎年減っていくことになる。

年金は物価が上がると増えるようにはなっているが、物価と同じくらいには増えないようになっている。つまり物価が2%上がっても年金は1%くらいしか増えない。

日本人は過去20年のデフレ(物価下落)のせいで、何もしなければ資産が減っていくというインフレ特有の感覚を忘れてしまっている。

しかし、物価に火がついた今、高度成長期やバブルの時代ほどではないにしろ、働いたり投資したりしないと物価の上昇に置いていかれるという感覚を改めて持つ必要があるだろう。

ビッグマック指数が浮き彫りに

イギリスの経済誌エコノミストが発表している各国の物価の水準を表す「ビックマック指数」という指標がある。

世界中で販売されていて原材料も同じビックマックの価格を比較すれば、現在の各国の物価水準がわかるというわけだ。

2021年7月発表の日本のビックマック指数によると日本はアメリカよりもマイナス37.2%物価が低いという結果になった。

国別の指数を物価が高い順にランキングすると日本は57カ国中31位であった。アメリカは5位、韓国19位、日本より新興国のイメージが強いブラジルは14位、タイは23位である。

マクドナルドのビッグマック。ほぼ同じ品質で世界中で売られている一方、単価は現地の原材料や人件費、光熱費などで決まるため、各国の購買力を比較する指数として利用されている
マクドナルドのビッグマック。ほぼ同じ品質で世界中で売られている一方、単価は現地の原材料や人件費、光熱費などで決まるため、各国の購買力を比較する指数として利用されている=日本マクドナルド提供

世界でGDP2位の日本が31位というのはあまりにも低すぎるだろう。2000年の日本は5位だった。順位が下がったのは、この間に進められたアベノミクスによって過剰な円安誘導が続いたからだと考えられる。日本経済の本来の実力を考えればもっと物価は高いはずである。

現在の割安すぎる日本に目をつけて海外企業はM&Aで日本企業を買収し、ファンドは不動産を買い漁っている。また現在コロナでストップしている海外旅行が再開したら、多くの外国人が日本の割安な物価を目当てにやってくるだろう。

そういった海外勢の「爆買い」が起爆剤となり、さらなる日本の物価上昇をもたらす可能性が高いと考えている。
なおビックマック指数は米ドル建てで計算されるため自国通貨が安ければ安いほど数値が低くなる。2021年7月の米ドル円は110年、4月21日現在の128円で再計算するとランキングは38位まで下落する。

同指数で見ても円安は日本の物価下落に一役買っているわけである。

資産防衛の方法はあるのか?

物価が上がり資産価値が目減りするなら、成長して価値が増大する資産を持つことが防衛手段となる。日本人の資産は現預金が中心なので、ほとんどの人がインフレに無抵抗と言える。

物価が毎年2%上がるなら、毎年2%成長する資産を保有しておけば価値は減らず、プラスマイナスゼロというわけだ。保有資産が毎年4%成長するなら差し引き2%価値が増大することになる。

特に好ましいのはインフレのときに資産価値が上昇しやすい資産を持つことである。

例えば株式は代表的なインフレ連動資産である。株式を持つということは会社を保有することである。

基本的に物価が上がると会社が保有している資産の価値や売上が上昇するため、株式は物価上昇に資産価値がついていける可能性が高い。

次に原油などコモディティ(商品)資産。原油の上昇は全ての製品の物価上昇につながる。ならば原油の価格に連動する資産を持てば、物価上昇のリスクヘッジになるというわけである。

原油そのものを保有することは不可能なので、価格が連動する金融商品化されたETF(上場投資信託)などがそれに該当する。原油だけでなく金やその他の商品価格に連動する商品も多数存在する。

実物の不動産も物価が上がると価格が上昇する可能性が高いのでインフレ対策となる。不動産は銀行借入で購入できるので対策のレバレッジ(テコの原理)効果が大きい。

不動産を探すのが面倒で、借入のリスクも取りたくないということであれば、不動産を金融商品化した不動産REITを保有するのも効果的だろう。

日本人は預金だけしか保有していない人が多いので、物価下落にオールインした資産構成となっている。しかし前述の通り日本でもインフレのリスクが高まりつつあり、紹介したインフレ時に成長するような資産を持つことが、これからは必要になる可能性高いと考えている。

最悪のシナリオは?

消費が増える→物価が上がる→会社業績が良くなる→給料が上がる、の繰り返しが良いインフレの流れである。好景気が伴った良いインフレを過度に恐れる必要はない。

本当に恐いのはスタグフレーションで、物価が上がるが、景気は停滞しているという状態だ。

スタグフレーションだと前述のインフレの対策も意味をなさなくなる可能性がある。景気停滞は株、原油、不動産の全ての価格においてマイナスに働くからだ。

つまりスタグフレーションになると紹介したようなインフレの対策を講じても通用しない可能性があるということである。

今のところ経済指標を読み解く限り、景気停滞の兆候はないが、今回のようなコスト増加が引き起こすインフレはスタグフレーションにつながる可能性があり、十分に警戒が必要である。