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日本版DBS、子どもの性被害をしっかり防ぐ制度に フローレンス会長・駒崎弘樹さん

日本版DBS こどもの性被害どう防ぐ? 更新日: 公開日:
黒いジャケット、白いTシャツ姿の男性がソファにすわって真剣な顔で話をしている写真
フローレンスの駒崎弘樹さん=東京、松本敏之撮影

教員や保育士など、子どもに関わる職業につく人たちに性犯罪歴がないことを確認し、性犯罪歴がある場合は、子どもに関わる職業に就くことを制限する制度「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の議論がスタートした。管轄するこども家庭庁の有識者会議での議論に注目が集まる中、早くからこの制度の設立を訴えてきた、認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹会長に制度の必要性やポイントなどを聞いた。

性犯罪の前歴ある人は子どもに関わる仕事を制限

――子どもへの性犯罪が繰り返し起きています。

子どもが被害者になる性犯罪のニュースを見て、ずっと胸を痛めていました。子どもに関わる仕事をしているので、この子たちをどう守れば良いのか?と。

また、フローレンスは訪問型の病児保育事業をしているので、もしうちでそんな事件があったら?とも考えました。保育士は男性であろうと女性であろうと、子どもと一対一になることの多い仕事ですから。

それで、海外での事例を調べるようになりました。そのなかでイギリスなどにDBSという制度があることを知りました。これは一つのソリューションだと思い、ブログで必要性について発信しました。2017年のことです。

――子どもへの性犯罪が特に問題になるのは何故でしょうか。

子どもに対する性犯罪について調べると、ほんとうに「闇」が深い。一人の加害者が何百人もの子どもを相手に犯罪をしていたり、子どもたちを選び、周到に準備をして犯行に及んでいたりします。

そもそも性犯罪自体、事件化されない、表に出ない暗数(統計に表れない数字)が多いのですが、被害者が子どもですからなおさら「事件」にならないものが多いです。何があったのかはっきり言えない、何をされたかも分からない状態ですから。

被害を明かした人に「なぜ何十年も経ってから告発するんだ」ということが言われることもありますが、被害者はその記憶を氷で固めて表に出ないようにしているような状態なんです。だけど何かのきっかけでそういう記憶やトラウマが出てくる。

被害の告白までには長い時間かかるし、その傷が人生のいろんなところに影響を及ぼします。性犯罪の被害者は、被害を受けていない人に比べて自傷行為や自殺のリスクが2倍以上になるというデータもあります。心のダメージがそれだけ大きいということです。

子どもの場合も、自分を守ってくれなかった周囲への不信感が募り、自己肯定感もものすごく下がってしまう。それが健全な人間関係の構築を阻む可能性もあります。

また、あまり知られていませんが、リビクティマイゼーション(再被害者化)という問題もあります。援助交際など、子どもが自ら性暴力被害に遭いに行ってるかのような行動が、そういった幼児期の性被害に起因する場合があるのです。

様々な意味で、被害がその一回だけではなく、ずっと続いてしまう。性犯罪が「魂の殺人」と言われる理由です。

フローレンスの駒崎弘樹さん=東京、松本敏之撮影

「こども家庭庁」が行政の横串になり、議論進む

――そのような問題意識から、日本版DBSが必要だとかなり以前から訴えていたんですね。折しもベビーシッターによる連続わいせつ事件が起きました。

2020年に起きた、ベビーシッターマッチングアプリのシッターによる連続わいせつ事件ですね。非常に衝撃的でした。この事件をきっかけに、ほんとうにDBSを実現しなくては、制度化しなくてはと動き始めました。

ベビーシッターのマッチングという業態自体、危ういなと思いながらも、時代の流れでこういう形の保育もありなのかと見ていましたが、事件が起きて「これはだめだ」と。大人が享受する利便性の裏で子どもが犠牲になってしまう。これは放ってはおけないと思いました。

事件の後、2020年の夏に、日本版DBSの実現に向けて会見を開き、「 #保育教育現場の性犯罪をゼロに」のハッシュタグで発信も行い、署名集めなど本格的に動き始めました。

――制度の実現に向けアクションを起こして、どのような反応でしたか。

政治家の皆さんは、「こういう制度があるのは知らなかった」という感じでしたね。当時の法務大臣だった森まさこさんに直接お話しして署名をお渡ししました。

「縦割り」の行政も問題でした。法務省が最初はそういう態度だったので、では厚労省かと思えば、「そういう刑事事件関係はやっぱり法務省」。教育関係のところは文科省ですが、文科省もやはり「うちが担当じゃない」などです。

それが今回、こども家庭庁ができて、子ども関連の行政をすべて横串に刺して進めるための窓口ができました。それで一気に進んだと思います。

「前歴」や職業の範囲 「ほんとうに子どもを守れる制度に」

――フローレンスが提言している日本版DBSのポイントはなんでしょうか。

DBSはイギリスの制度実施機関を指し、Disclosure(公表)と Barring (排除)つまり犯罪歴の情報開示と、子どもに関わる仕事への就業を制限するという意味です。犯罪歴をチェックする制度や、公的機関が発行する証明書を就業先への提出を義務付けるなど、過去に性犯罪歴がある人が子どもに関わる仕事に就けないようにする制度です。

イギリスでもフランスでも、雇用者は被雇用者の犯罪歴の照会を求めることができる。子どもに関わる職種の場合、イギリスでは性犯罪の前歴がある人を雇うことも罰せられます。前歴照会と制限が義務化されているのです。

黒いジャケット、白いTシャツ姿の男性がソファにすわって真剣な顔で話をしている写真
フローレンスの駒崎弘樹さん=東京、松本敏之撮影

日本版の制度を考えたときに、僕はこの「無犯罪」について、有罪になった人だけでなく、不起訴の人も対象にするべきだと提言しています。刑事事件としては不起訴になったけれど懲戒処分を受けた人もいます。「前科」だけでなく「前歴」までチェックが必要です。

それから対象となる仕事も、保育士や教師といった有資格者、フルタイムで働いている人だけじゃなく、例えばボランティアや学習塾の講師など含め、子どもに関わるすべての職業を対象とすべきです。今まさに学習塾に網をかけることが法律上難しいという議論がなされていますが、子どもを犯罪から守るという大原則に立ち返ってほしいと心から思います。

これまで起きてきた子どもが被害者の性犯罪を考えても、起訴されていなくても懲戒になった教師が、別の学校でも子どもを狙うことがあります。別の学校やスポーツクラブ等の別の場所で子どもをねらうことがあるので、前歴にまで網をかけないと、実際に子どもを守るのは難しいんです。

ただ、現状の議論を見守っていると対象となる職種などについて、非常に限定的になりそうで危機感を持っています。

――制度の実現に向けて進んでいますが、危機感の方が強いんですか。

すごく心配しています。

「とりあえずこの程度で」と制度を作ってしまって、それで失われるのは子どもの安全ですから、ここだけはきちんとして欲しい。

そして、日本版DBSができても、それで防げるのは再犯だけなんです。子どもを守るために、初犯を防ぐ仕組み、日本版DBSの次の手も必要だと思っていますので、なおさらこの最初の制度を骨抜きにされたくないという強い思いはあります。

――ただ、憲法の職業選択の自由から、就業制限につながると制度に慎重な意見もあります。

職業選択の自由って、いまでも金科玉条のものではありませんよね。どんな人でも本人がやりたいからってなんでも仕事ができるわけじゃない。一定の条件のもとで制限されているのが現状です。それは公共の福祉に反しない限りということでしょう。

子どもの権利と安全というものを考えたときに、「性犯罪の前歴がある人には、子どもに関わる仕事をさせない」というのは妥当だし、必要なことではないでしょうか。

子どもを「性の対象」としない、性犯罪に厳しい文化を

――世論の後押しも必要ですか。

実際アクションを起こしてみると、むしろこういう仕組みが「なぜないの」という反応が多いです。

なのに、この制度への関心が低かったのは、日本では子どもを狙った性犯罪が長い間「ないこと」にされてきた影響ではないかと思います。親や教師などによる性犯罪は「考えられない」「あり得ない」「超レアケース」と思われてきましたから。

そもそも性犯罪についてもその怖さ、その影響を見ようとしないから長らく放置されてきたのではないかと思います。その意味で世論や政治家などに今後も働きかけていきたいと思っています。

――そもそも、日本では性犯罪、特に小児への性犯罪に対する認識が甘いことが影響していると。

アメリカなどでは小児への性犯罪が社会的にとても厳しく扱われていますが、日本は比較的「おおらか」ですよね。

例えば、ジュニアアイドルの存在。小学生の「アイドル」にファンの大人たちが群がってハグするとか、欧米だとありえないと思うんです。子どもを性の対象にすることが見過ごされている状況は、忌むべき文化だと思います。

ただ、こういう文化や一般的な認識も、制度ができることによって変わっていくものだと思うんです。日本版DBSができれば、子どもに関わる仕事につくには、前歴が必ずチェックされることになりますから。より性犯罪に厳しい文化を創っていく意味でも、期待しています。