――著書などで日本の性の多様性を紹介しています。
国際学会などで話すとき、「日本は建国神話の英雄に女装者がいます」と必ず紹介します。「古事記」でヤマトタケルが女装して九州の豪族を討つエピソードですね。皆さんとても驚きます。
能や歌舞伎にも異性装は欠かせません。男でもあり女でもあるという双性を持つ(性別を越境する)者は、通常と異なる力を持つと考えられたのです。
武士階層の「衆道」、江戸時代の陰間(女装で接客する少年)など男色(男性間の性愛)もありました。タイやインドにも男女二元論におさまらない性のあり方が根づいていました。
日本が大きく変わるのは明治以降。異性装や同性愛をタブーとするキリスト教に基づく価値観や医学が入り、富国強兵を目指す政府は戸籍で男女を二元化しました。でも、それはわずか150年前のことです。
――キリスト教の影響ということですが、性的マイノリティーの権利擁護を進めているのは欧米の方ですね。
欧米社会はキリスト教の影響をより強く受けています。イングランドで同性愛行為が犯罪でなくなったのは1967年ですから。ただ、あちらには抑圧や弾圧に抗して人権を勝ち取った歴史もあります。日本に欠けている部分です。多様な性があった伝統に、国際的な人権規範をうまく「接ぎ木」することが必要です。
重要なのは法整備です。2015年に渋谷区と世田谷区が同性パートナーシップ制度を導入しました。各種調査によれば、今、制度を取り入れた自治体は約300、カバーする人口は日本の7割です。同性婚訴訟でも注目すべき判決が出ています。政治が対応しなければなりません。
LGBT理解増進法は修正のたびに悪くなりました。マイノリティーへの「理解増進」を目的とする法律に、マジョリティーへの配慮をことさら条文として付加するなど、内容には不満も問題もありますが、日本で初めて性的マイノリティー全体に関係する法になります。「不当な差別はあってはならない」との理念に即し、当事者のために運用されるよう注視していきたい。
――社会の変化についてはいかがでしょうか。
企業は変わってきました。特に外資系の場合、本国で性的マイノリティーの従業員に対する障壁を解消すれば、日本の支社もならう。保険会社なども、外資系が同性カップル向けの商品を出せば、日本の会社も対抗上、出さざるを得ない。日本国内だけで完結している企業はまだまだ頭が固いですが、国際的な標準を無視しては生き残れない時代です。競争力を失ってしまう。
色々な人種や民族、宗教の人がいる。そして色々なジェンダー・セクシュアリティーの人がいる。多様性こそが豊かさで、力や面白さを生み出すのです。